MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

キャリア・カウンセリングの進め方(エドガー・H・シャイン)

『キャリア・カウンセリングの進め方』(エドガー・H・シャイン)

 本書は、2015年に米国で開催された日本人向けのワークショップをまとめた一冊。日本人がキャリア・アンカーの活用する際の注意点など、日本の特徴を意識しながら解説されています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯キャリア・アンカーの構成要素

・セルフ・イメージは、①スキルや能力領域、②動機と目標、③価値観という3つの要素のよって構成されている。

・人は必ずしも自分の価値観に気づいているわけではない。何かしらそれを脅かすようなことが起きて初めて気付くこともある。

・キャリア・アンカーは、キャリアの中盤以降に適応される概念。学生にキャリア・アンカーはない。歳を重ね、経験を積むことによって初めて、自分が本当はどういう人間であるのかが分かるようになる。

 

◯キャリア・アンカーの8タイプ

①専門・職能別コンピタンス

②全般管理コンピタンス

③起業家的創造性

④保障・安定

⑤自律・独立

⑥奉仕・社会貢献

⑦純粋な挑戦

⑧ライフスタイル

⇨キャリア・カウンセラーとして最も難しい仕事は、中堅クラスの方々に対して、ミスマッチの仕事にも備えるためには、自身のキャリア・アンカーに合っている/いないにかかわらず様々なことに挑戦し、学び続けるしかないということを、いかに説得するかということ。

 

◯ジョブ・ロール・アナリシス

・個人がキャリア・アンカーを明確にできている場合でも、自分にオファーされている仕事がどういうものかはよくわかっていないことがある。そこで大切になるのが、ジョブ・ロール。

・原則として、仕事そのものというよりも、その仕事をする上で求められる人間関係を中心に考える。組織内のすべての仕事は、人々のネットワークの一部であり、ネットワーク上の人々は、特定の仕事をする人に対して何らかの期待を持っている。だから、組織内のすべての仕事について、その役割を決定づけている人間や、ステークホルダーが誰かということを、明らかにすることができるはず。

・ただ仕事内容を伝えるのではなく、例えば彼を製造現場の人間と引きあわせるといったことをする。彼の仕事に何らかの期待を持っているすべての人々に彼を会わせること。

 

◯ロール・マップ(役割マップ)の作成

 自分の役割全体に関わる様々な要素を特定すること。自分がいかに複雑なネットワークの中にいるのかということに気づくことが作成目的。

①白い紙を用意して、その真ん中に自分を書き入れる。

②自分を中心として、その周りに、自分に対して何らかの期待をしている人々をすべて書き出す。

③それぞれの人・グループから、自分に向かって矢印を書く。非常に強い期待を持っている人は矢印を太く、それほど強い期待を持っていない人は、細く小さな矢印を書く。

 

◯ロール・マップの分析

①役割の曖昧さ

 あなたに何を期待しているのかがよく分からない人たちがいる。

②役割の矛盾

 ある人々から期待されていることが、他の人々からの期待と異なっていたり、全く逆であったりする場合がある。

③役割の過負荷

 それぞの期待の総和が、一人の人間のできる限界を超えてしまっている。

 

◯マネジャー向けジョブ・ロール・プランニング

・組織が新しい人を雇う時は、ロール・マップを作るべき

・「マネジャーを増やしたい」と言われた場合、まず最初に、あなた(キャリアカウンセラー)はマネジャーに「エンジニアとはどういう意味ですか」と聞くでしょう。するとマネジャーはジョブ・ディスクリプション(職務要件書)を提示し、「これがエンジニアです」と答えます。それに対し、あなたは「これは十分ではありません。その役割に期待されていることは何なのかという観点での分析が必要です」というべき。

・誰かが新しい職に就くときは、その仕事がどういうものであるかをよく理解してもらえるよう、ロール・マップを提示してあげると良い。ロール・マップは、基本的な職責に加え、その職において実際に日々携わる人間関係がどういうものであるかを示してくれる。

 

◯キャリア発達

・一生涯続く、個人の内的キャリアと外的キャリアのマッチングプロセス。

・外的キャリアとは、その仕事をする際のステップとして、社会が規定するもの。組織と外的キャリアという視点で考えると、スペシャリストをどう扱うのかということが最も重大な問題になる。

・個人は個人で、自分自身のキャリアについての概念を発達させている。初期のキャリアは、個人にとっても非常に重要な学習期間。

 

◯ミスマッチ

①組織側の問題

・組織は、仕事の性格をはっきりとさせ、それを社員に明確に伝えなくてはならない。

・ジョブ・ロール・プランニングは、部下に期待する仕事を十分に分析し、それを部下に伝える際に、マネジャーにとって有用なツール。

②個人側の問題

・個人が自分の求めるものや、やりたいことをよくわかっていない。または、うまく伝えることができない。自分の求めるものやアイデンティティを採用者やマネジャーに明確に伝えることを学ばなければならない(キャリア・アンカーが役立つ。)。

 

◯まとめ

①人は自分のキャリアに対してもっとよく知る必要がある。

 キャリアアンカーを考えるためには、これまでのキャリアについてインタビューをするという方法をとることがとても大切。これまでにしてきた様々な意思決定を振り返ることで、自分自身の本当の姿に目を向けなければならない。

②個人とマネジャー

 現在と将来の職についてのロールマップを一緒に作成し、仕事についてのコミュニケーションを改善することで、もっと仕事を理解しなければならない。技術的な条件以上にその仕事における人間関係において考える必要がある。

 

 個人と会社の仕事のマッチングについて。なるほど!と思ったのは、組織規模が大きくなるほど職能要件が定義づけられ、人事担当者は、職能要件が説明根拠となって判断するようになりますが、本書では、仕事の関係者に「自分に期待される役割」を聞くことで自分の役割を認識する。そして、様々な関係者から寄せられる期待は、ときに矛盾しているが、誰からの期待が大きいのかということを認識すれば、優先順位づけできる。期待役割の明確化。すぐつ現場で使える発想なので、とても参考になりました。

シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方: <キャリア・アンカー>の正しい使用法

シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方: <キャリア・アンカー>の正しい使用法

  • 作者: エドガー・H.シャイン,尾川丈一,石川大雅,Edger H. Schein,松本美央,小沼勢矢
  • 出版社/メーカー: 白桃書房
  • 発売日: 2017/01/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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