『人物を創る』(安岡正篤)<2回目>
人間学講話シリーズ。本書は、人生に最も原理的な指導力のある書である経書の一つである中国古典の『大学』と『小学』の解説講義です。『大学』は人を治める学、政治哲学を説く学問。『小学』は日常実践の学問、いかに自己を治めるかという道徳教育の学問。経書を読まんとする者は、まず第一に『小学』から手掛けるべきとされます。
本書冒頭で紹介されているとおり、殷の湯王の晩銘にいう「荀(まこと)に日に新たなり、日日に新たなり、又日に新たなり」の如く、常に自己革新に心がけ、時々刻々変化し進歩するための教書です。
(印象に残ったところ‥本書より)
■『大学』
〇明徳と玄徳
・明徳:意識の世界
・玄徳:根底には自覚されない無限の分野
⇒「明徳を明らかにする」とは「我々の持っている能力を発揮する」ことで、明徳を明らかにしようと思えば、かえって玄徳に根差さねばならぬ。
〇「民に親しむ」
・道徳は「つねに自己を新しくすること」。親しむことができて初めて新しくすることができる。
〇道に至る原則
・ある境地に到達するに及んで、人間はだんだん安定してくる。進歩しなければ安定ということはない。
・あるところに到達し、安定して、初めて静かなることを得る。
・人間でも出来てくるほど静かに落ち着いてくる。がさがさしているのは出来ておらぬ証拠。安定して初めて全能力が発揮される。
・精神というものを十分に活動させて、初めてああだこうだと把握することができる。
・終わりは始めの終わりであって、同時に次の初めである収支とういうものは循環する。
〇「知を致むるは法を格(ただ)すに在り」
自然科学も道徳科学もすべて同じことで、法則というものがある。われわれが本当に知を致むる、真知に到達するためには、法則・心理というものを正しく把握しなければならない。
〇中江藤樹
人間はやはり致知格物、すなわち法則というものがあって、その法則に従わなければならない。それに従って、先後するところを知り、本末をわきまえなければならない。厚いところは厚く、薄いところは薄くする「厚薄の弁(区別)」というものが必要。
〇中らずといえども遠からず
われわれが本当に意識を統一し、精神を集中すれば、非常な精神能力、知覚力、直覚力というものが出る。むしろ神秘的といえるくらいの洞察力、的中力が出るもの。心誠にこれを求めている時には、その関係の本がすぐに目に付く。冷やかしに行ったときなどは、いくら本があっても何も目につかない。
〇ケインズ
It is much important how to be rather than how to be(如何になすべきかというよりは、如何にあるべきかということが大事)。対策対策と、how to beばかり考えるけれども、how to doの根底に、how to be「どうあるか」がもっと根本。
■『小学』
〇道に始めなく終わりなし
真理とか道とかいうものは、始めなくして終わりなしで、大にしては宇宙、小にしては一言一句、どこから始めてもよいし、どこで終わっても構わない。誠に融通無碍。ここからが科学、ここからが宗教、などという区別は決してない。説明の便宜上、知識とか、技術とか、と区切るだけのことであって、限界などというものはない。全体と関わりなく存在するものは、何一つない。
〇道徳
『小学』は人間生活の根本原則。人間生活のよって立つ根本は何といっても道徳であって、この道徳の基本的な精神・情緒といったものを培養しなければ、人間の生活は発達しない。
〇「敬」
現実に甘んじないで、より高きもの、より貴きものを求める心が「敬」。用事が敬することを知らなくなってしまった。これは今日の国民教育に根本的な欠陥がある証拠。
〇「自分」
人間は「自由」と同時に「分際」として存在する。これを統一して「自分」という。自己というものは、自律的統一とともに自律的全体であり、全体的な調和。
〇范益謙の座右戒
①朝廷の利害に関することや国境問題、あるいは転任・任命に関することは言わない
②地方官吏の長短や得失などを言わない
③民衆のなすところの過ちや悪事を言わない
④官職にあっては、時の勢力にくっついて走り廻るようなことは言わない
⑤財物や利益を追って、貧乏を厭い、富を求めるようなことは言わない
⑥性欲や戯慢(不真面目、だらしない)や女色に関するようなことは言わない
⑦人に物を求めたり、酒色を催促するようなことはしない
またいう
①手紙を寄越せば、これを開くのを放っておいてはいけない
②人と並んで座って、他人の私書をのぞいてはいけない
③他人の家に行って私人の書いたものをみてはいけない
④人に物を借りて、損じたり、返さなかったりしてはいけない
⑤すべて飲食に択り好みを言ってはいけない。何でも有難く食べるべき。
⑥人と同じくおるのに、自分だけが都合のいいように択ぶことはいけない
⑦人の富貴を見て羨んだり、貶したりしてはいけない
一見『大学』は読みやすく、『小学』は読みにくく感じたのは、遠くを広くみることができても、足元が疎かになっていないか?という気づきに繋がり、最後に「范益謙の座右戒」を引用してみました。そうだった「人間学」シリーズであったと、流さずに2度目を読んでみて、心を新たにしたところです。
【新装版】人物を創る―人間学講話「大学」「小学」 (安岡正篤人間学講話)
- 作者: 安岡正篤
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2015/04/23
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