『コミュニケーションをデザインするための本』(岸勇希)
クリエイターのお友達から紹介頂いた本書。電通コミュニケーションデザインセンターに勤める著者が実際に手掛けた7つの事例を解説した事例集です。広告・コミュニケーションの第一線で活躍するクリエイターが何を考えどのような仕掛けを考え出したのか。ビジュアル的にもとても分かりやすい一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇収録事例
①話題を拡げる‥永谷園「ミス冷え知らずCOLLECTION’08」
②徹底的に尖る‥ワールド通商「求ム、天才」
③ニュースをつくる‥フマキラー「一発命虫!バイラル・キャンペーン」
④売れる空気をつくる‥ロケットカンパニー「『漢検DS』プロモーション・キャンペーン」
⑤気持ちをデザインする‥マリエール「40人40色の恋愛模様」
⑥メディアを見つける‥メ~テレ「『ウルフィ・ティッカー』配付キャンペーン」
⑦メディアをつくる‥「『新聞ブログ』開発プロジェクト」
〇コミュニケーション環境の変化
①メディアの環境変化‥過剰選択肢、情報過多
②生活者の行動の変化‥AIDMA⇒AISASへ
■AIDMA:注目→興味→欲求→記憶→購入
■AISAS:注目→興味→検索→購入→共有
③広告コミュニケーションの変化‥能動の価値、信憑性の価値、話題創出の価値
〇事例1まとめより
商品ターゲット=コミュニケーション・ターゲットと決めつけず、ある特定のターゲットにコミュニケーションを集中させ、話題の火種を作る方法もある。ただしその場合には、必ずその火種を本来の商品ターゲットにまで燃え広がらせていく施策が不可欠であり、その2つが揃って、初めて精度の高いコミュニケーション・デザインが完成する。
〇事例2まとめより
どうしても売上やアクセス数などの指標に目が行がちのWEBサイトではあるが、思い切って「分かる人だけわかればよい」と尖った表現を最後まで貫いたことで、ブランドの世界観を伝えることに成功したのではないか。
〇事例3まとめより
これだけの成果を残せた最大の理由は、クライアントがバイラル(口コミ)を正しく理解して、支えてくれたからにほかならない。もちろん我々も提案を通すために、丁寧かつ理論的な説明をしてきた。そうした仕事へ取り組むコンディションづくりも、コミュニケーション・デザインを成功させるうえでとても重要。
〇事例4まとめより
このキャンペーンでは、大きく2つの考え方が効果的に機能した。
①広告コミュニケーションを展開する前に「広告が効きやすくなる環境づくり」を戦略PRによって行った。
②「売る」ことを強く意識してすべての施策を設計した。
⇒コミュニケーション・デザインでは、課題解決のために、あらゆるメディア、手法を検証し、統合的にキャンペーンを設計していく。決して派手な施策を展開したわけではないが、「売る」という目標のために細かなところまで意識し設計できたキャンペーン。
〇事例5まとめより
個の事例の最大のポイントはCMとWEBが切り離されることなく、企画から制作に至るまで一元的に行われた点。連携のない分業こそがコミュニケーション・デザインの大きな障害になっている。そういう意味では、このキャンペーンは、テレビCMとWEBがそれぞれの役割をきっちりと果たし、うまく相乗効果が得られた事例。
〇事例6まとめより
コミュニケーション・デザインでは、課題解決のためのありとあらゆる手法を検討することが必要。自由に発想できるという点では魅力的だが、CMプランナーなら映像、コピーライターなら言葉といった専門領域がないだけに、様々なメディアの特性、可能性について深く理解していることが重要。また、メディアの知識に限らず世の中の流行や、コミュニケーションの手法自体を変えていく「新しい技術」についての知識、理解も不可欠。選択肢を多く持っているからこそ、自由な発想で課題に対してアプローチできる。
〇事例7まとめより
コミュニケーション・デザインの仕事領域はすでに、従来の広告という枠だけでは規定できない領域に及ぶようになっている。
〇プランニング・プロセス
①思い込まない。自分の肌感覚を疑う⇒自分の肌感覚をインサイトで検証
感覚だけでついていけるほどシンプルで変化の世の中ではない。だから常に臆病で自信がない。だからてって的に調べ、感じる。
②ゴールデザイン
「誰を、どうしたくて、そのために何をすべきか」を極力シンプルに考える
③AISASモデルから考える
1)線形モデル
AISASモデルになぞって、それぞれのコンタクトポイントを考えていけば、ターゲットを購入まで誘導していけるプランを組み立てることができる(コンタクトポイントマネジメント)。
〇ターゲティング
「誰に」+「どう」コミュニケーションするか。
1)ターゲットを把握する
2)キーになるアイデアを考える
3)Re-Media Plan(コミュニケーションの完成度を高める)
4)キャンペーン開始後の調整(Tuning)
〇3つの意識と5つの原則
■3つの意識
①Neutral
固定概念や思い込みを捨て、問題解決の方法をニュートラルに考えられているか?
②Simple
キャンペーンの構造がどんなに複雑だったとしても、生活者が広告に接触した瞬間のコミュニケーションはシンプルで分かりやすいものか?
③Faithful
課題解決に対して、誠実に臨んでいるか?単に「新しいから」「おもしろいから」など、企画側のエゴだけになっていないか?
■5つの原則
①思い込まずにインサイト(肌感覚に頼り過ぎない)
②課題解決のためにありとあらゆる手法、選択肢を考える(メディアから考えない、メッセージから考えない)
③メディアと表現を分離しない(生活者が広告に接触する瞬間を大切にする)
④仕組みではなく、気持ちをデザインする(技術屋仕組みは目的ではなく手段)
⑤結果に固執する(広告の本質を忘れない)
本書が何と言ってもいいのは、私のようなマーケティング初心者にもとても分かりやすく解説されていること。そして、ビジュアル的に見て楽しいつくりになっていること。クリエイターの世界の方々の考え方を知るだけで、相当な発見があります。