MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

スクールセクハラ(池谷考司)

『スクールセクハラ』(池谷考司)

 「なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか」というサブタイトルがついた本書。友人に勧められ読んでみました。なぜそういう心理になるのか、人の心理には悪の部分もいろいろ渦巻いている。加害者も周りも。そんな人の心理に迫る内容です。3つの事例をもとに、共同通信社の著者と被害者が加害者と接触し取材を積み重ねていった内容が赤裸々に語られています。スクールセクハラの解決に取り組むNPO法人の方と大学教授の客観的な意見も交えてまとめられていますので、加害者、被害者、両親、周りの先生、教育委員会など多くの関係者の視点を踏まえた問題の本質が見えやすい内容となっています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯わいせつ行為で処分を受けた公立小中高校の教員数

 文部科学省によると、1990年度にわいせつ行為で懲戒免職になった公立小中高校の教師はわずか3人。ところが、過去最悪となった2012年度には、なんと40倍の119人に達している。停職などを含めたわいせつ行為による処分者数全体でも、90年度に22人だったのが15年度には224人と急増し、過去最高を大幅に更新した。急に教師の質が落ちるはずがなく、見過ごされてきたのが厳しく処分されるようになっただけだ。

 

教育委員会

・一番の不安は、教育委員会に「あなたも悪い」と言われないかということだった(被害者)。

・被害を訴えて処分を求めても、教育委員会から被害者が責められるケースも珍しくない(NPO法人)。

・黙って聞いていた担当職員の男性は、「私の娘も拒食症で苦しんでいます。だから、気持ちがわかります」と言ってくれた。「あれで気が楽になりました」(被害者)。

 

◯子供は話せない

・「人って自尊心があるから『それはおかしい』って言えるんですよね。私は自尊心を奪われてSOSを出せなくなっていたんです」(被害者)。

・「在学中に訴えられない被害者は多い。卒業後、何年も経って『やっぱり許せない』となる。何十年も経って訴えようとする人もいます。その間、加害者はずっと教師をしている。でも、法的には時効の壁があります」(NPO法人)。民事訴訟で学校の責任を問えるのは10年。ただ、起算点を、事件発生時点でなく、卒業した時とする判決が金沢地裁で2002年に出ている。「高校在学中の提訴は生徒に耐え難い」という理由からだ。

 

◯加害者

・「教師の仕事は好きでした。でも、根本的なところで間違ってしまいました。自分が権力を持っているなんて考えもしませんでした」(加害者)。

・「教え子への権力を意識していないのがいちばんの問題です。だから、相手の子供が嫌だと言えないことに気づかないんです。体罰も根は同じで『そんなつもりはない。愛のむちだ』という先生は多い」(大学教授)。

・「この人は、注意されてもはぐらかしたんでしょう。加害者の多くは、見破られると身構えて否定します。素直に受け止められずにどんどん深みにはまって事件に至るんです」(NPO法人)。

・「子供と一緒に笑って泣いて、という教師像ばかりを理想だと強調するからこうなる。自分が意識していなくても、教師と子供は権力関係にあることを大学でも研修でもきちんと教えるべきです。それがスクールセクハラや体罰の一番の防止策になります」(大学教授)。

 

◯担任からのメール

・「携帯電話などでの個人的なやりとりはガイドラインを作って禁止するべきです。今はメールが日常化していて、個人的なメールのやり取りをダメだと思っていない小中高校の先生は多いでしょうが、トラブルの元です」「ただ、先生の中には『それじゃ、生徒が指導できない』という人もいるでしょうね。『子供の気持ちをつかんだり、親に言えないことも言ってもらえたりするのにメールは役立つ』という先生は多い。でも本当にそうでしょうか。私は危険の方が大きいと思います。実際、個人的なメールのやり取りをして問題を起こす先生はかなりいますから」(大学教授)

 

◯言葉の実例(NPO法人

■相談した相手から

・先生は「やっていない」と言っています。

・あんな真面目な先生がそんなことしますかねぇ。

・あの先生は授業に熱心だし、生徒の信頼も厚いんですよ。

・生徒が夢でも見たのではないですか。

・そんな些細なことに時間を割いている暇はない。

・あなたも先生に言われてついて行ったのでしょう。

・食事をさせてもらった上に、交通費も出してもらったっていうじゃないですか。

 

■教職員から

・冗談ですよ。奴はそんなことを生徒によく言ったりしたりするんですよ。

・笑わせようと思ってやっているのです。単なるウケ狙いですよ。きにするほどのことはありません。

・結婚もしているし、欲求不満でもないと思います。

 

■告発者の教師に向けて

・そんな重箱の隅を突くようなことをしていたら、職場がギスギスするだけだ。

・細かいことを言ったら教育は何もできなくなる。

・最近、先生から厳しく指導を受けていたから、仕返しかもしれませんね。

・単なるスキンシップのつもりでしょ。

 

■加害者から

・そんなつもりはなかった。

・嫌だったら嫌と言ってくれたらよかったのに。

・合意の上でのことだ。

・可愛がって何が悪い。

・そんなことを言われたら何もできないですよ。

 

■友達から

・あんなにいい先生だったのに、あなたのせいで大好きな先生がいなくなった。

・大切な顧問がいなくなって部活ができなくなった。お前のせいだ。

 

 学校も会社も人間関係の裏にはなんだかんだ言って権力関係がある。そして、組織に属していてそこで毎日過ごすことになる。学校の場合は、さらに生徒の人生経験が浅く自活できない(生活力は親に頼らざるを得ない)。そんな中で、こういう問題が起こるのだからやるせない。世の中にはこんなことも起こっているのだという問題をきちんと認識するためにも参考になる一冊でした。

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