MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

中村邦夫「幸之助神話」を壊した男(森一夫)

中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(森一夫)(〇)

 企業の理念と社会的価値Day5のケースの主人公であるPanasonic中村邦夫元社長の経営スタイルについてまとめられた1冊です。「破壊と想像」。事業部制や部課長制の廃止、強い事業への絞り込み、人員削減など、経営の神様、松下幸之助さんの呪縛を越えて、巨大組織をゼロから作り変え、V字回復を成し遂げた経営姿勢がよく分かる良書だと思います。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇中村社長はなぜ改革を成し遂げることができたのか、なぜその破壊力は人一倍強かったのか。逆説的ないい方になるが、幸之助との共通点が多かったからである。だからこそ、その引力圏から飛び出すことができた。ともに徹底した合理主義者である。

 

〇中村社長は、松下電器という複雑な巨大システムを一度ばらばらにして、21世紀型に再編成した。旧型とはすっかり違うものになったが、精神は変わっていない。「顧客第一」を旨に「素直な心」で経営する、当たり前のことを当たり前にやる。これが絶えざる革新の原動力になる。

 

〇「社長を長くやったので悪い情報が入らなくなった。このままやっていると独裁者になる」というのが、社長交代を決意した理由。

 

〇社長になったときから「長くやるつもりはない」と口癖のように言い続けてきた。宴会嫌いで無類の読書家。風貌からもストイックな印象。てらいなく物事を合理的に考え、決断すれば、結論に従って躊躇なく実行する。前例、慣行、いきさつ、既得権など、一切のしがらみにとらわれず、時代が今どこに向かい、松下にとって何が一番必要なのか、戦略的に思考する経営者である。

 

〇中村改革のキーワードの一つは、「エンパワーメント」で、事業領域ごとに大くくりにした分社が自主的に事業を運営する経営体制を理想としてきた。松下電器松下幸之助がいただけに、トップへの依頼心がもともと強い。これを何とか破壊したいというのが中村社長の考え方。

 

〇企業も成功が続くと何事も易きに流れ、組織の風土は本質よりも表面的なかたちを重視するように変わってくる。松下の事業部制及びその経理制度が守りのシステムに変質したのは、組織の老化現象によるもの。松下経営システムの主柱ともいうべき事業部制及び経理制度は、神聖にして犯すべからざるものという固定観念、思い込みが社内各層を支配していた。そのタブーに挑戦したのが中村社長。

 

〇中村社長が松下経営哲学から絞り出したエッセンス

①日に新た

②企業は公器である

③企業は顧客のためにある

 

〇「アメリカで異文化に接して、リーダーとしていかにやっていくか、現実にいろいろ苦労しました。やはりいちばん重要なのは、フェアネス、公正ということ。同じ目線で、常に対等に、人種、性別、年齢などには関係なく、互いの相手のスキルを認め合って仕事をしなくてはうまくいきません」

 

〇「自分たちの側から見て価値を創造していると思い込んでいてはダメ。お客様本位で、お客様の側に立った事業を営むことが大切」。顧客から遠くなった松下を再び顧客に近づける、という問題意識を一貫して持ち続けている。

 

〇組織、制度を変えることと、従業員一人ひとりの働き方の改善、能力の向上が両方相まって生産性は上がる。常々言っているように、「仕組みを変えれば、意識が変わり、行動が変わる」。従業員が変われば、生産性は自ずと上がり、競争力は強まるはず。

 

〇中村改革は、各事業を、言い訳無し、逃げ場無しの環境に置くことを意味した。グループ内での事業の重視を整理し、エンパワーメントで権限を委譲し、各ドメインが自分でリスクを取って意思決定できるようにしたことで、業績が悪化した場合には言い逃れできないくなった。各事業の強い、弱みがよく見えるので、対策はドラスチックに打てる。

 

 経営の神様が築いた社内文化や仕組みを変えていくという精神的に厳しい状況においても、ブレない一貫した姿勢がとても印象的でした。飲みにはいかず、毎晩、書斎に籠って何を考えていらっしゃったのか、思いを馳せるのに役立つ一冊でした。

中村邦夫―「幸之助神話」を壊した男 (日経ビジネス人文庫)

中村邦夫―「幸之助神話」を壊した男 (日経ビジネス人文庫)

 

 f:id:mbabooks:20160713230446j:plain