MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

成功することを決めた(遠山正道)

『成功することを決めた』(遠山正道)(◯)

 著者は、Soup Stock TOKYOの創業社長。三菱商事⇨KFC(日本ケンタッキー・フライド・チキン)を経て独立。本書は、同社立ち上げの思い、社内ベンチャーとしての起業企画、立ち上げ時の苦労話が盛り込まれたビジネスストーリー。

 特に、①第1章にSoup Stock TOKYOの設立企画書「1998年スープのある一日」が原文全文丸ごと22ページ掲載されている点、②第2章にペルソナのモデルとなる「秋野つゆ」という女性が詳細に綴られている点、がビジネスにもとても参考になります。未来のその先の未来の時点から振り返った物語形式という企画書は、コーチングの時間軸の視点にも繋がるんですよね。

 これまで何名かの方に紹介・プレゼントしたこともある良書です。文庫本は500円弱で買えますので、お手軽でもあります。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯企画書

 「スープのある一日」という物語形式の企画書を三ヶ月かけて書いた。企画書は、もう既にそれが存在しているかのようなスタイルで書いた。企画が実現した未来のことを、さらに先の未来から振り返って過去形で書いた。そして、Soup Stockの名前も、ロゴマークも、商品の写真も、カップに入ったスープのポスターもつけた。お店のインテリアのパース(デザイン画)は、代官山のモノトーンの靴屋さんを写真に撮り、加工してモダンな店構えとした。

 こうして出来上がった「スープのある一日」は、いまになって読み返すと、非常に目に見えやすい具体的な目標設定にもなっている。今では社内で「バイブル」と呼ばれ、常務などは毎日持ち歩き、読み返したりしている。

 

◯「秋野つゆ」という人

 メニューをはじめ、店舗イメージやそのほかあらゆることを創り上げていくには、チーム全員がSoup Stockのコンセプト・イメージを共有する必要がある。「スープのある一日」は、シーンや事業性について書いたが、さらに「感度」を共有したい。感度は、味はもちろん、インテリアやグラフィックなどにも幅広く関連してくる。そこで私は、一人の女性の人物を描いた。「秋野つゆ」です。

 

◯炎の70日

 売上不振も、猛暑も、異物も、人手不足も、全てが待ったなし。非常事態が連続して起きた70日。思い出すのも苦痛な日々は、まさに「炎の70日」でした。多くの代償を払い、戦い抜いたあの時期、5つの貴重な学習をした。

①(過去の)経営の不作為の帳尻は必ずどこかで合わせなければならない

②見たくない現実ほど早く見て早く対処を決める必要がある

③人材は、「やりたくて・やれる人」でなければ仲間も本人も苦労する

④言いづらいこと、大変なことを要求し合えることが、仲間の資格である

スマイルズ(当社)はどんな苦難の時でも、個人としてのユニークさとチームとしての強さを持ち続けられる。

 

スマイルズの五感

 経済と生活という二つの狭間に大きなズレがある。大事な生活がないがしろにされているのを感じた。それを見直そうという提案を「生活価値の拡充」と呼んだ。「生活価値の拡充」を実現させるにあたり、それを底で支えるものとして、「スマイルズの五感」を定めた。

①低投資・高感度

 単に金額のことだけではなく、規模や時間、労力のことなど様々な投資を含んでいる。感度は、センス、アンテナ、ひらめき、ときめきといったところ。様々な制約や条件の中でこそ、優れた知恵やセンス、ひらめきが育まれることがあるのだと思っている。

②誠実

③作品性

④主体性

⑤賞賛

 これを決めて実行したことに意味があった。5つに決めて、使っていくうちに、スタッフそれぞれの中にスマイルズらしさというものが芽生え、宿り、それらがどんどん一つに集約され、「らしさ」が強固になっていくのを肌で感じた。「スマイルズらしさ」は、「生活価値の拡充」と「スマイルズの五感」によって、何倍にも膨れ上がり、すっかり一つの人格ならぬ「社格」が形成された。

 

 芸術にも長けた著者だからこその感性が溢れている企業経営。社員もお客さんもそれに共感できる経営。「いいなぁ」をたくさん感じることができる著者の思いに溢れた一冊でした。

成功することを決めた―商社マンがスープで広げた共感ビジネス (新潮文庫)

成功することを決めた―商社マンがスープで広げた共感ビジネス (新潮文庫)

 

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