MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

勇気づけの心理学(岩井俊憲)

『勇気づけの心理学』(岩井俊憲)(〇)

 アドラー心理学の勇気づけ(encouragement)についてまとめた一冊。アドラーは「勇気」という言葉の定義づけをしていませんが、①リスクを引き受ける能力、②困難を克服する努力、③協力できる能力の一部というようなニュアンスです。

 勇気づけは、アドラー心理学の治療のカギで、「勇気づけと責任のバランス」という公式のもと、「大丈夫だから前に進みなさい」ではなく、「困難だとしても君がやろうと思うなら前に進みなさい」と伝える考え方です。勇気づけの反対である、勇気くじきにならないよう、勇気づけの発想をしっかり学びましょうという内容です。コーチングやアドラー心理学を学んでいる方には、とても参考になる一冊です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇「ほめる」と「勇気づけ」の違い

・「ほめる」のは、期待を達成したとき。期待が外れると失望が表明される。

・与える側の関心で一種の褒美として上から下への関係として与える態度として「ほめる」。

・「ほめ言葉」は行為をした人に与えられる。「勇気づける言葉」は行為そのものに与えられる。

・「ほめている」と他人との競争に意識が向かい周囲の評価を気にする。「勇気づける」と自分の成長、進歩に意識が向かい、自律心と責任感が育まれる。

・「ほめる言葉」が口先だけのことであるのに対し、「勇気づける言葉」が心からにじみ出たものであることを相手は微妙に判断する。

・「ほめる対応」はその場限りの満足感を刺激することはあっても明日への意欲が生まれにくい。「勇気づける対応」は、明日への意欲を生み、継続性が高い強みがある。

 

〇賞罰の問題点(勇気づけは賞罰に代わる教育法)

・顔色を見るようになる

・上位者の感情に左右され一貫性がない

・仲間との競争心を煽りやすい

・だんだんエスカレートしないと効果が薄れる

・上位者の仕事量を増加させる

 

〇4つの影響力

①勇気づける人の態度

②勇気づける人と勇気づけられる人の日頃の関係

③言葉以外のノンバーバル・コミュニケーション

④相手の関心に関心を持つこと(共感)

 

〇共感

 共感とは、相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じること

 

〇勇気づける人の6つの特質

 勇気のある人(自己受容している人)は、自分の資源(持ち味)を自分で上手に活用している人(自分との付き合い方に重点を置いたとらえ方)。そして、他者に対してどう行動するか、勇気をもって他者とどう付き合うか(対人関係的な側面)。

①尊敬と信頼で動機づける ⇔ 恐怖で動機づける

②楽観的(プラス思考) ⇔ 悲観的(マイナス思考)

③目的(未来)思考 ⇔ 原因(過去)志向

④聴き上手 ⇔ 聴き下手

⑤大局を見る ⇔ 細部にこだわる

⑥ユーモアのセンスがある ⇔ 皮肉っぽい

 

〇Why(なぜ・どうして)という質問の問題点

①つじつま合わせの回答を引き出すため、半分以上ウソが混じりがちである

②賛成できないとき、不快に思うときに使われることが多い

③聞かれた人に否定的な響きで伝わる

④相手を防衛的、逃避的にさせがちで、ときとしてかえって攻撃的にさせることがある

⑤お互いの距離感を作り、人間関係を悪くする

 

〇Whyと聞きたいときの知恵

①人間の行動に関することには極力使わない。

②使うときでも軽く言う。連発しない。

③原因を聞く「なぜ」よりも目的を聞く「何のために」を心がける。

④過去のことがらを否定的に、あれもこれもと話を拡大して指摘しない。

⑤代わりに、特定の事柄に限定して、「どうやって」を使いながら学びの機会としてアプローチする。

 

〇大局を見る

 「勇気づける人」は、まず大局を見る。より高い視点、より幅広く、より長期的な観点から何が本質的かに関心を持って対処する。重要なポイントに先に触れてから細部に言及するので、相手は重箱の隅をつつかれた思いがしない。

 「細部にこだわる人」は、その人なりの価値観、物の見方を離れることができず、それをモノサシにして他社に押し付けることがある。

 

〇勇気づけ名人への道

①自分自身を勇気づける

・自分を勇気づける生活を心がける

 ⇒「オセロ・ゲーム生活」‥黒に冷静に対処し、白にひっくり返す

・勇気づける人と接する

 ⇒人相の良い人、お金にきれいな人、恐怖で動機づけない人、側にいて充実感のある人、フィードバックを謙虚に受け入れる人

・言葉、イメージ、行動を味方につける

・勇気づけの技法を自分を対象にして使う

②勇気くじきをやめる

・減点主義 ⇒加点主義

・ダメ出し ⇒ヨイ出し

・結果重視(プロセス軽視)⇒プロセス十四

・競争原理(対他競争)⇒協力原理

・人格軽視 ⇒人格重視

・聴き下手 ⇒聴き上手

・失敗を非難 ⇒失敗を受容

③勇気づけを始める

 

〇勇気づけの効果

①自己勇気づけ効果

 勇気づけられた人はもとより、勇気づけをした人自身が勇気づけられる。

②ブーメラン効果

 勇気づけをした当人に返ってくるとは限らない。第三者に勇気づけのブーメランが投げられ、さらにはまた次の人へと波紋のように広がる。

③親和力効果

 ブーメラン効果により、家族・仲間などとの結びつきが強まる。

④雪だるま効果

 最初は小さかった雪の玉が、コロコロと生活の中で坂道を転がり始めると、エネルギーを高め、周囲を巻き込んで、やがて大きな雪玉になるように、小さな勇気づけは、自分の内面に潜む可能性に拍車をかけ、希望と信念を加え、周囲の人たちを巻き込んで、やがて大きなアウトプットをもたらす。

 勇気づけは「できない(I can not)」から「できる(I can,I will)」へと信念と態度を変換する。

 

 本書はワーク例もたくさん掲載されており、研修や講義を聞いているような楽しさがありました。頭でイメージを理解したら、後は実践。実践こそがものを言う分野だと思います。コーチング&アドラーを学び始めて一年。最近は、だいぶ体に馴染んできた気がします。

勇気づけの心理学 増補・改訂版

勇気づけの心理学 増補・改訂版

 

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