『大人の思想』(外山滋比古)
1983年に発刊された『ライフワークの思想』大幅に加筆・再構成し2015年に発刊された本書。知的生活を楽しむための思考の視点を切り替えるヒントが多く、発想の着眼として面白い内容でした。著者の各著書で深堀された内容が広くまとめられているイメージです。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇捨てる
価値あるものを捨てるのは不合理であるが、カネにしても知識にしても過剰な部分は捨ててやらないと、人間の進歩はない。余計な知識は捨てなくてはいけないが、これは覚えるよりずっと難しい。それで睡眠の力を借りる。目覚めたあと、頭がすっきりして気分爽快なのは、眠っている間に多くのことを忘れ、捨てているから。激しく体を動かし、汗を流すのも過剰なものを捨てるのに有効。
〇「悪」も悪くない
良いことだけでは良くなれない。悪いことがあって、それを超えようと夢中になっているときに人間力は発揮される。苦しみ、不幸、貧困などは決して歓迎できるものではないが、それによって人間は飛躍的に向上できることを考えれば、あらゆる悪は我々を向上させる力を持っていることが分かる。
〇独創~真似ない~
知るより、考える。これが大人の思想の基本。学ぶとは元来、まねる、ということ。それを長く続ければ、すべては借り物で、知識というものが他の人たちの作ったものであることを忘れる。専門が同じだと、どうしても話が細かくなる。小さなことも面白いが、創造性が欠けることが多い。
〇知的生活
ことばで考えるのは技術的。根本のところは”体で考える”のでなくてはならない。血の巡りをよくしないで、いい考えの浮かぶわけがない。頭も体の一部。血の巡りをよくするには、体全体の血行を良くしなくてはならないのは当たり前。
〇島国考
何よりの特色は外国並びに外国人に対する過敏さ。外国が気になるから無闇に外国のものを取り入れたり、模倣するかと思うと、一転して、外国のものを拒否する排外思想がはびっこって鎖国になったりする。外国ということに対しては振れ幅が大きい。心理的に不安定である。この鎖国がとにかく、国内的にも国際的にも平和を保障してきたのは注目すべき。
〇ライフワークの花
・どんなに貧しく、つつましい花であっても自分の育てた根から出たものには、流行りの切り花とは違った価値がある。それこそ本当の”ライフワーク”。
・セレンディピティ(あてにしない偶然の発見)。何か目標を立てて、それを達成することも大切だが、予期せざる発見にも捨てがたい魅力がある。セレンディピティの発見は、アマチュアが自由時間に生み出す創造の可能性を教えてくれている。
・ライフワークを考えるのに、人生もマラソンと同じく折り返し点を設けたい。確かに前へ走ることは進歩。だが、折り返し点ではそれまでの価値観をひっくり返して、反対側に走ることが、すなわち前へ進むことになる。エリートが年をとるとだんだんつまらない人になってくるのは、一筋の道を折り返しもなしに走っているからだろう。40歳くらいまでは、なるべく個性的に、批判的に、そして自分だけで生きてゆくのが、その人間を伸ばす力になる。しかし折り返し点を回った人間は、もう小さな自分は捨て、いかにして大きな常識を取り込んでゆくかを考える。
現在40代の人の半数が95歳まで生きる時代。折り返しに差し掛かり、この先どういう生き方が良いのかと考えていたところ、終章のライフワークはとても気づかされることが多い内容でした。「折り返しもなしにだんだんつまらい人」にならないように、次をの前進を考える力になりました。