『人工知能が変える仕事の未来』(野村直之)
約500ページとボリューム感満点ですが、数式もソースコードもない、文系の方にも分かりやすい内容。今のAIに何ができるのか、ホワイトカラーの知的生産のプロセスがどう変わるのか、IoT、データ分析、認識・認知能力、学習・対話能力、X-tech、具体的新サービスなど、幅広くAIについて知ることができる一冊です。個人的には、「第Ⅱ部人工知能が支える10年後のビジネス」が具体的で興味を惹かれました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ディープラーニングによる画像認識のサービス化
監視業務がそのまま対価、料金を取れる可能性がある少数のサービスとして、次のようなものが考えられる。
・交差点などでの通行量の測定
・監視カメラ映像での不審者などの異常の自動監視と通知
・ヘルスケア・医療向けに広く浅く予備的診断・モニタリングを行う
・小売店舗での売れ行き状況、ディスプレイの乱れの監視
・様々な機器の異常音の測定
・食材や料理の認識、素早い照合による、客と店、料理とのマッチング
・運転中(自動運転含む)の窓外で見つけたオブジェクトの認識
・スマホで撮影した、草、木、茸、各種動物、魚類等の名前を確かめる教育目的
・監視カメラがとらえた自動車の車種を認識
・写真中のランドマークを認識し知識検索のうえ、場所を特定
・様々な分野の製品のメーカー、型番を推定
・人の顏画像から年齢、性別などの基本属性を認識
〇既存サービスに機械の視覚、聴覚を付加して付加価値をつける
・リアルタイムで小売店の売れ行き、在庫状況を商品ごとに画像認識から数値化し、在庫が一定以下になったら自動的に発注される仕組み
・陳列棚の乱雑さが一定限度を超えたことを画像認識で自動判断し、店員さんに整頓を促すことで売上増加を実現する。
・売れ行きの増減パターンや午後から雨になるなどの天気予報、その他の情報から人間が在庫補充をキャンセルしたり遅らせたりするよう、投機的な実行もできるようにしておく。
〇見守りサービス、介護ロボットの可能性
・褥瘡(じょくそう)などの症状の頻繁なモニタリングから、動きのパターンを認識して、異常や改善への変化がみられないかなど、様々なタイプのディープラーニングが大いに威力を発揮できる余地がある。
〇車載かめらとディープラーニングの利用
・カーシェアリングの普及に伴って、同じ車を直前に運転した人の運転ぶりがどうだったのか、車体をこすっていたのは誰の責任だったのかなどの認定にも車載カメラとAIの出番がありそう。
・ウーバーのような合法白タクでドライバーを選ぶときに、それまでの運転実績に基づいて自動算出された安全運転度が分かれば、さぞかし安心できるのでは。
〇異常検知、監視、抜き取り検査にAIを活用
・仮に10人の熟練工が目視や触感でチェックを行っていたとして、それをIoTセンサーでデータ化できれば、収集したデータは、遠隔地点でも集中管理、分析できる。目視であれば、1画像の認識・分類を0.01秒くらいで処理できるので、1台の安価な検品サービスで、毎秒ひとつチェックする100カ所、100人分の検品、監視業務を担わせることができる。これで十分な精度が出るのであれb、劇的なコストダウン。最終チェックは人間が担うにしても、例えば、機械が確信を持てなかった10%以下を1カ所の集中監視センターで大幅に少ない人数で担当することができる。
〇公共部門でのAI活用
・苦情相談業務
・補助金交付事業の効果予測業務
・新政策等の広報業務(世論のリアクションなどの分析)
・パブリックコメントの実施(AIによる自由回答の意味解析・集計など)
・プロジェクト管理業務(メールや日報等の分析で隠れた遅延などのリスクの発見)
・情報セキュリティ監視業務(情報漏えいなど監査のカバレージ、精度の向上)
少し抜き出してみると、ざっとこんな感じです。利用される分野も幅広いので、流しながら一読したら、あとは自分が関心のあるところを拾いよいするという読み方が向いているかもしれません。AIは仕事で携わっているのでなければ、今どんなところまで来ているのか、専門分野の方が追いかけ、実現したいと思っている世界はどんな世界なのか、ということがまず把握できること。そして、自分の発想が過去からの流れに囚われて狭くなっていないかチェックしてみるというようなことを考えながら、読んでいくのが負担が少なく、読むのが億劫にならないかなと思ったりします。