MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

カウンセリングの技法(國分康孝)

『カウンセリングの技法』(國分康孝)

 1979年に発刊された本書。『カウンセリングの理論』がすごくまとまっていて良かったので、今回は、カウンセリングを実施する際の細かい作法や考え方がまとまっており、現在も第46刷と増版が続いている本書を読んでみました。とても読みやすく、イメージもしやすい一冊でした。

 

(印象に残ったところ‥本書)

〇カウンセリングの3段階

 手際のよいカウンセリングとは、結局次の3つの手順を踏んでいる。

①リレーションをつくる

②問題の核心をつかむ

③適切な処置をする

⇒リレーションを作りながら問題の核心に迫るには、次の5つの技法を駆使展開する。

・「受容」

 相手の話を「うむ、うむ」と相槌を打ちながら聴くことだが、意外と難しい。

⇒すべての人間は価値観を持っているから。「治そうとするな、わかろうとせよ」

・「支持」

 同調したい気持ち。己を表現している状態。カウンセラーの「中立性」という美名のもとに支持を恐れると、感情交流の内面になってしまう。

・「繰り返し」

 相手の話したポイントをつかまえて、それを相手に投げ返す。「私はあなたの話をこういう風に理解しましたが、私の理解に間違いはないでしょうか」と確認する気持ちを込めて、ポイントを復唱する。オウム返しすることではない。相手の言いたいことをキャッチして、そのポイントを繰り返す。

・「明確化」

 クライエントが薄々気づいてはいるけれども、まだはっきりとは意識化していないところを先取りして、これをカウンセラーが言語化(意識化)すること。

・「質問」

 yes・noで答えらないような聞き方がいい。クライエントの語ったところに関連のあるところから聞くこと。好奇心を持って聞かないこと相手の嫌がることはなるべく後回しにし、リレーションがついてから聞くこと。

 

〇6つの処置

①リファー(Refer):他に依頼する

・精神的疾患らしいとき

・自殺願望の強い場合

・法律の絡んでいるケース

・自分の守備範囲を超えるケース

・時間的余裕がないとき

・カウンセラーと利害が絡むとき

・身体症状を有する場合

②ケースワーク:環境に働きかけて個人を変える方法

・個人をある環境から他の環境に移す

・環境そのものに働きかけて環境を変える

・具体的なサービスを施す

③スーパービジョン:貧弱なスキルを指導する

 具体的に教えるわけであるから、カウンセラーによって守備範囲に限界がある。

④コンサルテーション

・ある程度会話してクライエントにその情報を受け止める準備があると判断したときに情報を与える。

・良いことを先に言ってから、改善点を出す。

・情報提供あと生ずるであろう心理的問題の後始末も一緒に考えるだけの老婆心を持つ

・その問題を解くために今までどんなことをしてみたか、その結果はどうであったかを全部聴くこと。聞きながら、ではどうするのが良いかを考える。

・案がいくつか定まったら一度に全部アドバイスしないで、一回に一つだけ提示する。

・クライエントが遠慮なく断れるようにものを言う。

・その案を実行した場合に起こり得る問題を予告して、それに対する準備をつくる。

・アドバイスに従って行動を起こしたところ、全然予期しない問題が発生した場合、カウンセラーはクライエントと一緒になって考える。

⑤具申

 問題をかかる人が1%しかいないとしても、その1%の訴えに公共性が濃厚な場合は、カウンセラーとしては組織の長に進言する義務がある。

 

〇重大決定の延期

 面接期間中は気持ちが揺れるから、面接中に退職、転職、退学、転学、離婚などの人生の重大決定はしないほうがよい。面接終結後、考えや感情がまとまり、方向性が定まってからにしたほうがいい。

 

〇沈黙

・カウンセラーは来談者を援助するためには少しはこの空白の不安に耐えねばならない。よく観察すると来談者の沈黙が空白ではないことがある。音声的には空白かもしれないが、心の中では動きがあるから。それゆえ、カウンセラーは余計な言葉を発して来談者の動きを混乱させてはならない。

・すべての沈黙が動きのある沈黙ではない。動きのない沈黙、待つ意味のない沈黙の場合には、カウンセラーは沈黙を解消する動きを積極的に起こさねばならない。

⇒来談者が再度に発した言葉をゆっくり繰り返す。

⇒沈黙の原因ではないかとカウンセラーが推察したことを言葉にしてみる

⇒日常の会話から入り直してみる

⇒カウンセラーにどんな感じを持っているかを話題にし、それを手がかりに話を進める

 

〇対抗感情移転

 来談者の言動に刺激されてカウンセラーが自分の私的感情を出すこと(クライエントに巻き込まれている状態)。次のような場合に生じる。

権威主義者:自分の考えが一番正しいと思い込んでいる。

・カウンセラーの受身性:受容の美名のもとにカウンセラーが自分の気の弱さを合理化する

・カウンセラーが野心的すぎる場合:何とか治してやっていい格好しよう

・カウンセラーのある問題に対する回避的態度:避けたい話題のとき

・カウンセラーの欲望が来談者に向けられているとき:愛情欲求

・カウンセラーに不安・恐怖があるとき

・カウンセラーのの罪障感:悪いことをしたという負い目

 

〇感情移転

 来談者がかつて誰かに抱いていた感情をカウンセラーに向けること。感情移転を去れたカウンセラーはそのことに気付かないと、自分は愛されている、自分はバカにされていると一人合点しがち(すなわち対抗感情移転を起こしている)。

 

 上記の他、エンディング方法などについても細かく解説されています。カウンセリングと聞くと専門分野で自分では扱えないとすぐに思いがちですが、コーチングとの境が微妙なところもあり、コーチングをしていたらいつの間にかカウンセリングモードになっていたようなこともあります。自分では扱えないと思ったら、リファー(誰かに依頼)するとして、コーチングをやっていくうえで、学びが欠かせない領域であると思います。 

カウンセリングの技法

カウンセリングの技法

 

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