『インサイト』(桶谷功)<2回目>
久しぶりの読み直しです。インサイトとは、いろいろ直感を働かせたりして探り出したホンネのこと。「人は論理的に頭で考えて商品を買う」という従来のマーケティングに対し、インサイトは「直感や気持ちで商品を買う」というスタイルをとる。マーケティングが「失敗しないための無難な結論」を導くのに対して、インサイトは、「状況を打開するための大胆な結論」を導き出す。人の深層心理に迫り、消費者が思わず動く、心のツボである「ホットボタン」についてまとめられた一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯心のホット・ボタン「インサイト」とは
・インサイトは消費者のホンネであり、心の奥底にあるホット・ボタン。そのホット・ボタンを押されると、消費者は態度を変え、思わず行動を起こす。そればかりか、長年の習慣を変えることさえある。だから、インサイトは、消費者に行動を起こさせる「スイッチ」だと言える。インサイトを探り出すということは、そのスイッチがどこにあるのかを明らかにすること。消費者は頭で考えて行動を変えるわけではない。多くの場合が、気持ちを揺り動かされて、行動を変える。
・インサイトが消費者の行動を変える、心のホット・ボタンだとしたら、そのボタンを押すのがプロポジション(消費者を口説く、ブランドや製品からの提案)。プロポジションは、インサイトに基づいて開発される。このプロポジションは、インサイトと表裏をなす場合がほとんど。
◯ビジネスで直感が働かない理由
①ビジネスは客観的であらねばならないという「神話」がある。
②つい企業側からの発想で消費者を見てしまう。
→消費者の気持ちを知るには、一旦自分の関わっている製品やカテゴリーのことを忘れなければならない。消費者は作り手と違って、一日中その製品のことを考えているわけではないのだから。
◯なぜインサイトか?
・消費者がだんだん「自分の気持ちをわかってくれる」モノを選ぶようになってきた。インサイトは、平均値を出すのではなく、もっと本質的な共通点を見つけ出そうという考え方。
・好みよりも選ぶときの気持ちに目を向ける。キュートさを好む人にもメカニックなデザインを好む人にも共通する、奥底にある感情や気持ちはどういうものかを探り出す。「人に見られたとき、センスがいいと言われたい」「自分の個性を出したいけれど、目立ちすぎるのはイヤ」といった心の中で思っている気持ちを見つけ出そうとする。
・製品が消費者の外にあるモノだとしたら、ブランドは消費者の心の中に出来上がる認識であり、その集まりがブランド。ブランディングとは消費者との心の絆を作ることに他ならない。つまり、「好き」という感情的な思い入れや共感を作ること。
◯インサイトの見つけ方
①テーマを決める
・従来のマーケティングプロセスを活かした方が、インサイトは見つけやすい。
・問題点を裏返したところからインサイトが見つかることは多い。
・わからないところ、しっくりこないところを掘り下げていけばいい。
②ターゲットを絞る
・絞り込めるだけ絞り込もう。探ろうとする相手が絞り込まれていた方が、シャープなインサイトが見つけられる。
③仮説を立てる
・一番中心になるもの、ほかの思いと結びつくものはどれかを探す。
・散財する情報を見つけたいインサイトのテーマと結びつけて、ストーリー仕立てにする。
1)いくつものトレンドの底辺に共通する気持ちで、自分が担当しているカテゴリーが活用できるものを探す。
2)ほかのカテゴリーのヒット商品がとらえている消費者の気持ちを、自分の担当しているカテゴリーに当てはめる。
3)仮説として持ったインサイとが的を得たものかどうかをチェックするため、同じような消費者の気持ちをとらえた、別のカテゴリーがあるかチェックする。
・「なぜ消費者がそう思っているのか」「その奥底にはどういう気持ちが潜んでいるのか」というさらなる疑問が湧いてきたとしたら、それは浅い仮説。
・人が本音を話してくれない5つの理由
1)場所とシチュエーション(座談会など)
2)集団心理が働く(グループ・インタビューなど)
3)舞台裏を知りすぎている
4)言葉が気持ちを遠ざけている(言葉を使う時点で理屈っぽくなる)
5)消費者自身が気づいていない
④ホンネを引き出す調査
1)エスノグラフィック調査
・ブランドや製品を実際に使うときの行動と気持ちを把握
・対象者に同行してルポルタージュ
2)ポラロイド写真調査
・どんなときそういう気持ちになるかを把握し、ブランドに活かせるものを探る
・テーマに沿って写真を撮ってきてもらい、それをもとに話し合う
3)コラージュ・エクササイズ
・ブランドに対するイメージや感情、理想とするイメージなどを把握
・テーマに沿って、準備された写真を組み合わせて絵(コラージュ)を作ってもらい話し合う。
4)ポストカード調査
・インサイトの仮説の検証、掘り下げ
・対象者宛てに届いた、キーワードが書かれた手紙を提示し、それについて話し合う。
⑤使えるインサイトに絞る
・新しい発見かどうか。
・自分の担当しているブランドとの間に整合性があるかどうか。
・アクションにつながるかどうか。
・そのインサイトから発想が広がるくらいの刺激的かどうか。
・最も使えないのは、単に製品特徴を裏返したケース
・一番の判断基準はおもしろいかつまらないか。
⑥マーケティング活動に落とし込む
・問題点を列挙するのではなく、それら全てを包括するような核心は何かを言いあてよう。
・どういう消費者の気持ちをとらえたらそこへ行けるのか、何をプロポジション(消費者への提案)としてアピールすればいいのか。
・主観的なインサイトを論理的なプランに見えるよう、論理的に組み立て直す。
本書では上記の考え方を整理したうえで、ハーゲンダッツ、シック(カミソリ)の事例を取り上げて、具体的に解説がされています。ついつい論理的にすべてを組み立てしまいがちがちですが、気持ちの部分に迫ること、その気持ちすらも正直には話してもらえないことを踏まえて、どうやって情報をとって、製品・サービスを生み出していくのか。御本業の方にお話を聞いてみたいところです。