『民泊ビジネス』(牧野知弘)
2015年に2000万人を超えたインバウンド。政府が新たに打ち出した、2020年にインバウンド倍増、4000万人を実現させるため期待される民泊。本書は、民泊ビジネスの登場背景となったインバウンドの増加によるホテル業界の動きを整理し、2020年以後も見据えたホテル業界と民泊の未来を考える一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇宿泊は儲かるビジネス
・宿泊専門性がほとんどいらず、ある意味賃貸住宅に近いビジネス。宿泊の予約システムはシンプルで、飛行機の座席を埋めるのに似ており、その日が終わればすべて御破算で流れてしまう。
・宿泊特化型になってからは利益率の高い産業に変身した。レベニュー・マネジメントを採り入れ、ネットによる集客システムの構築、ATM(自動精算機)の導入などにより自動化を進めて人員を削減した結果、最小の人数で高収益を上げるべき業態へと生まれ変わった。そのタイミングで外国人旅行客が激増したため、ホテル不足が深刻化する一方、宿泊料金がどんどん上がっている。
〇インバウンド増加の影響
2015年にインバウンドが2000万人に達したため、政府は2020年の目標を一挙に4000万人に倍増させた。2016年3月現在ですでに1万室以上の建設・増築計画があるが、あと2万室は必要になると試算される。
〇民泊ビジネス、エアビーの上陸
民泊は、普通の民家が旅行客らに空き部屋を貸して宿泊させるもの。その代表であるAirbnbは米国生まれの宿泊システム。エアビーに登録されている民家の数は、2016年6月現在で191カ国、200万件以上。サイトに住所、部屋の広さ、宿泊料金を登録するだけ。エアビーに支払う手数料は3%。お客さんを泊める際のルールなどはいっさいなく、いわば、宿泊のフリーマーケット。
〇マンション管理問題
部屋貸しによる民泊で問題になったのがマンション。部屋を購入した外国人オーナーが繰り返し自国の旅行客に部屋を貸すことで、引き起こされる問題。宿泊した外国人はゴミ出しなどの入居者のルールが分からず、夜も遅くまで大騒ぎするなど、クレームが続出。民泊禁止を盛り込んだマンション販売も現われている。
〇民泊ビジネスの方向性
政府は2017年の通常国会に新法を提出する方向で作業を進めている。
・基本方針
民泊を受託を活用した宿泊サービスの提供と位置づけ、一定要件のもとに認めていく。
・民泊の分類
家主が実際に居住する「家主居住型」と、家主が不在にしている「家主不在型」に分類し、そのうえで、住宅提供者、管理者、仲介事業者に対する規制を設ける。
・仲介業者
民泊に介在する仲介業者は、行政庁への登録を行う。
・所轄行政庁
・民泊の可能性は地方にある
インバウンドが4000万人に倍増しても、地方では、それだけで採算性が取れないため、ホテルや旅館が地方にどんどん増設されることにはならない。しかし、風光明媚な地方に外国人が好む空き家を民泊として活用すれば、ホテル・旅館不足を補ってインバウンドの受け皿となり、一人、二人という小口の需要も確実に取り込めることになる。
民泊ビジネスはこれからの産業。東京でも関西でも外国人旅行客が増えているなという実感がある最近。これからさらに増えてくると、民泊ビジネスも一気に加速しそうな予感です。現時点では、ホテル業界VS民泊という形の対立構造のようですが、ホテル業界が民泊の仲介事業に乗り出すような動きも出てくるかもしれません。新たなビジネスの動きに要注目です。