『生産性』(伊賀泰代)(〇)
『自分の時間を取り戻そう』(ちきりん)のビジネスパーソン版。生産性の向上は、コスト削減と付加価値額の向上。工場以外での生産性に関する意識の低さが、世界と戦う日本企業にとって大きな足かせになっているとの認識のもと、イノベーション(革新)と生産性の関係や、インプルーブメント(改善)と生産性の関係、組織全体の生産性を高めるための人材育成方法などがまとめられています。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇生産性を上げる2つのアプローチ
生産性=得られた成果/投入した資源=アウトプット/インプット
①成果額(分子)を大きくすること
②投入資源(分母)を少なくすること
⇒安易に投入資源量を増やさないこと。コスト削減だけでなく付加価値を上げる方法も併せて考えること。
〇改善と革新 4つのアプローチ
①改善による投入資源(分母)の削減
⇒コスト削減(日本企業が意識するのはココに集中!)
②革新による投入資源(分母)の削減
⇒ビジネスプロセスの再構築、国際分業など
③改善による付加価値額(分子)の増加
⇒販売手法の工夫、作業手順の変更など
④革新による付加価値額(分子)の増加
⇒画期的な商品設計、斬新なビジネスモデルなど
〇生産性の意識
イノベーションが起これば、結果的に生産性が上がるのはわかる。しかし、イノベーションを起こしたいのであれば、生産性を気にしてはダメだという考え方がある。
組織全体で生産性の向上に取り組めば、イノベーションに必要なふたつの要素、すなわち、「Time for innovation」と「Motivation for innovation」が生み出される。
〇生産性向上へのプロセス
①定型オペレーション業務の生産性向上
②余裕時間を生み出す
③余裕時間をイノベーションのために投資
④イノベーションによる大幅な生産性向上
〇Motivation for innovation
ビジネスイノベーションが起こるのは、その源として常に「問題意識」と「画期的な解決法への強い希求心」の二つが必要。社員に「問題認識力=課題設定力」と「その問題を一気に解決したいという強い動機づけ」を持たせることが不可欠になる。
〇生産性向上による成長サイクル
①今まで何時間かかってもできなかったことができるようになった。
②昨日まで何時間もかかっていたことが1時間でできるようになった。
③同じ1時間で昨日よりはるかに高い成果が出せるようになった。
④生み出せた余裕時間で今はまだできないことにチャレンジを始める。
〇成果主義も量から質の評価へ
成果の絶対量だけを評価する組織では、誰も彼もが「より長い時間働ける人」ばかりを求める。現行制度大きな問題は、評価基準に生産性の概念が入っていないこと。成果主義の人材評価システムがうまく機能しないのは、評価されるべき成果を、「質」ではなく「量」で測ろうとしたから。成果も達成目標も生産性の伸びによって設定すればいい。成果の絶対量の大きさではなく、生産性の伸びを評価する組織になる。これが今後の組織作りにおける重要なポイント。
〇管理職の使命はチームの生産性向上
・キッチンタイマーを使って作業時間を可視化する。
・本当に残す価値のある仕事なのか?
・やり方を抜本的に変えられないか?
・外注化やIT投資で生産性はどれほど上がるのか?それは投資に見合うのか?
・業務仕分けを毎年の定例イベントにして「今までやっていた仕事をやめるのは特別なことではない。やるべき仕事はどんどん変わっていくものなのだ」という意識を定着させる。
・「3%を生産性向上で」と「3割をイノベーションで」達成する目標とすべし。
〇マッキンゼー流 会議の進め方
・資料の枚数を制限するより説明時間自体を制限したほうが生産性が向上する。
・「自分の意見を明確にする」ことを「ポジションをとる」と呼び、全員が身につけるべきベーシックなビジネススキルであると教える。
・意思決定のロジックを問う。「会議時間の短縮」に敏感な企業は増えているが、本当は、「意思決定の生産性」についてこそ、より意識的になるべき。
〇人口減少というチャンス
①人口減少時代への対応、②国際競争力の維持強化、③ワークライフバランスの実現、この3つの問題すべてを解決できるのが「生産性向上」。
「生産性=工場」という発想が強いですが、会議・打ち合わせ・事務・企画・採用・教育・・・あらゆるビジネスの側面に使える発想。意思決定にとどまらず、工程分析や作業分析といった物理的側面においても、生産現場の改善の発想は応用できる。製造業に学ぶべきところが山ほどあり、生産性向上には、製造業の勉強が欠かせないのではないでしょうか。日本はトヨタをはじめ、お手本には事欠かない環境にあり、生産性を底上げできる潜在力が高い国だと思います。