MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人工知能が金融を支配する日(櫻井豊)

人工知能が金融を支配する日』(櫻井豊)

 リーマンショック級の暴落を一瞬で起こしたフラッシュ・クラッシュ、IBMやGoogleから次々と人工知能の技術者を引き抜くヘッジファンド。今後10年間で30~80%の削減が予想される先進国の銀行支店。金融の裏舞台で何が起こっているのか、AIと金融の最先端がまとめられています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

ルネッサンス・テクノロジーズ社

 ルネッサンスの戦略は、取得可能なあらゆるデータを分析して、市場変動のパターンを洗出し、短期的な市場の動きなどを予想し、コンピューターで高い勝率の戦略を割り出し実行するというもの。ルネッサンスが採用する人材はトレーダーや経済学者ではなく、市場変動のパターンを洗出し、取引をスムーズに実行するコンピュータのアルゴリズムを構築する能力に関する超一級の研究者ばかり。

 

フラッシュ・クラッシュ(2010年5月6日14時32分)

 4分間の間にダウ平均など主要な株価指数は6%ほど下落して、前日の終値からの下落幅は何と10%前後に達した。その後20分ほどで株価は急速に下落し、15時過ぎにはほぼ下落前の水準に戻した。わずか30分超の間に信じられないような速度で下落と回復が完結した。きっかけは、大手投資家がS&Pの代表的な株価指数先物取引市場に異例の大口売り注文をだしたこと。そこから下落を加速させた大きな要因に超高速取引と呼ばれる取引が大きな役割を果たした。当初はその売りの買い手となってた超高速ロボ・トレーダーたちが、一転して超高速の売りを浴びせたことがフラッシュ・クラッシュの引き金を引いた。

 

〇先回り取引

 ある程度まとまったサイズの注文の場合、複数の証券取引所に小口に分割した発注が必要となるケースが多い。超高速ロボ・トレーダーは、分割され送信された注文の中で、最初に取引所に到達した注文情報をもとに、微妙に遅れたタイミングで別の取引所に届く注文を予想して、先回りしてそこにあった注文をテイクし、微妙に悪い別の価格提示に置き換える(一種の市場の歪みを利用した裁定取引)。事実上は上前をはねられたことになるが、一つひとつの取引から得られる利益はさほど大きくないので、よほど注意深い投資家でなければ気づかないかもしれない。

 

〇超高速ロボ・トレーダーの取引戦略

 先物主導の相場では先物が先行して動くので、現物株との価格のかい離が生まれる。こうしたチャンスが生まれた場合に、超高速で多数の現物銘柄を瞬時に取引することができれば、一瞬のチャンスをものにして利益をあげることができる。

 

クオンツ・ファンド

 投資判断を人間の勘や経験を重視して行うのではなく、数理・統計的な理論やモデルによる価格分析を重視して取引を行うヘッジファンド。コンピューターのアルゴリズムで長短期の相場変動の予想などをして利益を上げる超高速ロボ・トレーダーはクオンツ・ファンドの戦略の一形態。クオンツ・ファンドが目立たないのは、その投資戦略が分かり難く、カリスマ投資家の影響力あるコメントとも無縁だから。

 

〇ツーシグマ社

 多数の運用モデルを同時に走らせている。例えば、株価の動きに関する伝統的なテクニカル分析をするモデル、人間の株式アナリストのように財務指標などを分析するモデル、ツイッター上の話題を分析して企業の経営状態に関する情報を探り出すようなモデルなど。さらに別なアルゴリズムを使って、各モデルの過去のパフォーマンスを考慮したウェイト付けをして、取引戦略をまとめる。

 

〇ロボ・アドバイザー

 ロボ・アドバイザーの手数料は、人間のアドバイザーの1/4~1/3。人間のアドバイザーは、自身の手数料欲しさのために必ずしも顧客にとって有益でないアドバイスをする負のインセンティブがあるし、人間のアドバイザーには何らかの認識バイアスがあり、重大な情報を見逃したり、些細な情報を過大評価したりすることがある。ロボ・アドバイザーはこうしたバイアスがなく、安定した運用成績が見込める。

 

 人間の出番がどんどんなくなっている。想像もつかない世界で動いている投資金融の実態が事例をもとによく分かる内容です。もはや投資事業、金融事業という領域ではなく、AI事業、金融技術事業など別のジャンルに生まれ変わっているのではないかと感じます。

人工知能が金融を支配する日

人工知能が金融を支配する日

 

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