『ブッダが説いたこと』(ワールポラ・ラーフラ著 今枝由郎訳)
原書は、1959年に刊行。スリランカ出身の学僧である著者が、最古の仏典に収められたブッダの言葉のみに依拠して、仏教の基本的な教えを体系的に説いた一冊です。仏教に造詣はないけれども、ブッダが本当に何を説いたのかを知ろうとする、教育があり、知性のある一般読者を対象に書かれているので、平易で読みやすい内容となっています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯疑いの除去
・疑いは真理を明確に理解し、精神的に進歩するための「5つの妨げ」(①感覚的欲望、②悪意、③肉体的・心的無活力と沈滞、④落ち着きのなさと不安、⑤疑い)の一つ。しかしながら、疑いは「罪」ではない。
・すべての悪の根源は無知であり、誤解である。疑問、戸惑い、ためらいがある限り、進歩できないのは否定できない事実。物事が理解できず、明晰に見えない限り、疑問が残るのは当然。
・それゆえに本当に進歩するためには、疑問をなくすことが絶対に不可欠。疑問をなくすためには、物事を明晰に見ることが必要。
・ただ単に、「私は信じる」あるいは「私は疑わない」というのは、問題を本当に解決することにはならない。理解することなく、自らに無理強いして何かを信じたり、受け入れたりすることは、政治的には良くても、精神的に、あるいは知的にはよくない。
◯囚われ
・人は自分の好きなことを信じる権利があり、「私はこう信じます」と述べて差し障りはない。その限りにおいて、彼は真実を尊重している。しかし自らの信心あるいは信仰から、自分が信じていることのみが真実で、他のすべては偽りであると主張することは許されない。
・ある一つの見解に固執し、他の見解を見下すこと、賢者はそれを囚われと呼ぶ。
◯教えに固執しない
・教えは流れを渡るために必要な筏のようなものであり、保持して背中に負い運ぶものではない。
◯執着の5集合要素(ドゥッカ)
①物質
②感覚
③識別
④意志
⑤意識
◯渇望
・ブッダの分析によれば、この世における問題や係争は、家庭内の小さな個人的喧嘩から、国家間の大戦争に至るまで、すべては利己的な渇望から生じる。
◯八正道
ブッダが45年間にわたって説いた教えは、実質的にはこの八正道に凝縮される。
①正しい理解
②正しい思考
③正しいことば
④正しい行い
⑤正しい生活
⑥正しい努力
⑦正しい注意
⑧正しい精神統一
・この八項目は、列挙した順に一つずつ実践していくものと思ってはならない。それらは各人の能力に応じて、すべてを同時に実践しなくてはならない。八つは各々が繋がっており、一つの実践型の実践につながる。
・八項目は、仏教的修練と規律における3つの基本(①倫理的行動、②心的規律、③叡智)を増進し完成することを目的としている。
◯倫理的行動
・人間が完全であるためには、注意深く啓発しなくてはならない2つの資質がある。
①慈しみ
②叡智
・もし情緒面だけを発達させ、知的側面を無視すれば、人は心優しい愚か者となりかねない。
・逆に知的側面だけを発達させ、情緒的側面を無視すれば、他人を考慮しない無情なインテリとなりかねない。それゆえに、完全な人格を要請するためには、両者を発達させねばならない。これが仏教的生き方の目標。
◯我の概念の否定
・人間には、自己防衛と自己保存という心理的に根深い2つの考え方がある。
・ブッダの教えは、無知、弱さ、恐怖、そして欲望を支持せず、それらを根本から取り除き、破壊して、人間を目覚めさせることを目指している。
◯ブッダの瞑想法
・完全な心的健康状態、平衡そして静謐を生み出すことを目指している。
・瞑想には2種類ある。
①集中力
「無の領域」や「感受でもなく、無感受でもない領域」といった高度な神秘的段階に至る。
②ものごとの本質の「透視」(ヴィパッサナー)
究極の真理、ニルヴァーナの実現、心の完全な解放へと導くもの。これこそが仏教の本質的な瞑想で、仏教の心的修養。これは、気づき、自覚、注視、観察に基づく分析的方法である。
◯意識的呼吸法
・力まずに、緊張せずに、普通に息を吸い、吐く。
・心の息の吸い込みと吐き出しに集中させる。
・心を息の吸い込みと吐き出しに集中させる。
・息の吸い込みと吐き出しを注視し、観察する。
・息の吸い込みと吐き出しを意識し、見守る。
・唯一大切なのは、深く息をするとき、深く息をしているということを意識すること。
◯あの世で人を幸せにする4つの項目(来生の幸福の四因)
①信頼(サッダー)
道徳的、精神的、知的価値を確信すること。
②規律(シーラ)
命を害したり、殺めたりせず、盗みを働かず、嘘をつかず、不倫をせず、酒を飲まないこと。
自らの財産に執着せずに、慈善、施しを行うこと。
④叡智(パンニャー)
苦しみの完全な消滅、すなわちニルヴァーナの実現に至る叡智を発達させること。
◯4種類の幸せ
普通の家庭生活を営む者にとっては、4種類の幸せがある。
①まっとうな手段で得た十分な富と経済的安定を享受すること
②自分のため、家族のため、友達と親族のため、そして慈善事業のために自由に支出できること
③借金がないこと
④身口意の悪業を犯さずに過ちのない、清らかな生活を営むこと
岩波文庫では、以前『ブッダのことば』を読もうと思ったものの、挫折・積ん読化していましたが、本書は、その教えの解説版ということで、初心者でも比較的とっつきやすく書かれており、最後まで集中して読めました。この分野も興味が湧いてきました。