『ダークサイド・スキル』(木村尚敬)(〇)
著者は、グロービス経営大学院教授であり、経営共創基盤パートナー取締役。実際に現場を動かす際には、論理的思考能力や財務・会計知識などのハード的な側面のスキルだけでなく、もっと人間としてドロドロした自分自身の闇の部分にまで手を突っ込まないと身に付かないような、泥臭いヒューマンスキルをいかに身に付けていくか。ダークサイドというとダーティなイメージですが、そうではなく、「人間に対する深い理解」とでもいうべきものを扱った一冊です。木村先生っぽくて好き!って、木村先生を知っている方なら思うはず。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇7つのダークサイドスキル
①思うように上司を操れ
・ミドルの人たちに求められているのは、表向きはファイティングポーズを維持しつつ、裏で先を見通したネゴシエーションを進めておくしたたかさ。
・現状を正しく把握して先を見通し、勇気をもってそれを上司に伝えること。本当に事業を理解しているからこそ、長い時間軸でどうやって生き残るか、勝ち抜いていくかの冷静なパスを正しいタイミングで出すということ。
②KYな奴を優先しろ
・上司の発言によって下の人間はどうしてもバイアスがかかるから、バイアスをかけずに思ったことを言わせるためには、「〇〇さんはどう思う?」と粘り強く問い続けること。「これをやっておけ」と言うのをグッとこらえて、部下に言わせる。そこを我慢できるかどうかで、KYな人間が育ち、上司の顔色をうかがわずに、自由にいろいろな意見を言える文化ができる。
③「使える奴」を手なずけろ
・何か事を成そうというときは、どうやって役に立つ人を集めてチームをつくるかが重要。全部自分でやろうとしないで、あちこちから能力や機能を借りてくるためには、発想の転換が必要。要するに、いかに他人のスキルをパクってくるか。相手かまわずパクってくるためには、上の人間は下の人間を認めるところから始めなければいけない。「俺の言うことを聞け」というだけでは、上司はもはや務まらない。
④堂々と嫌われろ
・親近感と敬意は両立しない(『ローマ人の物語』(塩野七生))。
・恐れと憎悪は別の感情であり、憎悪の念は必ずしっぺ返しをくう。「畏敬の念」という言葉があるが、まさに相手が自分に対して抱く畏れと敬意の混ざった感情。IGPIの冨山和彦代表はまさにこのタイプで、彼が来ると、その場の空気がピリッとする。下手のことを言うと見破られるし、なあなあでごまかせる相手ではないので、こちらも真剣勝負である。いい意味の緊張感がチームを強くする。
⑤煩悩に溺れず、欲に溺れろ
・「小欲を捨て、大欲に立つ」ということ
・自分の煩悩は何かということをしっかりと自覚したうえで、逆転の発想で、それを自分自身の中で与件とすることが求められている。つまり、煩悩をなくすのではなく、どうすればそれが暴れないか、悪い方向に働かせないにはどうすればいいかを考える。
⑥踏み絵から逃げるな
・踏み絵とは、自分の信念が試される瞬間をいう。
・この人は、リスクを取って勝負に出るのか、それとも守り一辺倒なのか。改革というのは何かを変えることなので、必ずリスクを伴う。それを承知で、前に進められるのか。リーダーの覚悟と勇気が試される場面。
⑦部下に使われて、使いこなせ
・どうやって部下から情報を引き出せばいいのか。「KYな奴を優先しろ」で述べた、部下の話を聞く姿勢を持つこと。つい答えを言ってすぐに片づけたい衝動に駆られがちになるが、そこをグッとこらえて、「君ならどんなやり方があると思う?」と聞いてみる。あえて部下に考えさせることで、情報を聞き出していく。相手にしゃべらせる、そのためにはどれだけ効果的な質問ができるのかが重要。
〇ダークサイド・スキルを磨くポイント
①いつでも戦える態勢を整える
・「人は見たい現実しか見ない」(カエサル)
・「合理と情理のはざま」を理解してこそ、人を動かすことができる
②人を操る3つの力
1)表と裏を使い分ける「コミュニケーション力」
財務三表が読めるのは絶対条件、つじつまが合わない部分を見つけてそこに違和感を感じられるかどうか。
2)硬軟織り交ぜて人を動かす「人間力」
3)リーダーとしての高い使命感
③ブレないリーダーになるための3つの提案
1)将来に向けて、数値目標ではないビジョンをつくる
2)言行一致を目指す
3)腹をくくる
さすが木村先生!ビジネススクールの教授でありながら、再生現場を数多く経験されているからこそ、きれいな勉強だけではダメ。改革には避けて通ることのできない、人間の泥臭い部分から逃げずに、しっかりと向き合うこと。MBA生であれば、特に学びを強化するために効果の大きい一冊だと思いました。