『メルセデス・ベンツ 「最高の顧客体験」の届け方』(ジョゼフ・ミケーリ)(〇)
本書は、メルセデス・ベンツで行われた大改革の詳細を内側から明かす、「世界最高の顧客体験」を提供しようと力を尽くした人々の記録。何をどのように実行したのかということに加え、社員の方の声が数多く掲載されているのが特徴の一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇改革を前進したカギ
・人
・画期的なプロセス
・お客さまとのつながりの構築
・さまざまな手続きを容易にするためのテクノロジーへの投資
〇目標
カスタマージャーニー(顧客が購入に至るまでのプロセス)を可視化し、顧客にフィードバックを求め、顧客が抱える問題を迅速に解決し、「お客様に喜びを感じていただく(Driven to Delight)」、いわば「最高の顧客体験を届けること」
〇乗り越えるべき障害
・従来の「製品優先の企業文化」が支配的であること
・370超の経験豊かな独立系販売店に対する影響力が限られていること
⇒「企業の最大の強みは、最大の弱みである」
〇現在地の確認
・自分たちが今提供している顧客体験はどのようなものか?
・目標に向かう過程において、成功はどのようなものになるか?
・今の状態から、望む状態に到達するにはどうしたらいいか?
〇将来ビジョンの共有
・従業員にビジョンを伝えることと、賛同を得ることを混同してはいけない。従業員に経営陣の考えを話したからといって、一緒にそれを追求してもらえるとは限らない。成功するには、リーダーたちが最高の顧客体験を提供する重要性を語り、改革を実施する従業員がそのビジョンに共感する必要がある。
〇研修コンテンツ
メルセデス・ベンツが高級品市場で顧客体験を創出する際に直面する問題として、次の3つの柱をもとにしている。
①気づき
サービス担当者が十分だと考えていても、お客様の心には残らないかもしれないことを認識する。
②見方
365日、毎日、お客様はさまざまな企業から素晴らしい体験を提供されている。メルセデス・ベンツの販売店で提供される顧客体験は最上のものか。
③個人・チーム・リーダーのコミットメント
最上の顧客体験を提供するカギは、LEADにある。
・L(Listen):聞く
・E(Empathize):共感する
・A(Add value):価値をもたらす
・D(Delight):喜び
〇信頼構築(3つの基本的な誓い)
①すべての部署が参加する
②すべてのタッチポイントを見直し、改善する
③販売店のすべての従業員が研修を受ける
〇KPI(重要業績評価指標)
①自動車業界で最も「高く評価されるブランド」
②「顧客ロイヤルティ」の最大化
③高級車市場で「売上首位」を獲得
④ダイムラーAG社の販売活動拠点の中で「収益率」を最大化
⑤米国における主要雇用主として、「従業員エンゲージメント」を毎年改善
〇顧客の声を聞くステップ
①カスタマージャーニーのマップをつくる(顧客体験の可視化)
②顧客の気持ちの変化を敏感に測ることが可能なツールをつくる
〇人
「最高でなければ意味がない」という気持ちですべてのお客様に接するには、人、プロセス、企業文化、情熱が必要。素晴らしい商品の裏には、素晴らしい人々がいる。
〇ブランド愛の構築
・7割の従業員が自分たちが販売している製品のハンドルを握ったことがなかった。
・そこで、ブランドとお客様についてより深い知識を得られる機会として、販売店の従業員全員に2~3日、メルセデス・ベンツの車を運転できるよう、700台超の車を提供。
・ハーツレンタカーに709台を購入するよう依頼し、そのかわり、90日間、全車両を借り上げる保証を与えた。通常65%の利用率よりもかなり多くなる。交渉を重ねた結果、取引が成立し、ハーツレンタカーに車を売って、それを全米中の販売店に届けた。
・プログラム推進にあたって、事前学習、試乗、事後学習の3段階からなるワークショップを開発。
〇従業員への権限移譲
・自分自身だけが楽になるようなプロセスを続けていては、最高の顧客体験は届けられない。お客様があなたのサービスを受けやすいようなプロセスをつくるよう、従業員を導き、権限を与えるべき。
・「こちらでは対応できません。販売店にご相談ください」と記された手紙を送るのと、権限移譲されたコールセンターのスタッフが話を聞き、共感し、説明し、画期的な解決方法を見つけ、お客様を喜ばせる。あなたがお客ならどちらを選ぶだろうか。
・顧客体験の改革が大きく進むことで、顧客サポート担当のスタッフは、顧客の早急なニーズと企業の目的やコストとのバランスを保つことを学ぶようになる。
製品としての素晴らしさが前面に出過ぎてしまった結果、低迷してしまった業績を、顧客体験に主眼を置いた社内文化に変化していく過程。学ぶ要素がかなり多い一冊でした。事象の裏側にある「人の感情」に焦点を当てながら読むと効果が大きいと感じました。