『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン)<3回目>(◯)
お馴染みの名著シリーズ第1作。改めて読み直してみると、経営戦略、マーケティング、製品開発、組織の意思決定システムなど多岐にわたる問題が絡み合ったテーマであることを再認識。名著であるということは、単に読み継がれているということだけではなく、その著書からの発展性があること。分社化、社内ベンチャー、M&A、社内の意思決定システム(評価システム含む)と解決に向けて次に考えることが多いのも本書の良さではないかと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯優れた経営が失敗につながる理由
①「持続的」技術と「破壊的」技術の間には、戦略的に重要な違いがある。
②技術進歩のペースは、市場の需要が変化するペースを上回る可能性があり、実際そのようなケースが多い。
③成功している企業の顧客構造と財務構造は、ある種の新規参入企業と比較して、その企業がどのような投資を魅力的と考えるかに重大な影響を与える。
◯市場の需要の軌跡と技術革新の軌跡
・技術革新のペースがときに市場の需要のペースを上回るため企業が競争相手より優れた製品を供給し、価格と利益率を高めようと努力すると、市場を追い抜いてしまうことがある。
・顧客が必要とする以上の、ひいては顧客が対価を支払おうと思う以上のものを提供してしまう。
・破壊的技術の性能は、現在は市場の需要を下回るかもしれなが、明日には十分な競争力を持つ可能性がある。
◯破壊的技術と合理的な投資
安定した企業が、破壊的技術に積極的に投資するのは合理的でないと判断する3つの根拠。
①破壊的製品の方がシンプルで低価格、利益率も低いのが通常であること
②破壊的技術が最初に商品化されるのは、一般に新しい市場や小規模な市場であること
③大手企業にとって最も収益性の高い顧客は、通常、破壊的技術を利用した製品を求めず、また当初は使えないこと
◯破壊的イノベーションの法則との調和
①企業は顧客と投資家に資源を依存している
実質的に資金の配分を決めるのは顧客と投資家である。顧客がその技術を求めるようになる前に、顧客が望まず利益率の低い破壊的技術に十分な資源を投資することは極めて難しい。
⇨低い利益率で収益率を達成するためのコスト構造を持った独立組織を設立すること。
②小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
企業が成功し成長すると、将来大規模になるはずの新しい小規模な市場に参入することが次第に難しくなる(4000万ドルの20%成長は800万ドル増やすだけでいいが、40億ドル企業では8億ドル増やす必要がある)。
⇨目標とする市場の大きさに見合った規模の組織に、破壊的技術を商品化する任務を与える。
③存在しない市場は分析できない
投資のプロセスで市場規模や収益率を数量化してからでなければ市場に参入できない企業は、破壊的技術に直面したときに、身動きが取れなくなるか、取り返しのつかない間違いを犯す。データがないのに市場データを必要とし、収益もコストもわからないのに、財務予測に基づいて判断を下す。持続的技術に対応するためには開発された計画とマーケティングの手法を、全く異なる破壊的技術に適用することは、翼をつけた腕で羽ばたくようなもの。
④組織の能力は無能力の決定的要因になる
組織能力を決める2つの要素である、プロセスや価値基準に柔軟性はない。ミニコンの設計を管理するのに有効なプロセスは、デスクトップ・パソコンの設計には不適切だろう。収益性の高い商品を開発するためにプロジェクトの優先順位を決定する際の価値基準は、収益性の低い商品に当てはめることはできない。組織の能力を生み出すはずのプロセスや価値基準も、状況が変わると組織の無能力の決定的要因になる。
⑤技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
競合する複数の製品の性能が市場の需要を超えると、顧客は、性能の差によって製品を選択しなくなる。製品選択の基準は、性能から信頼性へ、さらに利便性から価格へと進化することが多い。製品の性能が市場の需要を追い抜く現象が、製品のライフサイクルの段階を移行させる最大のメカニズムである。
◯バリュー・ネットワーク
バリュー・ネットワーク内の競争や顧客の需要は、さまざまな点で、企業のコスト構造、競争力を維持するために必要な企業の規模、必要な成長率などを形成する。バリュー・ネットワークの外にいる企業にとって意味のあるマネジメントの判断が、バリュー・ネットワーク内の企業にとっては全く無意味であったり、非常に有効であったりする。
①破壊的技術は、まず既存企業で開発される
②マーケティング担当者が主要顧客に意見を求める(→破壊的技術を追求しないという結論に至る)
③実績ある企業が持続的技術の開発速度を上げる
④新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
⑤新規参入企業が上位市場へ移行する
⑥実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る
◯アイデアの失敗とマネジャーの失敗
・プロジェクトの振るい分けにあたっては、組織の中間管理職が、目に見えない重要な役割を果たす。これらのマネジャーは、出てくるアイデアを全てそのまま通す分けにはいかない。どの案が最も優れているか、どの案が成功しそうか、どの案が承認される可能性が高いかを、企業の財務、競争力、戦略の状況に照らして判断する必要がある。
・適切な戦略を追求する過程で、個々のマネジャーが幾度も失敗するような余裕はない。たいていの組織マネジャーは、失敗はできないと考えている。
・当初のマーケティング計画が間違っていたために、管理しているプロジェクトが失敗したら、自分の成績に汚点が残り、出世にも影響が及ぶだろう。破壊的技術の新しい市場を探すプロセスには失敗がつきものなので、マネジャーが自分のキャリアを危険にさらすことができない、さらしたくないと考えるために、実績ある企業が、その技術によって開拓されるバリュー・ネットワークに参入する時期が著しく遅れることになる。
・持続的技術の場合のように、イノベーションに対する需要が確認できれば、業界の実績あるリーダーは、求められる技術を開発しようと、莫大な費用と時間をかけて、リスクの大きい賭けに出ることができる。
・破壊的技術の場合のように需要が確認できなければ、技術的に簡単であっても、そのイノベーションを商品化するために必要な賭けをできずにいる。
◯成功した経営者の取り組みの方向性
①破壊的技術を開発し、商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織に組み込んだ。
②小さな組織に任せた。
③失敗を早い段階に僅かな犠牲で止めるよう計画を立てた。
④主流組織の資源の一部は利用するが、主流組織のプロセスや価値基準は利用しないように注意した。
⑤破壊的製品を主流市場の持続的技術として売り出すのではなく、破壊的製品の特徴が評価される新しい市場を見つけるか、開拓した。
上記は骨子の一部。これに相当な裏付けの事例が書き込まれています。最後まで線引きだらけ。さて、久しぶりに読み直したので、次は続編『イノベーションへの解』に進めていくことにしましょう。
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2001/07/01
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