『ナラティヴ・セラピーの会話術』(国重浩一)
ナラティヴ・セラピーの理論的背景とその活用方法がまとめられた一冊。外国人著者による翻訳版よりも、日本人が日本文化に合わせて解説している本書は、ナラティヴ・セラピーって何?っていう方にとっても入りやすいと思います。私もそうでした。事例も多く、イメージも湧きやすい内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ナラティヴ・セラピーとは
・ナラティヴとは、物語、お話、ストーリーという意味。
・ナラティヴ・セラピーでは、特定のストーリーには、そのストーリーからは漏れている側面が必ずあるということを強調する。特に、自分で自分の人生を乗り切ることができないような袋小路に入ってしまった人が語るストーリーは、その人の無能さや無力さなどが主題となりがち。その人が持っているそのほかの能力、資源は、そのストーリーラインから外され、その人の「人となり」のごく狭い部分に焦点が当てられるようになる。その狭く焦点化させられた物語が、その人の「真実」を私たちに訴えかけてくる。その物語が、幾度となく語られることによって、その「真実味」を増していき、強化される。
・支配的な物語(ドミナント・ストーリー)。この支配的な物語によって覆い隠されてしまった挿話を、ナラティヴ・セラピーでは探し求めていく。この人が語る話の中に、何か語られていないものがあるだろうかという「探索」する姿勢が基盤。
⇒ナラティヴ・セラピーの大きな狙いは、何らかの「結末」から語られるプロットに沿った物語ではなく、別のバージョンの物語(オルタナティブ・ストーリー)を相談に来た人と一緒に探していく。「アナザーストーリー」に焦点を当てる。
・その人の苦境にいることが「結(末)」となるストーリーではなく、それをまだ「起」にすぎないストーリーと受け取り、「承」や「転」をもたらしてくれる伏線が必ず存在するという信念を持つ必要がある。
〇外在化する会話の導入
・「何があなたの足を止めてしまうのですか?」「どのような状況がその時のあなたに影響を及ぼしていたのですか?」「何かそのようなことを生じさせることがあったのでしょうか?」。問題行動等をクライアント自身が作りだす張本人であるかのように尋ねるのではなく、クライアントの行動が操っている者があるかのうように尋ねていく手法。
〇確認作業
「もう少し聞きたいのですが、いいですか?」「今までの話は大丈夫でしたか?」。この確認を要所要所で入れていくこと。それは、カウンセリングにおける主導権を完全にカウンセラーが掌握するのではなく、たとえわずかであってもクライアントに渡していくため。カウンセリングにおける会話を、主従関係のはっきりしたものではなく、双方向から持ち寄ることによって成立するもの。
〇ナラティヴ・セラピーの主要な視点
①人間はストーリーによって人生を生きている。
②私たちが生きる拠りどころにしているストーリーは、真空地帯で生産されるわけではない。
③ストーリーにはディスコース(考え方、価値観、意味づけ)が深くかかわっている。
④近代社会は監視と精査によって維持される社会規範によって特徴づけられている。
⑤自分自身が同盟できるような矛盾しているオルタナティブなディスコースが必ず存在する。
⑥支配的な文化ストーリーは、人生において変化を求める人々に過酷な制限を課す
⑦支配的なディスコースを脱構築することによって、人生のための新しい可能性が生まれる。
⑧ストーリーには包み込まれないような生きられた経験が必ず存在する。
⑨カウンセラーの課題は、クライアントに以前より満足を与え、感じ入らせるようなプロットを構成できるよう援助すること。
〇ナラティヴ・セラピーの流れ
①相手の話の要点やサマリーを返すこと
②相手の感情や気持ちを確認すること
③問題の影響を描写していくこと
④ユニークな結果や例外を見つけること
⑤その人の好みを確認していくこと
⑥ユニークな説明を求めていくこと
⑦ユニークな再描写を求めていくこと
⑧ユニークな可能性について探索していくこと
⑨オルタナティブ・ストーリーを定着させていくこと
・ある時代、ある地域、ある文化に所属する集団によって共有される考え方であったり、ものごとの価値観であったり、意味づけであったりする。
・世の中に強力にはびこっている存在であるディスコースは、「支配的なディスコース」と呼ぶ。
〇脱構築
・当たり前や当然とする考え方に疑問を呈していく。当たり前、当然とする考え方の特徴は、それが例外のないものであると、私たちに迫ってくる点にある。思い込みをもたらすこと。それは、十分に検討された結果ではない。ただ漠然と本当のことだと思ってしまっている。
〇二つの風景
・「何が起こったのか」(行為の風景)と「それは何を意味しているのか」(アイデンティティの風景)。そこに何らかの「意味」を書き込んでいくことによって、ユニークな結果を単なる偶然、単なる例外ではないものにできる。
先日、ナラティヴ・セラピーのセミナーを受講してきました。「先入観から抜けて新たな考え方を見出しましょう」というスタンスは、問題解決にはとても共感できるアプローチだなと感じました。セラピーは頭で理解することも必要ですが、実際にセミナーなどで見て聞いて体感することも大切。両方を行ったり来たり。それが理解の血か未知かなと思います。