『捨てられる銀行』(橋本卓典)
金融庁担当の共同通信社の記者による本書。2015年7月に就任された森金融庁長官による「金融行政方針」にスポットをあて、これまでの「銀行の持続可能性」や「銀行の健全性」という金融機関を磨くことから、「銀行の先にいる地域の企業や経済の成長」に踏み込んだ背景やねらいをまとめた一冊。結構、実感とあっているところが多く、金融機関に関係する方にとっては気づきの多い内容だと思います。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇森長官の持論
「多くの地域金融機関は、地域の経済の発展なくしては、発展も持続可能性もない。地域の企業、産業をよくすることで金融機関自らが良くなるという両立が重要。健全性はこの時点のはなしではなく、将来に向けての健全性のはずだ」
〇金融機関を変えたもの
金融検査マニュアルと不良債権をあぶりだす資産査定検査、信用保証教会による100%の保証付き融資への丸投げが、地銀経営のすべてを変えてしまった。つまり、顧客に向き合うのではなく、金融庁を向き、「形式主義」「書面主義」「担保・保証主義」に変えてしまったのではないか。
〇金融検査マニュアル
1999年公表。検査マニュアルは抜本的な不良債権処理を断行するための経済対策としてつくられた。これこそが検査マニュアルの核心であり本質。
金融危機から立ち直る処方箋としては極めて有効であったが、「不良債権を生み出さないための銀行経営」にほとんどの銀行はシフトしてしまった。銀行経営者は顧客の真の価値とは何か、地域金融とは何かを考え、リスクを取って考えること、行動することをやめた。
〇マニュアル経営
金融庁検査で指摘を受けないように先回りして金融庁の先兵のような役割をして、日常的な融資案件の審査でもマニュアルと過去の検査官の発言録に基づき、融資の是非を判断している。検査マニュアルに基づいて不良債権を引き当て処理する会計上の対応と、対象企業への融資判断を完全に同一視している。99年に検査マニュアルができてからわずかの間に、銀行の実力の結晶ともいえる融資判断そのものを検査マニュアルへ丸投げしてしまった。
〇信用保証制度による目利き力の喪失
過去2回制度拡充が多くの地域金融機関にとって決定的なモラルハザードを招いた。98年の特別保証と08年の緊急特別保証制度(100%保証の制度設計)。ネガティブリストにさえ該当しなければ、事実上無審査で100%保証が認められるため、貸し倒れリスクから完全に開放される。ほとんどの金融機関で「マル保」の案件には審査という目すら向けられなくなった。
〇長期融資重視がもたらしたもの
かつては、短コロ(手形貸付を更新し事実上金利の支払いのみ)の更新で顔を見せ、何かと相談に乗ってくれた銀行の営業マンは、保証付きの長期融資以降は用事もなくなり、足が遠のいた。昔のような茶飲み話もなくなり、工場、事務所を見学させて技術力や事業内容を説明するような機会も減った。銀行マンの足腰が弱っているのはこのためだ。
⇒正常運転資金を超える短コロは、事実上返済できない不良債権とみなす検査マニュアルを15年1月に見直し、事実上公認。9月の金融行政方針ではさらに踏み込み、短コロなどを通じて取引先との対話を深め、関係を構築しようとしているかを確認すると明記。かつて検査マニュアルが事実上殺した短コロが13年ぶりに復活した。
後半は、地域密着型の新しいビジネスモデルを実践している地銀・信金4行の事例が紹介されています。経済環境、金融環境によって監督官庁の方針が示され、それに従って金融機関が経営のかじ取りをしますが、当初は効果を発揮した方針も、徐々にずれ始め、どこかの時点で見直しが必要になる。今がそのときということなのでしょうね。地域金融と地域経済は不可分であることは間違いないので、あらためて社会的な役割を認識したうえで使命を実行したいものです。