1916年に大阪朝日新聞に連載され、1947年に出版された『貧乏物語』(河上肇)の現代語訳版です。『貧乏物語』は、構造的な貧困がなぜ生じ、それを克服するにはどうすればよいか、という問題を正面から受け止め、格闘した思考の軌跡。この本から現代の貧困についての処方箋を導くことができるとの思いから、現代語訳版が発行されるに至ったものです。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇3種類の貧乏
①他の誰かよりも貧乏な人‥ただ金持ちの反対ということ。
②生活保護などの公的扶助を受けている人‥経済上の依存
③最低限必要な生活費さえ得られていない人。‥経済上の不足
一人ひとりの人間の生活に必要な最低限である貧乏線(食費のほか被服費、住居費、燃料費、その他の雑費を計算したもの)以下にある人。
〇「最富者」の分布
人数で言えば、全人口の2%にもかかわらず、そこに属する富は、イギリスでは約72%、フランスでは約61%、ドイツでは59%、アメリカでは57%になる。ローレンツ氏の曲線によれば、イギリスでは、最も貧乏な者から数えて全体の65%に当たる人が、国全体の富の2%しか持たない。
〇「教育は、国民にとってパンの次に大切なものである」(ダントン)
確かに教育は国民にとって大切なもの。しかし、その教育が効果をあげるためには、まず教わる者に腹一杯飯を食わせてからでなければならない。いくら教育を普及させても、その前にパンを普及させないことにはダメ。
〇給食がもたらしたもの
子供たちは給食を受けると、すぐに顔色が輝いてきて、態度が快活になり、学業の成績も伸びた。子供たちの体重も著しく増加した。
〇年金を受ける権利
「人は一定の年齢に達するまで社会のために働いたら、年をとって働けなくなった後には、社会から養ってもらう権利がある」という思想、この法律はそれを肯定した。
〇生活必需品が不足している理由
今の社会の多くの人々が、十分に生活必需品を得ることができなくて困っているのは、品物はたくさんあるが分配の仕方が悪いからではなく、もともと生活必需品が十分に生産されていないから。今日の経済体制の特徴は、このような意味での需要だけを考慮し、需要のあるものだけを生産するという点にある。生活必需品に対する需要よりも、贅沢品に対する需要のほうがはるかに強い。これが、多くの生活必需品が後回しにされて、無用の贅沢品ばかりがどしどし生産されてくる理由。
〇贅沢品への強い需要
金持ちの需要の大部分は自ずと贅沢品に向かう。贅沢品に対する極めて強い需要が生じて、生活必需品に対する貧乏人の需要などは完全に圧倒されてしまう。そして今日の経済体制は、世界中の生産者はただ需要のあるものだけを生産し、たとえいかに痛切な欲求があるものでも、それに資力が伴わない限りは放っておいておくのを原則としている。これが贅沢品が山のように生産されているにもかかわらず、多数の人々のための生活必需品がひどく欠乏している理由。
〇個人主義・放任主義
さまざまな欲求のうち、どれを先に満たすべきかを決めるにあたっても、単に需要の強弱だけで決めてしまっては、富の分配が理想的なものとなっていない限り、社会の生産力を理想的に活かしていることには決してならない。
〇貧乏根絶策
①金持ちの贅沢廃止
②格差の是正
③経済体制の改造
〇経済と道徳
孟子のいう、安定した仕事や財産がないと道徳心を持ち続けることはできないというのは、経済を改善しないと道徳も発展しないということ。これはつまり、経済的社会観の考え方と通じている。
自由経済では、生活必需品よりも贅沢品を追いかけたほうが儲かるということが生産者の発想の根底にあり、これが格差をもたらす一因となっているということが伝わってきます。少し大きな観点から社会の動きを考えることができる内容でした。