MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ドキュメント金融庁VS地銀(読売新聞東京本社経済部)

『ドキュメント金融庁VS地銀』(読売新聞東京本社経済部)

 昨年、森金融庁長官のもと金融庁の新たな方針が描かれた『捨てられる銀行』(橋本卓典)が売れましたが、本書は、その森金融庁長官のインタビューも交え、地方銀行にどのような影響が及ぶのか、金融庁検査を受ける銀行マンの声も取り上げながら描かれている、金融行政を垣間見る一冊です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇森信親・金融庁長官の方針

 個別の貸出先の内容を金融庁の検査の対象から外すと宣言したうえで、代わりに、銀行がどのように利益を得ようとしているのかというビジネスモデルそのものを調べる方針を打ち出した。

 金融庁は従来、地方銀行をほぼ2~3年に1回の周期で満遍なく検査してきた。16年からは、大きな問題がありそうな地銀に絞った検査を始めることにした。

⇒もう少し詳しくみると、

 検査はこれまで99年に公表された「金融検査マニュアル」に基づいて行われてきたが、個別の貸出先企業の債務者区分が妥当かどうか、貸倒引当金を十分積んでいるかどうかの査定が中心だった。個々のケースを積み上げることによって、金融機関の経営の健全性をチェックする仕組み。企業の事業の将来性よりも担保や保証を重視してきた面は否定できない。

 これを受けて金融庁は原則として金融機関の自己査定を尊重し、取引先の財務だけでなく、事業内容を評価する仕組みに改めた。新たな検査態勢は、リスクの種類に応じた専門チームを、業態を横断する形で編成した。複数の金融機関の取組みを比較することで、より良いやり方を把握し、それを他行に広げる狙いがある。

 

■具体的取組み

①「担保偏重主義」を「事業の将来性重視」へ転換するよう促し、「目利き力」を発揮して中小企業への融資の増加を迫った。

②上場企業には、「コーポレートガバナンス・コード」を、機関投資家には、「スチュワードシップ・コード」を示し、投資家と企業が企業価値向上に向けて取り組むように求めた。

③「フィンテック」を進められるようにする環境整備も進めている。

少額投資非課税制度(NISA)を設け、拡充した。

 

〇地域金融リアルタイムチーム

 メガバンクに対しては専従の検査チームを置き、様々な角度から随時検査できる体制を整えている。16年10月、金融庁の検査局に、地銀や信金、信組の運用体制を確認する「地銀金融リアルタイムチーム」が発足した。地銀の運用体制を「経営管理」や「法令遵守」と同じようなリスクとして調べるのが役割。

 

〇検査局の体制

■業態別チーム

①G-SIFモニタリングチーム(3メガバンク

②Non-G-SIFモニタリングチーム(3メガ以外の大手行)

③地域金融機関等モニタリングチーム(地方銀行信金、信組)

④保険会社モニタリングチーム(生保、損保)

⑤大手証券モニタリングチーム(大手証券)

■業務・リスクカテゴリー別チーム

経営管理

②事業性評価

③市場業務等

④システム

⑤法令等遵守

⑥リスクがバナンス

⑦海外調査

⑧地域金融リアルタイム

 

〇地銀の経営統合をめぐる最近の主な動き

①第四(新潟)+北越(新潟) ⇒18年4月に経営統合で基本合意

②常陽(茨城)+足利(栃木) ⇒16年10月めぶきFG

③東京都民+八千代(東京)+新銀行東京 ⇒16年4月東京TYFG

④横浜+東日本(東京) ⇒16年4月コンコルディアFG

⑤三重+第三(三重) ⇒18年4月に経営統合で基本合意

⑥関西アーバン(大阪)+みなと(兵庫)+近畿大阪(大阪) ⇒18年4月に経営統合で基本合意

⑦徳島+香川+大正(大阪) ⇒16年4月トモニHD

⑧ふくおかFG+十八(長崎) ⇒17年4月に経営統合で基本合意(延期)

⑨肥後(熊本)+鹿児島 ⇒15年10月九州FG

 

 本書では、ほかに、具体的な地銀の取組みとして、第一勧業信組、福島銀行北海道銀行八十二銀行山梨中央銀行北越銀行の事例が取り上げられています。AIやフィンテックで大きく変わる金融業界。でも、根っ子には銀行と企業の人と人の関わり合いがベースにあり続けて欲しいなと思います。

ドキュメント 金融庁vs.地銀 生き残る銀行はどこか (光文社新書)
 

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