平安中期に実在した安倍晴明は、生きていた頃は言うに及ばず、平安時代後期には、『大鏡』『今昔物語』で語られ、鎌倉時代には『宇治拾遺物語』『古今著聞集』『平家物語』『源平盛衰記』などで語られました。本書は、安倍晴明の人物像から陰陽道の中身まで、広く安倍晴明についてまとめられた一冊です。著者が安倍晴明研究会とだけあって、かなりマニアックな濃い内容です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯陰陽道とは
紀元前の古代中国で発明、研究され、それが朝鮮半島を伝わって、約1600年前に日本にもたらされた。宇宙の構造を解き明かす陰陽五行論は思想として、また易学(占術)や暦道、天文道など当時最新の科学技術として受け入れられた。
◯占術
・占術は「天」の星の運行、「地」の方位、それに「人」の三要素を陰陽五行に分類し、その組み合わせを調べることで、対象の過去や現在、未来の状況を言い当てるもの。
①式占
・陰陽道を代表する占術で、天を表した丸い盤と地を表した正方形の盤の二つを重ね合わせた式盤と呼ばれる道具を使うことから、そう呼ばれる。
・占い方法には、太乙、雷公、遁甲、六壬があり、それぞれ専用の式盤を使って占われる。
②易占
・易占は八卦とも呼ばれ、乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の要素に万物を分け、天を意味する50本の筮竹と、地を意味する算木を使ってする占い。
③暦占
・月の運行をもとに一年を12の月に分けた太陰暦を指すが、今でいう日付を知るためのカレンダーとは意味合いが違い、暦は吉凶を知るためのマニュアル。
④方位占
・その年ごとの吉凶と、自分の年齢ごとの吉凶の2種類がある。前者は八将神という8人の異なったことを司る神が毎年それぞれ、どこかの方位に立っているので、災いを与える神を避け、基地を招く神に向かって行事を執り行うための占い。
⑤命占
・命占には納音占と十二支占がある。納音占は、生まれた年・月・日・時の四つの干支ごとに五行の属性を出し、その組み合わせによって、その人の持って生まれた性格を言い当てる占い。
⑥地相占
・平安京を建設するにあたって、桓武天皇が行ったのが地相占で、古来から都市や建物を建てる際に行われていた。現在でも家を建てる時に行われている地鎮祭も陰陽道の儀式。
⑦家相占
・家は人の日常生活の起点ということから、そこに住む者にとっての宇宙の中心であると考えられている。
・日常起こる全ての吉凶の原因は、家の形(家相)と因果関係があるとし、陰陽五行論をもって、それを解明したものが家相占。渾天易盤を家の中心において占う。
◯呪術
①式神
・陰陽師が呪文で呼び出し、自分の手足として使う鬼神。
・清明は十二神将と呼ばれる十二種類の式神を操ったと伝えられる。
②蠱毒
・虫や動物を使って作られる呪殺用の式神。生物の怨念を利用して、人為的に祟りを起こして相手を殺す。
③人形
・紙や木で人の形を作った人形。用途は2種類。
・一つは人についた汚れを移す。人についた鬼や怨念をその人に見立てた人形に移し、祟りの矛先を移す。
・もう一つは呪殺。木や紙、藁で編んで作った人形を傷つけることで憎い相手を殺す。
④反閇(へんばい)
・右足と左足の出し方、また一定の歩数ごとに唱える呪文などの組み合わせで表現される術で、歩行呪術の一種。天皇や高貴な人が外出するときの道中に鬼やもののけ、怨霊が現れるのを防ぐために、たびたび清明はこの術を使った。
⑤方忌み
・占術の項の方位占で知った凶方から身を避けること。
⑥方違え
・どうしても凶方へ行かなくてはならないことがあるときに行う。
・簡単に言うと凶方である目的地に行くのに、吉とする方向を使って迂回を重ねること。
⑦物忌み
・暦で凶日とされた日や不吉な予兆があったときに、門を閉ざして家に閉じこもり、凶事からそのをかわすこと。
⑧祓い
・積極的な防御策。呪詛や怨霊、鬼やもののけ、怪事に凶兆など、あらゆることを対象に行われる。
・単純に呪文を唱えるだけのものもあれば、呪符や呪具を必要とするものも、また大掛かりな祭壇を用意した儀式まで、実に様々な方法がある。
⑨泰山府君祭(命を取り替える秘術中の秘術)
・死んだ人間の魂を肉体へ呼び戻したり、寿命で死にかけている人間の命を伸ばす儀式。代わりに命を落とす人間が必要とされてきた。
◯呪符
①五芒星
・陰陽道では、五芒星は魔除けの呪符として伝えられている。
・五芒星こそ、陰陽道の基本概念となった陰陽五行説の五行、木・火・土・金・水の5つの元素の働きのモデルのうち、相剋を表したもの。
・木は土の養分を吸って成長するから土に剋ち(勝ち)、土は土塁を築いて水をせき止めるから水に剋ち、水は火を消すから火に剋ち、火は金属を溶かすから金に剋ち、金属は木を切るから木に剋つ。これが相剋。
・それを表した図形が、日本ではいつの間にか魔除けの呪符となった。
②九星九宮
・交差する横5本、縦4本の直線は九星九宮、通称九字と呼ばれ、陰陽道、修験道、兵法ともに最強を意味している。
・通称ドーマン符と呼ばれる九字は、修験道では、「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前」という九文字を唱える魔除けの呪文を表した呪符であり、青龍・白虎・朱雀・玄武・空陳・南斗・北斗・三台・玉女を表した呪符でもある。
・その原形は中国の神仙道にあるが、日本では蘆屋道満に由来する魔除けの呪符として、また、蘆屋道満生没の地の播磨国では家紋として伝わっている。
野村萬斎さんが主演を務められた『陰陽師』で一躍有名になった安倍晴明。最近では、羽生結弦選手が平昌五輪のフリーで「SEIMEI」という曲で演技をされ、再び安倍晴明や安倍晴明を祀る晴明神社も注目を浴びているようです。非常に多岐にわたる知見が求められる陰陽道の入り口と、安倍晴明がどんな方だったがまとめられた本書。自分の中では異分野を垣間見た時間になりました。