MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

知性を磨く(田坂広志)<2回目>

『知性を磨く』(田坂広志)<2回目>(◯)

 スーパージェネラリストの時代との副題を持つ本書。「知能」が「答えの有る問い」に対して早く正しい答えを見出す能力であるのに対し、「知能」は、「答えの無い問い」に対して、その問いを問いづける能力。すなわち、「知性」とは、容易に答えの見つからぬ問いに対して、決して諦めず、その問いを問い続ける能力のこと。20世紀において、個別分野の「専門の知性」だけで解決できる問題はほとんどが解決してきた。残された問題の大半は、個別分野の「専門の知性」だけでは解決できない「学際的問題」。その解決のためには、個別の「専門の知性」をその垣根を超えて統合する「スーパージェネラリスト」が必要である。本書は、知性の磨き方と現代に求められるスーパージェネラリストについてまとめられた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯割り切り

・「知能」が「答えのない問い」に直面したときに起こるのが「割り切り」。

・割り切りとは、「楽になりたい」という魂の弱さ。

・我々の精神は、その容量を超えるほど難しい問題を突きつけられると、その問題を考え続けることの精神的負担に耐えかね、「割り切り」を行いたくなる。問題を単純化し、二分法的に考え、心が楽になる選択肢を選び、その選択を正当化する理屈を見つけ出す。

・精神が楽になることを求め、割り切りに流されていくと、深く考えることができなくなり、「答えのない問い」を問うちから、「知性」の力が衰えていく。

 

◯割り切りではない迅速な意思決定

・「腹決め」。「これで行こう!」と、腹を決め、能動的に意思決定すること。

・「割り切り」の心の姿勢は、心が楽になっている。「腹決め」の心の姿勢は、心が楽になっていない。

 

◯知識・知恵・知性

・知識:言葉で表せるものであり、書物から学べるもの

・知恵:言葉で表せないものであり、経験からしか掴めないもの

・知性の本質は、知識ではなく知恵である。

◯「知性を磨く」ために求められること

  • 「答えのない問い」を問う力を身につけること
  • 「知識と知恵の錯覚」の病に罹らないこと

 

◯「垂直統合の知性」を持つスーパージェネラリスト

 スーパージェネラリストは、様々なレベルでの思考を見事に切り替えながら並行して進め、それらを瞬時に統合することができる。

  • 思想
  • ビジョン
  • 戦略
  • 戦術
  • 技術
  • 人間力

→スーパージェネラリストへと脱皮していくために必要な視点

  • 7つのレベルの思考を、バランスよく身につけていく
  • 7つのレベルの思考を、それぞれのレベルで深めていく
  • 7つのレベルの思考を、垂直統合して、シナジーを生み出していく

→21世紀に求められる人材、スーパージェネラリストは、この「7つのレベルの知性」をバランス良く身につけ、垂直統合した人材。「7つのレベルの知性」を垂直統合するということは、ある意味で、「7つのレベルの人格」を適宜、切り替えながら仕事に取り組むこと。

・3つの修行の段階

①自分の中に、「複数の人格」を見出し、それを意識的に見つめる段階

②必要な時に、必要な人格が現れ、その場に処することができる段階

③複数の人格が切り替わる状況を、少し離れて見ている人格が現れる段階 

 

◯思想

・思想というものを単なる教養として学ぶのではなく、「方法」として学ぶ。具体的には、「未来を予見する方法」として学ぶ。

・我々の生きるこの世界が、森羅万象が、どのようにして変化・発展し、進歩・進化していくのかの「法則」を述べたものを学ぶことは、未来を予見するために、極めて重要。

・未来を予見できなければ、「ビジョン」や「戦略」を描けない。

 

◯ ビジョン

・ビジョンとh、未来に対する「客観的思想」であり、「主観的願望」や「意志的目標」ではない。

・忘れてはならないのは、思想レベルの思考とビジョンレベルの思考の往復運動。

 

◯志

・志は具体的。ビジョンといて描いた「これから何が起こるのか」のいくつかのシナリオの中から、個人の意志として、もしくは企業の意志として「このシナリオの実現を目指そう」「この未来の実現を目指そう」という思考のこと。

・野心とは、己一代で何かを成し遂げようとの願望のこと。志とは、己一台では成し遂げ得ぬほどの素晴らしき何かを、次世代に託す祈りのこと。

 

◯戦略

・戦略とは戦いに勝つための策略のこと。戦略とは戦いを「略く(はぶく)」こと。すなわち戦略とは、「いかに戦うか」の思考ではなく、「いかに戦わないか」の思考。

・どのような戦略にも、そこには「かけがえのない人生」が懸けられている

・これからの時代には、この「直観的感覚」を鍛えることが「戦略」のレベルの知性を磨くことでもある。

 

◯戦術

・戦術で重要なのは、「想像力(イマジネーション)」と「反省力」。

・戦術とは、「固有名詞」で語るべき世界。固有名詞が不可欠なのは、具体的なシミュレーションを行うため。可能な限り、背景情報と周辺情報を入手した上で、その戦術を実行したときのシミュレーションを徹底的に行い、戦術の最善策を検討する。一つの戦術を実行した後は、その経緯を仔細に振り返り、徹底的な追体験を行い、戦術の改善策、もしくは、新たな戦術を検討する。それが戦略思考ならぬ、戦術思考。

・想像力とは、未来に起こる出来事の展開を具体的に想像し、そこから最善策を選ぶ力のこと。

・反省力とは、過去に起こった出来事の経緯を仔細に追体験し、そこから改善策を選ぶ力のこと。

 

◯技術

・技術の本質は、知識ではなく知恵。

・技術とは決して書物で学べるものではなく、経験を通じてしか学べないもの。

・経験が体験になっていないのは、「反省の技法」を身につけていないから。一つの経験をしたとき、その経験をそのままで終わらせず、心の中で「追体験」をしながら、そこから掴める「知恵」を徹底的に掴むというスタイル。

 

人間力

・「心の動き」を感じ取る修行を積むこと。①自分の心の動き、②相手の心の動き、③集団の心の動き

・日々の仕事において、どのように人間力のレベルの知性を磨いていけば良いのか。この問いに対する答えも垂直統合の中にある。人間力のレベルの知性を磨きたかったら、まず技術のレベルの知性を磨くこと。なぜなら、技術を磨いて行くと、必ず、人間力を磨くという課題に向き合うことになるから。

 

 7つの知性を統合した「スーパージェネラリスト」。利便性が進む社会にあって、見失われがちでありながら、物事の根幹を成すもの。これらを統合的に行ったり来たりしながら、いずれの分野にも深く精通している人。まさに今自分が目指しているところでもあり、10年計画で自分流の哲学を体系化したいと思っているところです。現在2年目。着実に歩みを進めています。

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

 

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