MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ジョブ理論(クレイトン・M・クリステンセン他)

『ジョブ理論』(クレイトン・M・クリステンセン他)(〇)

 クリステンセン教授の最新刊です。イノベーションの仕組み、すなわちイノベーションが成功する本当の理由が分かれば、努力を運任せにする必要はなくなる。本書は、ジョブ(顧客が片付けるべき用事)に着目し、product(商品)ではなく、progress(進歩)の観点から顧客接点を考えていく一冊です。『イノベーションのジレンマ』には8年の歳月を費やした著者ですが、本理論の構築には何と20年も費やしたとのこと。それは、ジョブは一見して分からない顧客の意識の中にあり、事例の収集に膨大な時間がかかったから。そうした、地道な積み上げから導きかれた考え方は一読の価値があります。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇ジョブの定義

 「どんなジョブ(用事、仕事)を片付けたくて、あなたはそのプロダクトを雇用するのか?」。ジョブ理論の中核には、顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるという、単純だが強力な知見が込められている。この進歩のことを「顧客が片付けるべきジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を雇用するという比喩的な言い方をしている。この概念を理解すれば、顧客のジョブを発見するという考え方が直感的に分かるようになる。

・進歩:ある特定の状況で人が遂げようとする進歩

・状況:プロダクトの属性、顧客の特性、トレンド、競争反応

 

〇ジョブを見極める

・ジョブ理論が重点を置くのは、「誰が」でも、「何を」でもなく、「なぜ」である。ジョブを理解するということは、知見を集めて、様々なことが密接につながり合った絵を作りあげていくことであり、細かい断片に区切ることはできない。

・短編ドキュメンタリー映画風に頭の中で撮影してみる。

①その人が成し遂げようとしている進歩は何か

②苦心している状況は何か

③進歩を成し遂げるのを阻む障害物は何か

④不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか

⑤その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義はなにか。また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

・ジョブは作りだすものではなく、見つけだすもの。

 

イノベーションの世界の罠

 多くの企業が近似や推算の精度をあげることばかりに熱心。大量のデータを集め、微調整し、相互参照させると、成功を正しく予測できるような気がしてくる。だが、顧客がなぜその選択をしたのかを理解できていなければ、根本的に欠陥を抱えたプロセスの進め方がうまくなるだけ。

 

〇ジョブはどこにある?

 ジョブは至る所に転がっているが、どこを見るか、見つけたものをどう解釈するか知る必要がある(ジョブハンティング戦略)。

①身近な生活の中

②無消費に眠る機会

③間に合わせの対処策

④できれば避けたいこと

⑤意外な使われ方

 

〇顧客のストーリーをつくる(ストーリーボード)

 顧客のストーリーを組み立てるのは、そうすることによって、相反する力が顧客にどう働いているかを知り、ジョブの文脈を把握することができるから。

・昔は・・・

・毎日・・・

・あるとき・・・

・ああだったから、こうした・・・

・こうだったから、ああした・・・

・とうとう、私は・・・

 

イノベーションのデータの3つの誤謬

①能動的データと受動的データの誤謬

・ジョブを解決するために必要な情報は、顧客が苦労している文脈の中にある。そのような情報は声をあげず、はっきりした構造もなく、推進者もおらず、行動計画もないことから、「受動的データ」と呼ぶ。受動益データを見ても、周囲の状況の変化を読み取ることはできない。受動的データはつねに存在しているが、目立たない。

・データは常に現実を抽象化したものであり、その根底には、現実世界のまとまりのない現象をどのように分類するかについての潜在的な仮説が存在する。マネジャーはこのことを都合よく脇によけてしまいがち。それゆえ、データは人為的なものだといえる。

 

②見かけ上の成長の誤謬

 市場に出回る他社製品を見て、模倣したり買収したりする。だが、それによって対象顧客を拡げ、プロダクトの種類を増やしてしまいがち。そして、最初の成功をもたらしたジョブへのフォーカスを失う。多くの顧客向けに多くのジョブを片付けようとすれば、顧客は混乱し、本来、ジョブを片付けるのに適さないプロダクトを雇用し、のちにいらだってそのプロダクトを解雇することになる。

 

③確証データの誤謬

・データには、確認したい観点に自らを同調させるという悩ましい性質がある。

イノベーションのデータについて考えるとき、膨大な定量的データにしろ、人類学的に行動を書き留めたものにしろ、ほぼすべてのデータが、人間の偏見と判断に基づいて構築されると知っておくべき。数字のデータも言葉によるデータも、はるかに複雑な現実から抽出したものであって、リサーチャーはそこから、のちのちの精査に耐えられるような変動因子やパターンを見つけだそうとする。現場に赴き、人類学的な調査を行って集めたデータには、主観性が大きく入り込んでいることが初めから明白だが、数字データの場合には、主観的な偏りが見かけ上の精密さの陰に隠れてしまう。

 

〇データの測定

「顧客にとっても最も重要な物を測定していなかった。測りづらいからだ。本当に重要な、つまり、顧客の人生を向上させているかどうかについては、測定していなかった」(インテュイット創業者:スコット・クック)

 

 重要箇所が多すぎて線だらけ。20年の研究成果を1冊の書物で読めること自体なんて価値があると思います。そりゃ、線だらけにもなります。経営者の声や事例も多くて、イメージもしやすい内容になっています。400ページ弱。最初から最後まで濃密です。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 作者: クレイトン M クリステンセン,タディホール,カレンディロン,デイビッド S ダンカン,依田光江
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: 単行本
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