『これがほんまもんの経営者』(大野健司)(〇)
日本政策金融公庫で支店長等を歴任し、経営者や経営の現場を1万社以上みてきた著者が、立派な業績を上げている経営者の共通項として、「15の習慣」をまとめた本書。経営者のみならず、コンサルタント、税理士、後継者、経営リーダーなど、幅広く読んでいただきたい一冊。現場の経験をまとめ上げた書籍には重みがあります。良書です。
(印象に残ったところ‥本書より)
①温故知新(自社の歴史・文化を振り返る)
・自社の決算書を10年程度時系列で横に並べ、資金運用表等を作成して過去の経営数字を俯瞰して考えることを勧めている。
・「運が良い」。本当に苦労した人、ぎりぎりまで頑張っている人にこそ、この言葉がふさわしい。成功している多くの中小企業経営者は、「成功した秘訣は運が良かった」と謙虚にいう場合が多いが、努力を重ねた結果、運を呼び込んでいるのである。
②調子に乗らないこと
・会社が存続するためには現実を見つめる勇気と、足元の資金繰りを理解し先行きを想像できる感性が必要。足元の資金繰りだけは経営者自らが理解していないといけない。
③経営理念を磨き経営計画を立てる
・数字のことは経理担当者や顧問税理士任せの経営者もいるが、金融機関にとっては良い印象にはならない。
④誰よりも脳ミソに汗をかいて働く
・中小企業の経営者は、各部門の業務内容を熟知して、その活動について適宜的確にリアルタイムで支持をださなければならないので、常に先頭に立って陣頭指揮を執る気構えが必要。
・指揮官の役割とは、必ず現場にいること、見本になること、徹底して教育すること、会社の数字を作ること。不断の努力が必要となり、誰よりも働くことになり、その責任の重さからも高い報酬を得る整合性が存在する。
⑤ゴールの前にいる(主役になる)
・経営者が管理しなければならない数字は、計画の数字。自社で最も大切な数字が何かを考え抜いて計画を作り、計画の数字と実際の数字が乖離した時に、どうすれば計画の数字を達成できるかを考えること。
⑥志を持ち、活きたお金を使う
・5S活動が定着すると、生産性を測定する指標を自社で開発することができる。動かないと人生損だと感じる社員が増えてくる。会社を良くしようと社員が自発的に動き出す。5S活動は単に整理整頓を進める運動ではない。取り組む社員の意識を変えることができるのが、本当の5S活動である。
⑦卵を盛る器(自分の器以上に会社は大きくならない)
・社長だけがやみくもに突き進んでも成果は出ない。社長と社員が自社の目標となる、はっきりとしたベンチマーク企業を持つことを勧めたい。
⑧財務を磨き込む(決断を支える財務の力)
・美しい財務諸表、とりわけ美しい貸借対照表を作ることは大切。
・経営者がその生涯を打ち込んできた会社の姿を一番よく表すのが決算書であり、とりわけ貸借対照表である。貸借対照表は経営者自身の顏と言って良いくらい、経営者の人柄を表すもの。美しいバランスシートは、日々の真摯な経営努力の積み重ねによって生まれる。
⑨人の心に貯金をつくる
・経営者には言葉力が必要。他者を思いやるコミュニケーション力と言えるかもしれない。社員に慕われる経営者は、何気ない一言で社員のハートをつかんでいる。社員を傷つけないことも重要。社員と同じ目線で話すことができる「普段の会話力」が社員の本音を引き出し、この経営者のために頑張ろうと無形の力を引き出す。経営者が「俺が、俺が」の姿勢では、社内のベクトルは決して一致することはない。
⑩銀行と上手に付き合う
・付き合って価値のある金融マンとは、①親身になって考えることができる人、ダメなことはダメと言える人、③情報提供ができる人。
⑪本気の社員を育てる(社長は親、社員は家族)
・トップダウンは必要だが、強すぎると社員は萎縮し生産性はかえって低下する。
・組織図をつくって考えることが重要。会社の定義は組織図にある。
⑫宿命を受け継ぎ、ど真ん中を進む
・2代目の覚悟。①覚悟を決めれば底板が現われる、②人生二度なし、③先送りは地獄の1丁目行き、④矢印は自分に向ける(他人に向けている間はダメに決まっている)
⑬山あり、谷あり、魔坂(まさか)あり
・部課長の心得
1)部課長は会社のエンジン
2)伝達とコミュニケーションを使い分ける
3)鬼の手と仏の心
4)学び続ける謙虚な心
5)部下の成長にコミットする
6)責任者としての自覚(心技体)
7)選択と共有
8)スケジュールを管理支配する
9)努力・忍耐・努力のマネジメント
⑭ゆっくり成長
・大事なことは、①チェックしていることを繰り返し周知すること、②もし不正を行った場合はどんな小さなことでも評価は最低にすること、③処罰したことを全社員に知らせ、今後も断固たる処置を周知することが重要。
⑮念ずれば花開く
・「以心伝心」という言葉があるが、経営者の想いは言葉にして、「発信」しなければならない。以心⇒発信⇒伝心。
・「社員のことが馬鹿に見えたら終わりだと思ったほうがよい」(ある社長)
私にとっては、共感できるところが多数ありました。たくさんの経営者とお会いして、現場を見て、決算書を見ていると、経験値が積み上がり、結果、初めてお会いした方でもお話をお伺いし、現場と決算書を見れば、凡そ自分のイメージと大きくかい離することはなくなってきます。そんな経験値が一冊にまとめられている本書は貴重です。