『成人発達理論による能力の成長』(加藤洋平)(◯)
本書は、多様な能力に共通する成長のプロセスとメカニズムを「知性発達科学」に基づき、解説し、自己の成長と他者の成長を促す方法について紹介した実践書です。ローバート・キーガンの器成長モデル(人としての器の成長×具体的な能力・スキルの成長)やカート・フィッシャーの能力成長モデル(人生を通じて器と能力を絶えずともに磨いていく)など発達理論に裏打ちされた「能力」にスポットを当てた一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯発達の網の目
・「発達の網の目」というのは、様々な能力がお互いに関係し合いながら成長していくという有益なメタファー。
・実践の初期の段階では、その足取りがぎこちないものであったにも関わらず、実戦を積むことや他者からの支援を受けることによって、その足取りが安定したものになっていくということ。最初はうまくできなかったことが徐々にできるようになっていくというのは、まさに網の目が徐々に強固なものになっていく過程を表している。
◯能力の環境依存性
・私たちの能力は、置かれている環境などの特定の状況の中で磨かれ、その状況の中で発揮されるもの(環境依存性)。
・私たちの能力は、課題の種類や性質が変わると、発揮する能力の種類や能力のレベルが変わる(課題依存性)。ある特定の能力を伸ばしたい場合、その能力と密接に関係した具体的な課題に取り組んでいくことが必ず求められる。
◯能力の変動性
・私たちの能力が持っている特徴のポイントは、変動性。
・変動性とは、能力の種類やレベルのばらつきのこと。
・変動性をもたらすのは、私たちを取り巻く環境や取り組む課題だけでなく、私たち自身。
・変動性とは、学習や実戦の中における意図的に発生する変化。これに対して、学習や実践において不可避に発生する変化は、「ノイズ」。
・ノイズと変動性に関して何が重要なのかというと、自分の学習や実践の中に、どのようなノイズが混入しており、どのような変動性を設けているかを明らかにすること。
・状況下や課題の中にどのようなノイズが混入しているのかを特定し、これまで無意識なものであったノイズを、意図的なものに変えていくことが重要。言い換えると、ノイズを変動性に変えていくことが大切。
◯サブ能力に焦点を当てる
・状況や課題を考慮して、1つの能力を構成するサブ能力を特定していくことが、能力開発の上で最初に求められること。
◯最適レベルと機能レベル
・最適レベルとは、他者や環境からのサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高い能力レベルのこと。
・機能レベルとは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベル。
◯発達範囲
・指揮者から手取り足取り何らかの技術を学んでいる最中は、非常に高度な能力レベルを発揮できていたのに、いざ1人でその技術を試してみると、数分前にできていたことがうまくできなかったりする。
・その数分の間に何が起こっていたのかというと、指揮者の支援のもとで最適レベルを発揮できていた状態から、支援者が取り払われた瞬間に機能レベルの状態に移行したということ。
◯フラクタルな能力の成長
・フラクタルとは、部分とか全体が同じ形になっているものを指す。
・私たちのありとあらゆる種類の能力は、ある1つの法則性に基づいて成長していく。その1つの法則性というのが、「点・線・面・立体」の成長サイクル。
◯5つの成長法則
①統合化
・今自分が持っている複数の能力が結びつき、現在の能力レベルから新たなレベルへの成長を説明する法則。
・考える能力×キーボードを打つ能力=ブラインドタッチ。構成要素の能力にも似たような変化が起こり、2つの能力の単純な総和がブラインドタッチという新たな能力を生み出しているわけではなく、2つの能力が掛け合わされることによって質的に新たな能力が生み出されることが統合化の肝。
・能力の質的な変容。
②複合化
・今自分が持っている複数の能力が現在のレベルの中で組み合わさって、より高度な能力を獲得することを説明する法則。
・能力の量的な変容。
③焦点化
・ある課題をこなすために必要となる能力を、即座に選びぬくことを可能にする法則。
④代用化
・ある能力を一般化させて他の課題に対して活用する、あるいは他の状況内で活用する際に発揮される法則。
⑤差異化
・ある能力がより細やかな能力に細分化される際に発揮される法則。
・能力開発を行う時には、サブ能力を特定し、個別のサブ能力に特化した実践をすることによって、サブ能力を高めていくことが大切。そのプロセスを経て、それらのサブ能力が組み合わさって発動されることを余儀なくされた時に統合化が起こり、リーダーシップ能力が一段高いレベルになる瞬間がある。
◯変動性の3種類のノイズ
①ホワイトノイズ:最も変動性が激しいノイズ
②ピンクノイズ:変動的すぎず、安定的すぎないというバランスが取れたノイズ
③ブラウンノイズ:最も安定性が高いノイズ
・これら3種類のノイズの中で能力が卓越したパフォーマンス中に発揮する波形は、変動性が最適なバランスにある「ピンクノイズ」。
・ある能力に熟達した人は、環境やタスクの変動性にうまく適応することによって、ピンクノイズを発しながら実践に従事することができる。
◯最近接発達領域
・他者からの支援があった場合に、1人では成し遂げられないことが成し遂げられることに変わる領域のこと。
・私たちの成長においてカギを握るのは、「他者を通じた成長」という発想。
・自分が何らかの課題に取り組む時には、「支援を求める勇気」が必要になり、他者から何らかの課題に取り組む時には、「支援を与える勇気」が必要になる。
能力の成長には、ある程度自分の努力でなんとかなる領域と、適度なストレスと他者からの支援があってこそ達成するできる領域がある。これらを繰り返しながら、学びが統合され、だんだんと成長していくというイメージが論理的にまとめられており、理解できてスッキリした感覚が持てる点が良いと思います。体系をパワポ化して、人に説明できるように取り組みたい一冊でした。
成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法
- 作者: 加藤洋平
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2017/06/15
- メディア: 単行本
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