『平時の指揮官 有事の指揮官』(佐々淳行)
平時のリーダーシップ、有事のリーダーシップと言ってもよい、リーダーシップ本です。著者は、警察庁出身で防衛庁官房長、防衛施設庁長官等を歴任した危機管理のプロであり、現場の経験に基づき、有事と平時を比較して、リーダーシップについてまとめられています。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇日本型指導者
本質的に農耕民族だからか、村の長老タイプの調整能力に優れた、人格的に円満で敵のいない人が選ばれる。平時の日本人社会では、決断力と実行力に富む狩猟民族の族長タイプの個性豊かで自分の意見を持ったリーダーは歓迎されない。
〇指揮官とは
指揮官、責任者とは孤独な存在。その苦しみに耐え、人々のために最善と信ずる道を選び、その結果生ずる全責任を負おうとするのが指揮官魂。難しい決断を下す能力があるかないか、これこそ、族長と部下を分ける者。義務の遂行に必要な犠牲を払うのがいやなら、決してリーダーという役割を引き受けてはいけない。平時体制とシステムを一瞬にして切り替え、決断・責任・指揮命令・従わぬ者への強制という、苦しい非情な任務を果たすのが指揮官の宿命的な使命。
〇アフター・ユーとフォロー・ミー
「平時は紳士たれ、有事は武人たれ」。平時は、アフター・ユー(お先にどうぞ)、有事は、フォロー・ミー(我に続け)。
〇上司は常に見られている
現場指揮官の適格性の最低条件の一つは、姿勢・態度・挙措動作が指揮官に相応しい格好のいいものであること。40歳を過ぎた人は、自分の顔つきに責任がある。
・表情の統制:特に組織が危機管理体制に入ったときや、人間集団が極限状態のパニックに陥った時、自分の表情をコントロールすることは最も大切。
①省益を忘れ、国益を想え
②嫌な事実、悪い報告をせよ
③勇気を以って意見具申せよ
④自分の仕事に非ずと言うなかれ、自分の仕事であると言って争え
⑤決定が下ったら従い、命令は直ちに実行せよ
〇バイパス
バイパスとは、指揮命令系統において一人または二人以上を飛び越えること。緊急事態を除くほか、この権利は決して行使するべきではない。
〇素材情報に意見を加えない
素材情報は、そのまま自分の意見や解釈、憶測をつけ加えないで、上司に報告をするのがよい。「聞き取りのまま」「相手の言った通り、お伝えします」「見た通りの状況を報告します」といった具合に、相手の言った通り、あるいは現場で見た通り出来るだけ忠実に伝達し、描写して、事実を再現する。
〇計画立案
悲観的に準備し、楽観的に対処せよ。
仕事の計画を立てるにあたっては、士官はできるだけ多くの部下の時間と能力を活用すべきである。計画は書面にし、任務の重複を排除する。
〇本部会議と現場会議
・本部会議は戦略会議、現場会議は戦術会議。
・本部会議には通常十分なリードタイムがあるが、現場会議は待ったなし。
・本部会議は年次計画、来年度計画、優先政策課題の選定、経営方針などがテーマ、現場会議は分秒刻みの現場作戦会議、受けた命令を執行するための具体的手順の打ち合わせ。
・本部会議はリードタイムがあるから十分時間をかけて討議できるが、現場会議は本質的に上位下達であり、合意ではなく命令。
〇命令についての心得十一訓
①出しっぱなしは禁物
②必ず復命を求めよ
③時間のかかる任務は中間報告を励行させる
④必ず復唱させよ
⑤通しナンバーを打って発令簿に記録せよ
⑥できれば文書化せよ
⑦行動に関わる命令の前に「情報源を確認」
⑧勇気をもってショート・サーキット命令を出せ
⑨二段命令、三段命令の必要性
⑩ダブル命令、遊び駒は厳禁
⑪命令系統は一元化せよ
〇現場指揮官の最も大切な任務
作業現場で働く人々に共通の目的を示し、役割意識を植え付け、「我々感情」を育て、一言で言えば、日常の合理的な社会環境、つまり利益共同体的な職場で薄れがちな運命共同意識を鼓吹し、みんなが喜んでその能力を次第に発揮するような「作業気候」を醸し出すこと。
随所に事例が記載され、理屈と現実を行ったり来たりすることで理解しやすい内容となっています。著者自身の経験談が多いですが、ところどころについ先日読み終えた『ローマ人の物語』に登場する、カエサル、ハンニバル、スキピオ、アッティラ大王などが登場し、意外なところで繋がりました。
平時の指揮官有事の指揮官―あなたは部下に見られている (文春文庫)
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