第5巻、ユリウス・カエサル(ルビコン以後)。元老院最終勧告(非常事態宣言)を受けたカエサルが、軍隊を解散せずにルビコン川を渡り、国家反逆罪を犯した紀元前49年(51歳)から、紀元前44年(55歳)の暗殺までの4年間が描かれています。「賽は投げられた」の意思決定から、ドゥラキウム攻防戦で押されたポインペイウスをファルサルス平原で破り、エジプトでクレオパトラと出会い、小アジアの属州制圧、ポインペイウス派の残党を破り北アフリカを制圧。華々しい戦闘が中心ですが、共和政から帝政へ転換する内政も注目所です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇市民権問題
・ルビコン川からアルプスにいたる北伊属州の自由民全員にローマ市民権を付与。
〇政治改革
・元老院定員を600人から900人に増員。ローマ元老院に大量の属州の人間が流れ込んだ(元老院の弱体化をもくろんだ)。
・有権者総数が100万人を超え、市民集会は単なる追認機関と化した。
・護民官に後継者のオクタヴィアヌスが就任し、護民官制度は有名無実化。
・同僚無しの行政職である終身独裁官に就任し、常例システムへ変革。
〇金融改革
・金貨と銀貨の換算値を固定化(固定相場制化)。各属州で通用している地方通貨との関係も統一され、経済の活性化に寄与。
〇行政改革
・行政の最高職である執政官は毎年2人選出される制度は変えなかったが、うち1人はカエサルが兼任。同僚執政官は、独裁官カエサルの次席のような存在に変わった。
〇税制
従来行われてきた「プブリカヌス」という、一種の私営徴収制度を廃止し、公営の徴税機関を設置した。納税者名簿も公開し、徴税担当者の恣意が働く範囲を可能な限り狭めることでの公正を目指した。
〇福祉政策
カエサルの考える福祉は、ただ与えるのではなく、生活していけるだけの収入を保証する仕事を持つまでの間の一時的な支援。小麦法の給付人口の総数を32万人から15万人に減らした。公正な査定のみが小麦法を政争から守り、真の意味の福祉に戻す道でもあった。
〇失業対策・植民政策
・失業者と退役兵に土地を与えて植民させる先は、属州に分散するように変わる。
・ローマが滅ぼし、塩まで撒いて不毛の土地にしていたカルタゴとコリントを再興した。
〇組合対策
・平民階級の権力の温床になり、それゆえに政治組合化していた組合は、解散してしまった。代わりに組合員相互の扶助を目的とした職能組合の再建は許した。
〇交通渋滞対策
・人間だけでなく、荷車の渋滞がひどかったことに対し、日中に街中で輿を使えるのは、既婚夫人と女祭司のみ。荷車の通行は、日没時から日商時の間に限られると交通を規制。
〇贅沢禁止法
・度を超えた贅沢を禁じた。その一つが、魚屋以外は生簀に魚を飼うことを禁じた。
一つひとつの施策が、元老院の特権階級、いわゆる権力を維持する保守派の牙城を崩していく。国家が大きくなりすぎ、これまでの政治体制ではローマが維持できなくなってきたことを背景に、権力を終身独裁官であるカエサルに集中させ、改革を進めていくやり方は、短期間で改革を実現する一方、独裁を極端に嫌い、共和政こそローマのあるべき姿とする、元老院階級の反対に遭う。この急速な変化と対立の狭間でカエサルは暗殺されることに。改革はカエサルを中心に歴史を見ることが多いが、暗殺側の元老院派にも正義の主義主張はあり、なかなか判断が難しいところです。