『睡眠の科学』(櫻井武)
睡眠は進化の過程でどうしても省くことのできなかった、動物が生存するための必須の機能。睡眠は、脳が積極的に生み出す状態であり、身体の、特に脳のメンテナンスに必須の機能です。本書では、睡眠が身体や脳の機能にどのように関わっているのか、どのような役割を果たしているのか、そして、どのようなメカニズムで起こされているのかを解説し、睡眠とは何かということを説き明かす一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯眠らないとどうなるか(11日間の不眠記録への挑戦より)
・断眠2日目・・怒りっぽくなる、体調不良、記憶に障害、集中力がなくなる、テレビを見ることも困難になる。
・断眠4日目・・妄想をきたす、ひどい疲労感。
→しかしこれらの障害は、睡眠研究の専門家が予測していたものほど重篤ではなかった。断眠によって様々な変調は起こったが、眠ることによって、完全に回復した。
◯ノンレム睡眠とレム睡眠
・人は眠るとまずノンレム睡眠に入る。ノンレム睡眠のときは、大脳皮質のニューロンの活動が低下して、だんだんと同期して発火する(スリープモードに入る)ようになる。
・しばらく(60〜90分ほど)経つと、脳は活動を高める。同期した発火をやめて、大脳皮質のニューロンはそれぞれが固有の発火を見せるようになる。これがレム睡眠。脳は覚醒時と同様か、それ以上に強く活動をしている。しかし感覚系や運動系が遮断されているため、身体は眠った状態にある。
・俗にレム睡眠は「浅い眠り」と言われることがあるが、これは間違い。レム睡眠中破脳が活発に活動しているため、脳の休息の度合いから「浅い」と言われもするのだが、レム睡眠は、ノンレム睡眠と比べて「量的に」違うのではなく、「質的に」まったく違うものであると考えたほうがいい。
◯レム睡眠とノンレム睡眠の役割の違い
・近年ではレム睡眠よりもノンレム睡眠、特に深いノンレム睡眠が記憶の強化に重要な働きをしているとする考えが主流。
・大脳皮質では、1つのニューロンに数千〜数万個の入力を受けており、一度眠らせることにより、再構築しやすい環境を作り出しているのかもしれない。
・ノンレム睡眠時は、身体も脳も休息状態にあるようにみえ、感覚系の入力の処理も覚醒時のようにはいかない。中枢である脳が機能を落としているのだから。
・レム睡眠時の脳は、覚醒時よりも活発に活動している。
◯ルール通りに繰り返される”睡眠のかたち”
・睡眠の約75%はノンレム睡眠で、残りの約25%がレム睡眠。
・人間の脳の睡眠・覚醒ステージは、覚醒とレム睡眠を含めて全部で6段階に分類される。正常な睡眠では、就寝後、覚醒状態が数分から20分ほど続き、まず第1段階のノンレム睡眠に入る。
・その後、睡眠は第2段階、第3段階、第4段階と深くなっていき、やがて最初のレム睡眠が現れる。レム睡眠に先行するノンレム睡眠の長さを「レム潜時」という。
・ノンレム睡眠に入ってからレム睡眠が終わるまでを「睡眠単位」と呼び、通常、ほぼ90分の睡眠単位を4回から5回繰り返すと覚醒する。
・睡眠が進むほど、深いノンレム睡眠が少なくなり、レム睡眠は増加して、レム潜時も短くなる。しかし、必ずノンレム睡眠が先行するというルールに変わりはない。
◯視床下部の役割
・視床下部は自律神経系や内分泌の機能を調整することによって、全身の恒常性を維持している。
・視床下部の後部には、覚醒に深い関係を持つオレキシンとヒスタミンという脳内物質を作るニューロンが存在している。
・視床下部の前部には、視索前野という部分が含まれ、ここに睡眠を作り出すシステム(睡眠中枢)が存在している。
・視床下部には、睡眠に関わる部分と覚醒に関わる部分が存在する。これらが脳幹に存在する覚醒を制御するニューロン群に働きかけ、睡眠と覚醒のスイッチが切り替えられる。
◯日常生活でもできる「眠り」の操作
①食事
・オレキシン作動性ニューロンは血糖値の影響を受ける。あまりに空腹になると、オレキシン作動性ニューロンの活動が高まり、眠りにくくなってしまう。かといって、寝る前に食べる習慣がついてしまうと、「食餌同期性リズム」が発動するようになり、その時間の覚醒レベルが上がって、かえって眠れなくなる。
・食事は適切な量を就寝の4〜5時間前くらいに摂るようにすることが、良い眠りをとるためのコツ。
②体温調整
・もともと体温、特に脳を含めた深部の体温と睡眠には強い関係がある。睡眠に入るとき、深部体温は少し下がった状態になっている。
・人が眠りにつく前、一次的に手足の温度が上がるが、これは手や足の血管を拡張させて、体温を外に放散させることによって深部体温を下げている。
・こうして脳の温度が少し下がることによって睡眠が開始する。
・逆に体温があまり高い状態だと、入眠しにくい。つまり、眠る直前に熱いお風呂に入るのは避けたほうがいい。しかし、手足が冷えていると血管が収縮してしまい、深部体温の放散が難しくなる。あまり体温を上げず、しかし暖かくして眠ることが大切。
・眠気を払いたいときは、体温の話を逆に考えて、手足を冷やすと良い。
③光、カフェイン
・朝はカーテン開けるなどして、なるべく明るくし、積極的に体内時計をリセットしてあげると良い。逆に夜間にあまり明るい光を浴びるのは、睡眠にとっては良くないと言える。
・カフェインを含むお茶やコーヒーなども効果があるが、早く眠気を解消したいときはホットで飲むほうが望ましい。アイスコーヒーなどは、消化管粘膜の血管が冷たさで収縮してしまうため吸収が遅れる。
ここ半年ほど、寝るときに布団に入ってから自律訓練法をやってから眠っています。これが早く深く眠りに入れてすごくいいと実感していたところです。本書を読んで、人が眠るときには一時的に手足の温度が上がるとのことで、自分でその状態を意識的に作り出していたことに驚き。ちゃんと科学的な裏側があるのだと腹落ちしました。
睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス)
- 作者: 櫻井武
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/08/17
- メディア: 新書
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