MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン)

『謙虚なコンサルティング』(エドガー・H・シャイン)(〇)

 まさに今私が自分スタイルの確立を目指して取り組んでいることが書かれていました。コンサルティング×コーチングにカウンセリング要素などが入り、どういうネーミングがピッタリくるのか、分からない領域。「誰かに相談されたとき、どうすれば相手の役に立つことができのか」。目指す方向性、そのためにどういうアプローチができるのか、という点について、多くの事例とそこからの学びを中心にまとめられています。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇謙虚なコンサルティングの前提

 積極的な気持ち、思いやり、好奇心を持って、クライアントの本当の思いを突き止めること。

 

〇主語は「クライアント」

・「技術的な課題」であれば、専門家や熟練者が問題解決に導くことができる。だが、「適応を要する課題」に取り組むためには、クライアント自身が学習し続けて、ものの見方、世界のとらえ方を変えていく(適応していく)ことが必要。

・自分が手助けすることによって、相手が「気づく」ことに集中する。

コンサルタントや支援者の問いかけや聞く姿勢によって、クライアントは自分自身にとって本当に気がかりなことや、これまで目を背けていた大切なことに気づく。この一点に集中する。

 

〇人間関係における信頼と率直さのレベル

 レベルの境目は曖昧だが、大原則として、謙虚なコンサルティングでは、レベル2の関係が不可欠。

①レベル△1 ネガティブな敵対関係、不当な扱い

②レベル1 認め合うこと、礼儀、取引や専門職としての役割に基づく関係

・支援者が問題を正しく診断し、いつでも使える有効な解決策を持っている限りはうまくいく

③レベル2 固有の存在として認知する

・役割を通してではなくその人自身を見て、互いに接する。

・様子をうかがったり診断や分析をしたりせず、即座に、クライアントとクライアントが置かれている状況に対して好奇心と関心を示す。

④レベル3 深い友情、愛情、親密さ

・組織に関する仕事では、レベル3の関係は避けたほうがいい。

 

コンサルティングモデルの失敗

 最大の教訓は、データを収集する科学者であることは支援者であることと同じではない。特定の診断ツールが科学的信頼性や妥当性に太鼓判を押している場合、それはなんらかの調査目的のために組織を「評価」しようとしている科学者にとっては役立つかもしれないが、問題を解決しようとしているクライアントにとっては役立つとは限らない。

 

〇謙虚なコンサルティングの姿勢(3つのC)

①commitment(力になりたいという積極的な気持ち)

⇒力になりたいという気持ちを整える

②caring(クライアントに対する思いやり)

⇒「この人はどんな人なのか」「どのような問題が起きているのか」を知りたいと思う必要がある

③curiosity(好奇心)

⇒できるだけ早く個人的な話を始める。金槌になって、打つべきくぎをひたすら探そうとしないこと(自分の考えに固執して、問題のとらえ方を誤らないようにすること)。未来のクライアントが伝えようとしていることに全力で耳を傾ける。クライアントが今この瞬間に個人的に話していることに集中しよう。

 

〇聴き方

①自己中心的に聴く

②内容に共感しながら聴く

 クライアントがどんな問題や課題、状況を伝えようとしているのか、クライアントが伝えたいと思っていることの中でよく考えるべき問題の要素は何か、という点にフォーカスした聴き方。

③人に共感しながら聴く

 コンサルタントに話している状況について、クライアントが実際にどのように経験し、感じているのかに焦点を当てた聴き方。

 

〇対応の仕方を選ぶ

①自分を偽らない

 謙虚な問いかけか反応か。関心を持って問いかける姿勢に徹する。

②質問の種類

・概念に関する質問‥基本は「なぜ」

・感情に関する質問‥「それについてどのように感じたか」

・行動に関する質問‥「どんな行動をとったか」

・示唆的な問いかけ

 最大の問題は、行うタイミング。提案やアイデアは質問の形にして述べるとソフトに伝わるし、確信が持てないときは口調を穏やかにするといい。十中八九うまくいかないのは、いわゆるデータ収集を行ったのちに、コンサルタントが自分の考えだけで編み出した案を提案すること。それよりいいのは、レベル2の仕事関係がある程度できたと思えるまで、クライアントに信頼してもらえたと実感できるまで、示唆的な問いかけを用意して待つこと。

 

〇謙虚なコンサルティングの理論

①確実に支援するためには、本当の問題(クライアントの懸念)が何かを突き止める必要がある。

②①のためには、クライアントと支援者が信頼し合い、率直に話ができることが必要。

③②のためには、支援者の場でありがちな、ほどほどの距離感を保つレベル1の関係を超え、個人的な話の出来る、機能するレベル2の関係を築く必要がある。

④③のためには、関係をある程度打ち解けた者にする必要がある。

⑤④のためには、個人的なことに踏み込んだ質問をしたり、より個人的な考えや感情を打ち明けたりすることによって、謙虚に問いかけることが必要。

⑥レベル2の個人的な関係を築くためには、コンサルタントはその意向をクライアントと初めて接するときに伝える必要がある。

⑦クライアントを悩ませている問題を把握するためには、レベル2の関係を築いてしっかり機能させたのちに、支援者とクランとは共同で行うダイアローグのプロセスを始めなければならない。

⑧クライアントが懸念している問題のうち、有効な解決策が皆無の問題があるかどうかを判断するためには、コンサルタントとクライアントがともに注意深く検討する必要がある。

⑨どのタイミングで行動すべきかを判断するには、コンサルタントとクライアントは優先順位とどんな行動を起こすかを共同で決める必要がある。

⑩問題が単純明快だとわかったら、支援者は自ら専門家もしくは医者の役割を担うかあるいはクライアントを他の専門家か医者に紹介するといい。問題が複雑で厄介だとわかったら、ダイアローグを始めて、実行可能な「アダプティブ・ムーブ」(診断のためのインタビューや調査)を探すべき。

 

 クライアントを抱える人の心構え、向き合い方、取り組み姿勢などに多くの示唆があった本書。「知識・スキル」が仇になることもあり、有効に活用できる考え方を学ぶことの大切さを感じました。学べば学ぶほど陥りやすい穴に落ちないように注意したいと思います。

謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か

謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か

 

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