MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

群集心理(ギュスターヴ・ル・ボン)

『群集心理』(ギュスターヴ・ル・ボン)

 今年のテーマの一つである「心理」シリーズ。少し観点を変えて、人が集団になった時の心理状態である「群集心理」について、まとまった書籍があるので読んでみました。

 序文に、「群衆は、歴史上 常に重要な役割を演じてきたが、この役割が今日ほど顕著なことはかつてなかった。個人の意識的な行為に取ってかわった群衆の無意識な行為が、現代の特徴の一つをなしている」とある通り、群衆心理はネット社会が広がる現代にはとても注目が集まるテーマだと思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯群衆の一般的特徴

・なぜ群衆に高度の知力を要する行為が遂行できないのか。専門を異にする優秀な人物たちの会議で採決される一般的利益に関する決議が、愚か者の会合で採決される決議よりも際立って優れているというわけではない。群衆は、いわば、智慧ではなく凡庸さを積み重ねる。

・群衆に特有な性質が現れる理由

①群衆中の個人は、単に大勢の中にいるという事実だけで、一種不可抗力的な力を感ずるようになる。本能のままに任せることがある。単独の時なら当然それを抑えたであろうに、責任のない時には常に個人を抑制する責任観念が完全に消滅してしまう。

②精神的感染。個人が集団の利益のためには自身の利益をも実に無造作に犠牲にしてしまうほど感染しやすい。

③被暗示性。群衆の中でこの暗示性に抵抗できるほど強い個性を持つ者は、あまりにも少数であるから、大勢に押し流されてしまう。

 

◯群衆の衝動的で、動揺しやすく、興奮しやすい性質

・単独の個人は、自己の反射作用を制御する能力を持っているが、群衆はこの能力を欠いている。

・群衆は常にそれに従うのであるから、その気分は、極度に動揺しやすい。

・群衆の動揺しやすい性質が、群衆を甚だ制御しにくいものにする。

・群衆中の個人にとっては、およそ不可能という観念は消滅する。

・群衆の興奮しやすく、衝動的で動揺しやすい性質には、種族の根本的性質が常に関係している。

 

◯群衆の暗示を受けやすく、物事を軽々しく信ずる性質

・群衆は、どんなに不偏不党と想像されるものであっても、多くの場合、何かを期待して注意の集中状態にあるために、暗示にはかかりやすい。

・想像力変形作用が事件に付け加えるものを、群衆は事件そのものと混同する。そして、主観と客観とを区別する能力を持たないから、心中に喚起された心証が、多くは観察された事実と縁遠い関係しか有しなくても、その心証を現実のものとして受け入れる。

・数人の個人が集まれば、群衆を構成する。そして、その個人が優秀な学者である場合でも、その専門外の事柄になると、群衆のあらゆる性質を帯びるのである。各自の有する観察力と批判精神とが消え失せてしまう。

 

◯群衆の感情が誇張的で、単純であること

・群衆の現す感情は、善かれ悪しかれ、極めて単純でしかも極めて誇張的であるという二重の性質を示す。

・感情は暗示と感染によって非常に早く伝播し、それが一般の賛成を得ると、著しくその力を増大するのであるが、群衆における感情の誇張は、この事実によっていよいよ強められる。

・群衆の感情が単純で、誇張的であることが、群衆に疑惑や不確実の念を抱かせない。それは、ただちに極端から極端へ走る。

・誇張し断言し、反覆すること。そして推論によって何かを証明しようと決して試みないこと、これが、民衆の会合で弁士がよく用いる論法。

 

◯群衆のあらゆる確信がおびる宗教的形式

・優越者と目される人物に対する崇拝心、その人物が有すると思われる権力に対する畏敬の念、彼の命令に対する盲目的服従、彼の説く教養を論議することの不可能なこと、その教養を流布しようとする欲望、それの認容を拒む者をすべて敵対者とみなす傾向。目に見えぬ神や一個の石像や一人の英雄に向けられるにせよ、あるいは一個の政治思想に向けられるにせよ、その本質は、依然として宗教的なものである。

 

◯伝統

・民族を真に導くものは伝統。民族が容易に変化させるものは、伝統の外形のみ。

・人間が存在して以来、二つの大事業とは、複雑な伝統を創造することと、ついで伝統の有用な効力が消耗したときに、その伝統を打破すること。

・確乎とした伝統がなければ、文明はないし、またこれらの伝統を徐々に取り除いていかなければ、進歩はない。難しいのは、不動と変動の間に、適正な均衡を見出すことである。

 

◯道理

・人間の統治に道理が参加することをあまり要求してはならない。名誉心、自己犠牲、宗教的信仰、功名心、祖国愛のような感情は、道理によらず、むしろしばしば道理に反して生まれたのであって、これらの感情こそ、これまであらゆる文明の大原動力であった。

 

◯群衆の指導者

・指導者は、多くの場合、思想家ではなくて、実行家であり、あまり明晰な頭脳を具えていないし、またそれを具えることはできないであろう。なぜならば、明晰な頭脳は、概して人を懐柔と非行動へ導くからである。指導者は、特に狂気とスレスレのところにいる興奮した人や、反狂人の中から輩出する。

 

◯指導者の行動手段

・指導者は主として次の3つの手段に頼る。断言、反復、感染。

・およそ推論や論証をまぬかれた無条件な断言こそ、群衆の精神にある思想を沁み込ませる確実な手段となる。

・断言は、証拠や論証を伴わない、簡潔なものであればあるほど、ますます威力を持つ。

・しかしながら、この断言は、絶えずしかもできるだけ同じ言葉で繰り返されなければ、実際の影響力を持てない。真実の修辞形式はただ一つ、反覆ということがあるのみ。

・断言と反復に対抗できるほど強力なものは、これまた断言と反覆あるのみである。

・ある断言が十分に反覆されて、その反覆によって全体の意見が一致したときには、いわゆる意見の趨勢なるものが形作られて、強力な感染作用が、その間に働く。

 

◯威厳

・威厳は事実、ある個人なり、ある事業なり、ある主義なりが、我々の心に働きかける一種の魅力。この魅力が我々のあらゆる批判能力を麻痺させて、驚嘆と尊敬の念を持って、我々の心を満たす。

・威厳の発生には、多くの原因が参加し得ることがわかる。最も重要な原因の一つは、常に成功ということであった。成功する人間や、強制力を持つ思想はそれだけの事実で、意義を挟まれる余地がなくなる。威厳は常に失敗とともに消え去る。

 

 群衆という集団になった途端、一個人ではしっかりと守られていたものが、いともたやすく崩壊してしまう。そのマジックのような空気を作り出すものは何か。そうした、集団の思想を形作るものを考えるいい教材でした。空気研究本として、とても参考になります。

群衆心理 (講談社学術文庫)

群衆心理 (講談社学術文庫)

 

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