MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

Jリーグ再建計画(大東和美・村井満)

『Jリーグ再建計画』(大東和美村井満

 本書は、衰弱の危機にあるJリーグがどこに向かおうとしているのか、海外で勝てないJクラブ、苦しいクラブ経営、日本代表選手の海外移籍によるリーグ空洞化などの問題から、J3創設、ポストシーズン制の導入など、Jリーグ自らが問いかける再建への緊急提言。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇収入構造

 Jリーグ事務局における収入源の2本柱は、放映権料と協賛金。各Jクラブの収入構造は、Jリーグ事務局から振り分けられる配分金と入場料、協賛金から成っている。

 

ポストシーズン制導入の背景にあるもの

 2014年からJリーグ本体に最大13億円の減収予測が立ち、2015年からのポストシーズン制導入に踏み切った。1割以上の減数という目前に迫った危機は各Jクラブへの配分金や育成関連費、審判関連費の見直しを迫った。減額は1クラブあたりJ1で4000万円、J2で2000万円と試算された。J2には年間予算4億円程度のクラブもあり、2000万円の減額は死活問題。ポストシーズン制を導入すれば13億円の減収を回避し、2015年シーズンには10億円像主するという見込みがついた。

 1ステージ制のホーム&アウェイでチャンピオンを決める大会方式に正当性があることは皆分かっている。Jリーグを預かる人間も皆できればそうしたいと願っている。しかしJリーグを取り巻く環境は厳しく、より日本のサッカーのクオリティを上げ、ファン・サポーターにも楽しんでもらい、地域社会を幸せにする未来を、現状維持の延長線上に思い描くことはできなかった。

 

ポストシーズン制のメリット

 分かりやすい一発勝負を好む日本人の国民性にマッチしている。Jシーズンに最大3クラブがタイトル(前期優勝、後期優勝、年間優勝)を獲得できることも魅力。その地域におけるクラブの存在価値を高め、Jリーグの新たな賛同者を得ることに繋がっていく。かつての2ステージ制のように、前期・後期の優勝チームが同一だった場合にチャンピオンシップが開催されない、という事態が起きないことも魅力。

 一般の人々の目に触れる機会を拡大することで、協賛金と放映権料を獲得し、Jリーグの認知度向上による各クラブの集客増、協賛金増による経営基盤の強化を図ることができる。

 

クラブライセンス制度

・審査項目

 ①競技基準(アカデミー保有等)、②施設基準(スタジアム設備等)、③人事体制(スタッフ配置等)、④法務基準(リーグ規約、競技基準遵守義務)、⑤財務基準(クラブ経営等)の5基準からなる。

・財務基準

 3期連続で当期純損失を計上していないこと、債務超過でないこと。赤字を出せないJクラブにとって、配分金の減少は死活問題。積極投資によって得た選手が故障や活躍しなかった場合のリスクが、これまでよりはるかに大きくなり堅実な投資に走りがちになる。

 

〇横浜F・マリノスのチャレンジから見えてきたもの

・厳然たる事実として言えるのは、横浜F・マリノスがクラブの総力を挙げて改善に取り組んでも、現状では終始トントンが限界であり、黒字化にはまだ多くのエネルギーと時間を要するということ。

・Jリーグは親会社のことを”責任企業”と呼んだりするが、その名称は、「何があっても責任を取る」というニュアンスを強く感じる。ここにもともとの構造の危うさがあるような気がする。だからここのクラブはもちろん、Jリーグもこういった構造の所与の条件にしていること自体を見直さなければならない。マリノスは可能な限りこの状況を打開するために精一杯のことをやってきた。それでも黒字化は容易でない。クラブの努力だけではどうにもならない限界が見えてきたと感じる。

 

〇J3創設の背景

・クラブ数の増加は、Jリーグにとってサッカーの普及面だけでなく、地域コミュニティーの核となるうる存在を増やしていく面からも大事なミッション。

・共生的な側面の一方で、J3をつくることでそれまで降格のなかったJ2クラブに危機感を抱かせる効果も期待されている。

・これまではJ2クラブが経営危機に陥った場合、クラブを消滅させるわけにはいかないので、Jリーグ本体が緊急融資に踏み切るなどして救済していたが、今後はJ2で経営が苦しくなったクラブはJ3に降格し、力を蓄えて出直させるという形をとることもできる。より良いクラブを作り、地元のファン・サポーターから支持を受けてお金の集まるクラブがJ2へ昇格し、そうでないクラブはJ3へ降格していく。こうした競争が生まれることで、J2のレベルも上がっていく。

 

 大企業のスポンサー的役割が色濃いJクラブ。財務基準の厳しさもあって親会社の支援が不可欠な状況が続きますが、マリノスの分析にあるように、クラブ単独で収支が成り立ちにくいのは、業界の構造的があるようです。Jリーグへの関心の低下、TV視聴率の低下、入場者数、課題は山ほどありそうですが、Jリーグ創設から20年以上が経ち、国民的スポーツであるサッカーがビジネスとして成り立つのか、まだまだ挑戦が続く状況にあります。

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