『安岡正篤 運命を思い通りに変える言葉』(池田光)
多くの政治家にも影響を与えた、昭和を代表する陽明学者である、安岡正篤さんの書著の中から心に残る言葉を集めてた解説本です。安岡正篤さんと言えば、人間学シリーズが再発刊されていますが、陽明学、活学・・学ぶだけではなく、それをどのように活かすのか、そのためにどのような考え方が大切なのか、命を知り、その活かし方を知るための示唆に富んだ奥の深い教えが印象的です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇えらくできた人の言葉は単純
人は片言隻句から生きる力を受け取ることができる。この力を得るには、その人が何かに一所懸命になっていることが必要。誰よりも問題意識がある人に響くから。
〇少年時代の夢
自己限定しないのが子供。夢を持つには「感激する」という心の働きが必要。実現しなかった夢はどうなるのか。それらは実現した夢の肥料になる。
〇四耐
①冷たいことに耐える、②苦しいことに耐える、③煩わしいことに耐える、④閑に耐える。この中で、閑(退屈)に耐えるのが一番つらい。向かうべき対象が無く、自分の内面と向き合わなければならないから。
〇理想
現実をいい加減にしていると理想は空想へと化する。理想とは志。志があるところには芯からの元気が生まれる。
〇感動
感動したり感激したりするには心を柔らかくすること。凡と非凡の分かれる所は、能力の如何ではない。精神であり、感激の問題。感激性がなくなると人は急激い老いる。例えば、明治時代の指導者はすぐに感激して泣いた。
〇時機
次のようなことに陥ると何も進まなくなる。
①善を見て止まる(善いことだと分かっているのに実行しない)
②時至りて疑う(まだ時期が早いとぐずぐずためらう)
③非を知りて処る(間違っていると知りながら改めようとしない)
〇習慣
習慣とは、徳、知、技といった何かが、その人の身に備わりきったものであり、躾けられたもの。
■習慣は第二の天性である。
■人生は習慣の織物である。
〇潜在意識
潜在意識に透徹することが物事を成就させるうえで大切。どれだけ潜在意識にまで奥深く染み透り、貫けるかということ。
〇寸陰
寸陰とは、ほんのわずかな時間のこと。この短い時間をものにできるかどうかで生活や仕事の質さえ変わってくる。
■寸陰に目を付けると時間は生まれる。
■寸陰を積み続けると質的変化が起こる。
〇敬を知るから恥を知り、恥を知るから敬を知る
・敬:現実に甘んじないで、より高いもの、より尊いものを求める心
・恥:今の自分の状態を省みたときに抱く感情で、いわば現実に即したもの
〇道を学ぶ
道は目的地へと続くもの。ただこの道を歩めばいい。道から外れるから目的地に到達できずに迷ってしまう。何よりも道を知ること。
〇道が楽し(道楽)
①道を知る→②道を好む→③道を楽しむと境地が開ける。道を楽しむ(楽道)はまだ「道」を対象化していて、自分と道との間に対立の痕跡がある。そうではなく、道その者になった「道が楽しい」(道楽)という境地へと進んでこそ道と自分が混然一体となる。
〇人間学
①「いかに生きるべきか」という原理(経)を学び、
②「どう生きてきたか」という歴史(史)を読み、
③「私淑できる、すぐれた人物に学ぶ」という人物研究(子、集)を行う。
〇切問、近思、実学
・切問:切実な問いを発する。
・近思:身近な実際の問題として考える。
・実学:自分の身に引き当てて具体的に考えていく。
〇思考の三原則
①長期的、②多面的・全面的・根本的
〇心眼(⇔肉眼)
リーダーに求められるのは、心眼を開くこと。
・外と同時に内が見えるようになる
・現在と同時に過去と未来が見えるようになる
・現象の奥に本体が見えるようになる。
〇己を修める「四絶」
①「意」を断つ:私意、私心をなくする
②「必」を断つ:自分の考えでことを必する=独断・専行をなくする
③「固」を断つ:かたくななところをなくする
④「我」を断つ:我を張らないこと
とても味わい深いことばや今の時代も変わらない本質が数多く紹介されており、あらためてしっかりと読み返してみたい内容です。それにしても中国古典に代表される東洋思想は知見を広めたい魅力的な世界観があります。そして、著者の人間学シリーズ(全9巻)が積読一軍に勢揃いすることになりました。