『ヤフーの1on1』(本間浩輔)
著者は、ヤフー上級執行役員(コーポレート統括本部長)。人材育成を目的に2012年に導入された上司と部下との定期的なコミュニケーション機会である、1on1の面談について、制度導入の思いや留意点がまとめられています。「社員の才能と情熱」を解き放ち、会社が決めた仕事にアサインするのではなく、社員が自分の仕事を選ぶ(チョイスする)ことを目指した本制度。週に1回30分、これを継続するのは並大抵ではないと想像します。中原淳東京大学准教授、松尾陸奥北海道大学大学院教授との対談もおもしろいです。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯1on1の基本
・1on1では、部下に十分に話してもらうことが大事。きちんと部下と向き合って話す。
・部下の言葉を先取りしたり、途中で遮って自分のことを話さない。それでは部下の学びは深まらない。
・1on1は部下の成長のために行うものであり、上司が状況把握をするためのものではない。
・否定はつねにNGではないが、上手に否定しないと上司依存、つまり部下は上司の指示を待つようになる。それでは部下は考えなくなり、学びは深まらない。
・次の行動=問題への対処法について、部下より先に上司が示してはならない。
◯1on1に取り組む理由
①経験学習を促進させる
・社員が経験から学ぶプロセスを想定して、社員がプロセスを回す手段として、1on1を活用している。
・デービット・コルブの経験学習を採用。1on1ではこの経験学習を回すことをイメージしている。
人が経験から学ぶときは、「具体的経験⇨内容(振り返る)⇨教訓を生き出す(持論か、概念化)⇨新しい状況への適用(持論・教訓を活かす)」というサイクルをたどる。
②才能と情熱を解き放つ
・仲間からの支援をきっかけにして自らの才能に気づいて、自らのエネルギーがあ売れ出す情熱を解き放つような仕事をするような会社にしたいという言葉を思いにしたもの。
・いろいろな仕事を経験して、上司や職場の仲間から観察してもらい、経験を振り返りながら自分の職業観について考えることが大切。
◯1on1の効果
・1on1は業務として、定期的かつ対話に集中できる環境で、コミュニケーションを行う。話すべきことを集中できる環境で話すことができる。これがポイント。「あの上司は忙しくて自分の個人的な相談をするのは気が引ける」と思っていた部下も、部下のことを知りたいと思っていた上司も気兼ねなく1on1をすることができる。
・社員の9割が1〜2週間に1度の割合で1on1を行なっている。
・気の合わない苦手な部下や苦手な上司とのギャップを埋めるのにも効果的。
◯部下の視点
・上司のほとんどはプレイングマネジャーか、マネージングプレイヤー。「僕の上司は忙しくていつも席にいない」「たまに席に座っていても、眉間にしわを寄せてキーボードを叩いていて、話しかけづらい」などというのは、ヤフーでも珍しくない。このような状況において1on1は業務についての相談の場になっている。
・MBOでは、期初に目標を設定して、期末に設定した目標に対して評価を行うが、1on1の場をうまく使うことによってタイムリーに途中経過を知ることもできる(ラップタイムを測る)。
◯上司の視点
・近年、部下に遠慮しすぎる管理職が増えている。言い方ひとつでパワハラになどと指弾される可能性があったり、一般的にプライバシーへの配慮から、部下の家族構成などについて質問するのは、好ましくないとされている。その中で、1on1は、部下について、いろいろなことを知ることができる機会。
◯学びの進化
ベースになるスキルは、観察力、傾聴力、承認力
①コーチング
・上司:引き出す
・部下:自分の考えや思いに気づく
・スキル:質問力
②ティーチング
・上司:教える
・部下:自分にない知識を得る
・指導力
③フィードバック
・上司:伝える
・部下:自分がどう見えているかを知る
・スキル:伝達力
◯学びの確認
「(今回の出来事から)何を学んだの?」
◯行動の宣言
「この学びを次にどこで活かす?」
⇨恐れるのは、部下が容易に到達できるコミットメントをすることであり、そのことによって部下の経験学習が不十分なものになること。社会人は怒られたり、脅かされることによって学ぶことは多くない。むしろポジティブに自分の成長のために、自分からストレッチした、つまり少し背伸びした目標を設定して、挑戦していく。それがヤフーの人材開発のあるべき姿。
◯1on1の技術を磨く「シャドーコーチング」
①コーチ(上司役)、②クライアント(部下役)、③オブザーバー、④シャドーコーチ、⑤シャドークライアントに分かれてトレーニングする。
◯キャリア自律
・才能と情熱を解き放てる舞台さえあれば、人はその才能を開花させようと思うし、情熱を注ごうとする。その際、会社、そして上司のすべきことはその舞台を整えること。1on1はそのためのコミュニケーションの場。
・自分にはその仕事の才能がない、情熱を注げないと思っている部下がいれば、1on1を通じて、部下とともに考え、悩む。そして答えが出なくても、少しでも答えに近づくように努力する。そこから何かをつかみ、上司も部下も成長するそれが理想。
上司がプレイングマネジャーになる時代(マネジメントだけやっている余裕が企業側にない環境)、ちょっとプライベートに突っ込んだ話をするだけでパワハラと言われることが心配になる上司。そんな背景がある中で、上司と部下の対話を深めていこうという難しい取り組みが全社的に実践され、それがこうした形で書籍として公開している企業の姿勢が素晴らしいなと思いました。これは、なかなか実践が難しい世界。ヤフーの方にお会いしてみたら、実際のところを聞いてみようと思います。
ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
- 作者: 本間浩輔
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/03/25
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