『カウンセリングの理論』(國分康孝)(〇)
1980年に発行され、今も読み継がれている良書です。本書は、様々なカウンセリング理論を比較研究しながら自分の理論を構成するという折衷主義の立場に立って、まずはカウンセリング理論を概観することを目的にまとめられています。カウンセリング理論の全体像を理解するのに役立つ一冊です。本書を地図のように使って、自分が興味あるところを深堀していくという使い方ができる利便性があります。
(印象の残ったところ‥本書より)
〇カウンセリングの中心概念
カウンセリングは人を治すことではない、理解しようとする態度そのもののこと。そのほうが「行動の変容」が起こりやすい。
〇カウンセリング理論への7つの問い
①人間観:人間とは何か、人間をどう見るか。
②性格論:性格とは何か、それはどのように形成されるか。
③問題発生:問題行動はどうして起こるか。発生の機制は何か。
④援助目標:治るとは何か。健常とは何か。目的地はどこか。
⑤カウンセラーの役割:目標達成のためにカウンセラーは何をすべきか。
⑥クライエントの役割:目標達成のためにクライエントは何をすべきか。
⑦限界:その理論が適用できない問題や対象は何か。
〇全体像
①精神分析的理論
・フロイト、アドラー、ユング、ホーナイ、フロム、サリバン、エリクソン、ボルビィ、クライン、ランクなど
・骨子
1)幼少期の体験が性格を形成する(火のないところに煙は立たず)
2)無意識があらゆる行動の原動力になる(無意識の意識化)
⇒過去から自由になること
⇒精神分析療法の骨子は、クライエントの自由連想と分析者の解釈。特に分析者の与える解釈が適切かどうかが鍵になる。
②自己理論(自己概念を中心とする理論)
・ロジャーズの来談者中心療法の基礎理論
・中心概念
1)現象学‥目で見える世界をどう受け取るか(受け取り方)が行動の源泉。
2)自己概念‥「私は〇〇な子」。自己概念の形成は後天的。
3)自己一致‥あるがままの自分と、思い込みの自分とが一致すること。自己不一致に陥るのは、「ねばらならい」に捉われているから。
⇒こうあるべきとか、こうすれば人に気に入られるだろうという発想を捨てて、自分のホンネに生きることを強調している。
③行動療法的理論(行動は条件付けの結果である)
・行動カウンセリング、モデリング法、自己主張訓練、ソーシャルスキル訓練など
・「事実を示せ、事実に基づいて議論せよ」。教えることをためらってはならない。
・古典的条件付け(レスポンデント条件付け)
リラクセーション(自律訓練法など)、自己主張、性的感情、イメージ法
・道具的条件付け(オペラント条件付け)
ほめことば、思考停止法、険悪療法、消去法、目標を下位目標に分割、ロールプレイ強化法、行動契約法、強化法(その場でほめる、焦点を絞る)、モデル提示法など
④特性・因子理論
・心理テストを用いるカウンセリング。
⑤実存主義的理論
・実存分析、現存在分析、ヒューマニスティック・アプローチなど
・自分が「人生の主人公」であるとの気概を持った人間。治るとは因果関係から解放されたこと。健全な人間とは、自分の生き方を選べる人間である。
・特質
1)この人生で一番頼りになるのは自分自身の体験
2)一人ひとりの具体的体験・知覚・体感こそが、この世で間違いなく存在するもの
3)体で覚えたことが真に知ったこと
⇒個々の具体的存在(実存)が初めにあった。「初めに具体的存在ありき」。
・P(parent)A(adult)C(children)を中心概念にする療法
・構造分析:性格構造論のこと健全な人間はPACを自由に出し入れできる。
・交流分析:PACをどのように発動し合っているかを解明する
・脚本分析:各自が潜在意識に持っている人生プランを覚知し、不合理性を修正する
・時間の構造化:時間をどのように使うか
⑦ゲシュタルト療法
・ローエンなどのボディ・ワークなど。
・クライエントが自分の感情や身体表現に気づき、それになり切るように助ける
・未完の行為を完成させる。思いを断ち切らないと、次に向かえない。
・療法
ホットシート、役割交感法、未完の行為、ドリームワーク、句の繰り返し、言葉にジェスチャーを合わせる、発言内容と正反対のことを言う、できないことをする、質問を叙述に変える、ジェスチャーに言葉を合わせる、身体言語を誇張する、「ねばならぬ自分」と「したい自分」の対話、事実を語ったあとにその事実についてどう思ったかを語る、ボディ・ワーク、内観法など
⑧論理療法
・エリスの説得的方法
・「ドアの音⇒不快感」ではなく、「ドアの音⇒ドアは静かに開放すべき⇒不快感」というように、受け取り方が不快にしていると考える。
・まともな受け取り方(ラショナル・ビリーフ)とおかしな受け取り方(イラショナル・ビリーフ)を意識する。
⇒人生の苦悩はイラショナル・ビリーフ(事実に基づかない前提)を心の内に秘めていることに起因する(他者の価値観の押しつけ、「ねばならない」と「かくあってほしい」の混乱、持越し苦労など)
⑨折衷理論(特定理論に偏向せず諸理論を統合的に使う立場)
・ブラマー、ショストローム、アイビ、カーカフ
⑩その他
ちょうど、カウンセリングセミナー(イノベイティア:平本あきお先生)を受講したところなのでイメージしやすいタイミングで読みました。カウンセリング理論は多岐に渡っており、勉強しようと思ってもどこを勉強しているのか迷子になりそうだったので、ちょうどいい内容でした。本書に加えて、『最新!トランスパーソナル心理技法』(諸富祥彦)でセラピー関係を整理して、セミナーで学んだ内容と重ねると、かなり頭が整理できそうです。