MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

現場が動き出す会計(伊丹敬之、青木康晴)

『現場が動き出す会計』(伊丹敬之、青木康晴)(〇)

 アカウンティングⅡ(管理会計)の受講当時に発売されていれば、ぜひ読んでおきたかったな・・・と思える管理会計の良書でした!管理会計の基本は押さえつつ、管理会計が経営にとってどんないいことがあるのか、どんな注意点があるのか、一体何のために管理会計を学ぶ必要があるのか、、、管理会計を学ぶ意義が詰め込まれた一冊です。

 事例として京セラ(アメーバ経営)、日本電産が詳しく紹介されています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇情報システムと影響システム

 管理会計を上司のための情報システムとしてだけでなく、管理会計の測定がもたらす影響システムとしての機能を持っていることを深く理解し、きちんと注意を払わないと現場で様々な意図せざる影響が生まれ、それが現場の行動に歪をもたらす危険がある。どんな測定をすれば現場に望ましい影響を与えられるかというのは、管理会計では必須の思考法。

 

〇利益はオピニオン、現金は現実

 利益はあくまでも「オピニオン」であるから、誰が計算するかによって値も変わるし、やろうと思えば都合よく操作できてしまう余地もある。現金にはその余地はなく、ハードな数字。

 

〇現場想像力

 会計データを使う人には、「数字の背後に現場のどんな実態が潜んでいるのか」を創造する力が要求される。1つの数字が現場のどんな行動から生まれてきたのか、そのプロセスをリアルに想像できることが、現場想像力。

 

〇「勘定を合わす」行動が「銭足らず」をもたらす

 利益を重視過ぎると、現場が利益を生み出すための歪んだ行動(勘定を合わす)を取り始め、結果として「銭足らず」という事態に陥りかねない。

①翌期に返品されることがわかっていながら、押し込み販売する。

②売上原価の引き下げを狙った追加生産(1個当たり原価の引き下げ)

 

キャッシュフロー中心のマイナス面

 目先の現金支出を小さくしようとして、長期的な投資や長期的な取引関係の信用などを犠牲にしかねなくなる。

 

〇部下への影響システムとしての管理会計

①自律性が生まれ、そこからモチベーションに繋がる

②社内の競争意識が高まる

③経営の基礎訓練となる

 

原価計算がもたらす歪み

 配賦を回避する行動を現場がとり、その行動が企業全体としては望ましくない結果をもたらす。

①原価の集計範囲の問題:未利用の機械設備にかかる減価償却費の全体を、機械設備の稼働可能時間の一部しか使わない製品の原価の集計範囲にまで含めることで、コスト負担が偏る。

②目先のコストダウンに目がくらみ外注に頼り過ぎると、社内で技術の蓄積が十分に行われず、将来的には競争力が低下してしまう恐れがある。

③総じて本社共通経費は、事業規模の大きい事業部により多く配賦される。ところが実際には、大きな事業部ほど自前で多くの機能を有しており、本社のサポートを必要としていない可能性がある。その結果、本社への依存度が低い事業部がより多くの本社共通費を負担するという、矛盾した計算が行われる。

 

〇ついつい増える資産

①生産部門が、営業部門からの要求が来た時にすぐに対応しないと叱られるから、原材料の在庫を多く持つ。

②生産計画の変更に柔軟に応じるために、生産能力の余裕をもって設備投資をする。

③新しいことに挑戦したいために、新発売の実験装置を買いたくなる。あるいは、全方位的実験的製品開発をしたくなる。

 

〇資産効率管理がもたらす歪み

①そもそも使用資産をおおきくしないために、投資を控えるようになる。

②投資はするが資産化を避ける(負担が大きくなってもリースを選ぶ)

 

〇当座買いのメリット

①必要な分だけを購入することで、材料の使い残りが減る。

②材料を大切に使うようになる。

③材料の消費数量に関する見積り精度が向上する。

④より優れた材料、最新の材料が選ばれる可能性が高くなる。

 

〇予算による行動の歪み

①予算とはただ予想するもの、なってしまう歪み

②予算とは上から降ってくるもの、となる歪み

③予算とは使うもの、という歪み

 

〇コミットメントの強調がもたらす歪み

①業績目標がが低めに設定されるように、予算編成の段階で現場がさまざまな努力をし始める。

②現場が上からコミットさせられる予算が、実現可能性の低い予算になる。

 

〇研究開発管理(ステージゲート法)における歪み

①研究継続検討段階(ゲート)をパスするために、プロジェクトのポテンシャルを大きく見せようとして、歪んだ情報提供に走る。

②ステージゲートに乗せやすいようなテーマばかりを提案する。

③現場がゲート審査などの面倒な手続きを回避しようとするために、ステージゲートに乗せないまま継続される研究、いわゆるアングラ研究が増える。

 

〇測定結果の使い方と、「気になる目」

①評価対象とし、公開もする‥上司の目、周囲の目、内なる目

②評価対象とするが公開しない‥上司の目、内なる目

③評価対象しないが公開する‥周囲の目、内なる目

④評価対象とせず、公開もしない‥内なる目

 

 結構盛りだくさんですが、どれも大事な観点であり、本文も難しく書かれていないので、とても読みやすいと思います。管理会計の入門書はなかなかいい本が無かったのですが、ようやくお勧めできる本に巡り会いました。

現場が動き出す会計 ―人はなぜ測定されると行動を変えるのか

現場が動き出す会計 ―人はなぜ測定されると行動を変えるのか

 

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