『十字軍物語Ⅰ』(塩野七生)(〇)
昨年『ローマ人の物語』ではまってしまった、塩野七生ワールド。8月に入り、今年も新たなものを読んでみたいと思って手に取ったのが本書。1100年頃~1300年頃までの約200年間に8回の遠征を繰り返した十字軍。聖地イェルサレムを巡る、キリスト教VSイスラム教の宗教戦争であり、現在のパレスチナ問題も元を辿っていけば、十字軍にあたります。現在を理解するためにも過去を知ることに意味があるのだなと実感するとともに、その世界観に引き込む塩野七生さんの文体にあらためて感銘を受けました。全3巻、1000ページ超。ようやく読破まであと100ページ弱のところまで来ました。1冊読むのに1週間以上かかってしまう濃厚な内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇第Ⅰ巻の年表
■第一次十字軍
・1095年:法王ウルバン二世、クレルモン公会議で十字軍結成を呼び掛け
・1096年:貧者ピエール、「貧民十字軍」を結成し中近東へ出発。次いで、サンジル、ゴドブロア、ボードワン、ボエモンド、タンクレディら諸侯が出発
・1098年:アンティオキア制圧。ボエモンドがアンティオキア公に。
・1099年:イェルサレム陥落。ゴドブロアが実質の王となる。
・1100年:ゴドブロア死去。弟のボードワンがイェルサレム王に。
・1105年:ボエモンド、ヨーロッパに帰国。
・1118年:ボードワン死去。従兄弟がボードワン二世としてイェルサレム王に即位。
〇十字軍は、フランスの有力な修道院であったクリュニー修道院が火を点けることで始まった、言ってみれば、宗教が主導する”世直し運動”であった。それが見事な実を結べば結ぶほど、クリュニー修道院の考えが正しかったということになり、ローマ法王の座にも、その出身者が就くのが当然になっていく。そして、それが、ローマ法王の権威と権力の増強につながっていくのだから、カトリック教会と十字軍とは、この後もますます、運命共同体の関係を強めていくことになる。
〇カトリック教会の上層部の頭にあった改革とは、人間世界の諸悪の解決はそれを神から託された聖職者階級がリードしてこそ達成される、という信念に立っていた。この立場に立てば、その道を突き進もうとしているローマ法王の前に立ちふさがる者は、たとえ皇帝や王であってもキリスト教世界の敵であり、神の地上での代理人である法王には、破門によって厳しく罰する権利と義務がある、となる。平たく言えば、宗教面に限らずキリスト教世界のすべての事柄は、ローマ法王が頂点に立つカトリック教会が指導し、世俗の君主たちは忠実にそれを遂行していればよい、ということだ。
〇第一次十字軍によってシリア・パレスティーナの地に打ち立てた十字軍国家は、これら第一世代が創りあげた。ヨーロッパを後にした1096年からイェルサレム陥落までの3年間で制服をし、その後の18年間を費やして確立していった。皇帝も王も参戦していなかった第一次十字軍の主人公たちは、ヨーロッパ各地に領土を持つ諸侯たちであった。彼らはときに、いやしばしば、利己的で仲間割れを繰り返したが、最終目標の前には常に団結した。この点が、利己的で仲間割れすることでは同じだった、イスラム側の領主たちとの違いであった。そして、それこそが、第一次十字軍が成功した主因なのである。
〇「非凡なる二将よりも凡なる一将を選ぶ」と言ったのはナポレオンだが、指揮系統の一元化は、持てる力の効率的な活用には、絶対に欠かせない。
〇分割統治とはしばしば、「何もできない」と同じことになる。
〇トリポリは砂糖の産地として有名で、この地で産する砂糖は、十字軍時代に西欧に伝わる。ヨーロッパ人の甘味が、古代ローマ時代の蜂蜜から砂糖に代わるのも、十字軍による影響のひとつであった。
(第Ⅱ巻につづく)