MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

スポーツビジネス最強の教科書(平田竹男)

『スポーツビジネス最強の教科書』(平田竹男

 本書は、①欧米のスポーツビジネス(米国NFL、MLB、NBA、NHL、MLS、欧州サッカー)、②日本のプロスポーツ経営(プロ野球、Jリーグ、バスケ、個人競技)、③スポーツビジネスのトリプル・ミッション(勝利・普及・資金)、④メディアとスポーツ、⑤スポーツ産業(用品メーカー、スタジアム)から構成される、スポーツビジネス全体を俯瞰した一冊です。まず最初に、スポーツビジネスの全体像をとらえていこうとしたときに役立つと思います。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇最も成功しているスポーツビジネス(NFL:National Football League)

 NFLは、シーズン開始前にチームの黒字が決まっており、リーグとしての成功とチームとしての成功が相伴っている。

・ブラックアウト・ルール:ゲーム開始72時間前までにチケットが完売(アウェイチームに渡される分を除く)していない場合、開催地の地元都市域、約半径120km圏でそのゲームのTV中継が行われない。まず、地元ファンにスタジアムに来てもらうためのシステム。

レベニューシェア:TV放映権料、入場料収入、グッズ収入、スポンサー収入の4つをリーグ全体で管理し、所属32チームに分配。1チームの収入に占めるリーグからの分配金は平均約70%。

 

〇低迷するプロ野球

 球団は、親会社の広告宣伝費という名目で「赤字補てん」してもらうことで成り立ってきた。1954年国税庁長官通達により、球団経営で生じた赤字を親会社の広告宣伝費として損金扱いできることになったことが背景。

 

〇Jリーグの特徴

・Jクラブの収入の特徴は、放映権料を含むJリーグ配分金の割合が小さいこと(欧州と異なる点であり、クラブによる格差も大きくなる)。J2が発足してからは、1クラブ当たりの収入が減少している。

浦和レッズは入場料収入割合が大きいが、その他のクラブは広告料収入の割合が大きい。

 

〇人件費

 収入に対する人件費比率が60%を超えると経営的に危機だとされる。UEFAでは、2012年からファイナンシャル・フェアプレー(クラブが支出する移籍金、人件費などの経費は、クラブの営業利益を超えてはならないルール)が施行されている。J1では45~50%で推移。

 

〇トリプル・ミッション

 スポーツビジネスの成功には、①勝利、②普及、③資金の3つを好循環させることが不可欠。

・クラブ・球団

■勝利:クラブの成績

■普及:観客動員数、クラブ会員数、スクール会員数、メディア露出

■資金:放映権収入、スポンサー収入、入場料、収入、グッズ収入

・選手

■勝利:個の成績

■普及:観客動員数、ファンクラブ会員数、メディア露出

■資金:スポンサー収入、賞金、報奨金、出場料

 

〇ピラミッド型と逆台形モデル

・ピラミッド型:選手や代表チームの強化、育成において非常に重要であり、スポーツの競技力を高める上で不可欠だが、ピラミッドの上部に行けない人がピラミッドから早く出て行ってしまう構造になる。

・逆台形モデル:そのスポーツの経験者だけでなく、非経験者を巻き込んでスポーツを発展させるための構造。監督やコーチなどの指導者、スポーツメディア、スポーツ用品、スポーツ行政、財界などスポーツを支援する仕事は多いが、トップクラスは、その競技の出身者であっても、裾野を含めて考えればその競技未経験者であっても巻き込んでいくことができる。そのためには、競技に触れるきっかけを作っていくことが必要。女子サッカー普及のために、「モーニング娘。」に振ったサルをやってもらうなどの施策が行われている。

 

 一口にスポーツビジネスと言っても、多数の競技がある上に切り口は様々で、ここではまとめきれませんが、本書ではグラフも多数使って定量的な分析がなされており、競技間比較、チーム間比較ができ、とても参考になりました。勝利・普及・資金の3要素が循環し、ビジネスとして安定成長できる業界を築くためにできることを考える、そんなきっかけがつくれる内容だと思いました。

スポーツビジネス最強の教科書

スポーツビジネス最強の教科書

 

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