『「憧れ」の思想』(執行草舟)
「憧れには、人間の実存のすべてがある。人間とは、憧れのゆえに生き、憧れのゆえに死する存在なのだ。憧れは燃えさかる悲しみである。つまりそれは、我々人間が生きるための本源的躍動ということに他ならない」という書き出しで始まる本書。自己との対面を目的に書かれた自己啓発書です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「ただ憧れを知る人のみが、わが悩みを知り給う」(ゲーテ)
憧れに生きることこそが、人間の本質。憧れは燃えさかる悲しみ。自己の生命が燃焼し、その燃え尽きた先にある「何ものか」。自信の悩みを知る人は憧れを知っている人。
〇「魂とは、肉体を拒絶する何ものかである」(アラン)
魂とは肉体が逃げ出そうとする時、それを逃さない「何ものか」。恐怖に立ち向かう勇気の淵源と見て差し支えない。その魂が慕うものこそ、憧れ。
〇「恋の至極は、忍ぶ恋と見立て申し候」(『葉隠』)
恋に生きることが、生命を燃焼させることに繋がる。思い詰める願いが、自己の本当の生を切り拓く。恋に完成はない。完全にわかり合える恋などはない。だからこそ、思い続ける精神が大切なものとなってくる。生命とは、恋い慕う魂そのものを言う。
〇「わからぬがよろしい」
理解しようとするな。分からぬままに突き進むのだ。利口になれば、垂直を仰ぐことはできぬ。愚かさを抱きしめなければ垂直を仰ぐことはできない。垂直に生きるとは、同時代の名声や評価を求めないことを言う。利口な人間には、遠い憧れに向かうことはできない。つまり、利口な人間は精神の故郷へ還ることはできない。
〇「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」(『風姿花伝』)
花は見せてはならない。隠してこそ花なのだ。安易に評価や名声を求めず、自分の魅力を隠すということは、勇気のいることに違いない。魅力が観衆に伝わらないまま、舞台が終わってしまうかもしれない。しかし、目先の評価に囚われず、生命の本源である憧れを感じさせるために、花を隠すのだ。
〇不合理
不合理を愛する者は、憧れを見出すことができる。文明も不合理の巣窟。完璧や完全という状態はいびつで不完全なものを包含したうえでの完全という意味。簡単に理解した合理性は自己の生存を真実から遠ざけていくと知らなければならない。
〇憧れに向かって生きる
別に特別のことをしなければならないということではない。当たり前のことを当たり前にすればいい。憧れに向かうとは、自己の生命を「何ものか」に捧げること。本当に自己のすべてを「死に物狂い」で捧げられるか。それだけが問われている。
〇革命に生きる
真の幸福とは、憧れに向けて自己の生命をすべて燃焼することに尽きる。現世的に幸福だろうが不幸だろうがそのようなことは全く関係ない。革命に身を挺するという精神に生きることのみが、生命の幸福。逆に言えば、現状に安住し信念なく生きることほど不幸なことはない。革命に生きることを最も阻害する考え方がある。それは、自己の評価を他者に認めてもらいたいという生き方。
〇書物を食らう
我々にも魂があり、書物にも魂がある。その魂の真のふれあいが読書に他ならない。字を読むことは読書ではない。読書は書物の中に鎮もれる魂と自己との共感。書物を読み、先人の言葉に触れながら、「人間とはなにか」ということを考え続けること。書物に込められた人間の憧れを受け取ること。
著者の独特の世界観。まだ今の自分には読みこなせていないなと感じながら、まずは一読してみました。まずは、対面にとらわれずに感じたことに素直にひたむきに取り組むところから。