『トラスト・ファクター』(ポール・J・ザック)(◯)
良書でした。「信頼」をマネジメントすることについて科学的にまとめられた一冊です。「人間の本質とは何か?」「組織を率いる上で最も大切なことは何か?」。あとがきに書かれている本書の意義は、「神経経済学の知見に基づき、社会的動物としての人間の本質を喝破し、組織を運営する上で最も本質的な要因が『信頼』であることを説いた本」。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯共感と思いやり
・「共感」:相手の感情を我が身のように受け入れること(I feel you)
・「思いやり」:共感に加えて、相手の力になりたいという気持ちがある状態(I want to help you)
→他者の苦しみに対して親切な反応をしたとき(思いやり)では、脳の活性部位が異なる。同じように苦しんでいる相手を前にしたとき、「共感」だけでは私たちまで苦しくなってしまうのに対して、「思いやり」で臨めばむしろ私たち脳はポジティブな状態になる。これはつまり、困っている人に手を差し伸べることを「快楽」と感じるように、そもそも人間の脳がプログラミングされている可能性がある。
◯信頼と信用
・「信頼」:相手に対する「理性的」な判断
・「信用」:相手との「感情的」な結びつき
→信頼には、「オキシトシン」というホルモンが関わっている。組織とオキシトシンの2つの強力な要素を結びつけることは、生産性の高い組織を生み出す秘訣。
→オキシトシンを抑制するのが30歳までの男性に多い「テストステロン」。
本書の目的は、テストステロンから得られる高いモチベーションや意欲、そしてオキシトシンを分泌することによる協調とチームワークのバランスを見つけること。
◯人間の本質
①職業的に成長していますか?
②個人的に成長していますか?
③精神的に成長していますか?
→このうちどれか1つでも行き詰まると、従業員はフラストレーションに陥り、生産力が落ちることは科学的に証明されている。
◯信頼の高さが従業員に与える効果
・信頼は、効果的なチームワークと内発的な動機付けの基盤をもたらし、それによって組織の業績を見違えるほど成長させる。信頼があれば、従業員は最適な方法で個別の目標を達成でき、同時に組織全体としての目標に向けて全力を尽くせるようになる。
・信頼があれば一緒に仕事をしている従業員を人的資本の位置などではなく、一人の独立した意識を持つ人間として捉えることができる。その結果、高信頼性組織では、従業員が優れた職務遂行能力を発揮するだけでなく、プライベートではよき親、よき配偶者、よき市民として過ごすことができ、人生に対する満足度も高まる。
◯信頼を高めるための神経科学で実証されている8つの因子
①オベーション(Ovation)
②期待(Expectation)
③委任(Yield)
④委譲(Transfer)
⑤オープン化(Openness)
⑥思いやり(Caring)
⑦投資(Invest)
⑧自然体(Natural)
◯オベーション(Ovation)(組織の信頼の67%が説明できる)
・小さな目標を達成したときは、全体ミーティングでささやかな感謝を送るので十分。小さな成果に対する「オベーション」は実はとても重要で、組織の中で定期的に実施すべき。ボランティア精神を持つ従業員は常に感謝されることが必要。
・「オベーション」を予想外のタイミングで、なおかつ皆の前でオープンに行うことで、私たちの脳はオキシトシンとドーパミンが同時に分泌されるという2重の効果が得られる。
・「オベーション」は人前で褒めることが原則。結果、同僚同士で情報共有できる場が自然に生まれる。チームワークの重要性を高め、グループの目標を使って仲間をやる気にさせる効果がある。
◯期待(Expectation)(組織の信頼の83%が説明できる)
・人は自分の成績に対する定期的なフィードバックを受けることで脳の神経回路が形成され、目標の達成にふさわしい行動が取れるようになります。
・「期待」という構成要素を一言で説明すると「チャレンジと回復」
・「期待」を確かなものにするには、それらが具体的で、測定可能で、検証可能であると同時に誰もがわかるように公開されている必要がある。
・「期待」を実施可能なものにするなら、チームの規模は小さく維持する必要がある。
・「パーキンソンの法則」:仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて費やすまで膨張する。
・「リンゲルマン効果」:人は集団になると力を抜く。
・信頼の文化を築くということは、全ての従業員が自分に割り当てられた業務に責任を持つということを意味する。それは「期待」があればこそ実現する。業務が遂行できない場合、リーダーはその原因を突き止め、再発防止策を講じる必要がある。
◯委任(Yield)(組織の信頼の51%が説明できる)
・マイクロマネジメントは、従業員に仕事の取り組み方を自ら選択してもらう機会を奪い、プロジェクトに対する「当事者意識」を失わせるデメリットがある。
・「委任」はばらつきと淘汰を前提とした進化のプロセスのひとつ。「期待」は難しくて達成可能な目標を設定することでイノベーションを促しますが、「委任」では目標を達成する際のばらつきが許容されている。
・私たちは誰かに見られていると生産性が向上する(ホーソン効果)
◯委譲(Transfer)(組織の信頼の82%が説明できる)
・「委譲」とは強化された「委任」。
・自分の仕事をコントロールできるようにすることで、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌を抑えることができる。コルチゾールは、人体が慢性ストレスにさらされたときに放出される化学物質で、動脈硬化、糖尿病を引き起こし、記憶を司る海馬を萎縮させる。
◯オープン化(Openness)(組織の信頼の65%が説明できる)
・「委任」が現場の従業員から上司に向けて情報の流れを作ることだとすると、「オープン化」は、上司から部下へと情報を広く共有しようと呼びかけること。この双方向の伝達経路によって信頼が構築される。
・慢性的なストレスは信頼を破壊する。職場のストレスを生む背景には、①上司の存在、②上司の意向がわからないという2つの要因がある。
◯思いやり(Caring)(組織の信頼の84%が説明できる)
・リーダーの地位に上り詰めると、オキシトシンが脳内で合成されるのを抑制する、「テストステロン」が上昇する。
・テストステロンを抑え、「思いやり」のある文化を生み出す方法として考えられることは、優位性をひけらかさないこと。
・「人生と仕事に成功をもたらす実践能力の中で最も重要なものは、共感力である」。つまるところ、分け隔てなく人を思いやることが重要。
◯投資(Invest)(組織の信頼の72%が説明できる)
・17時もしくは18時に帰宅させる規定を作ることは、従業員が画期へ満ちることへの「投資」になる。
・少なくとも90分ごとに1回、短い休憩を取る人は、休憩が1日1度だけ、あるいは全く休みなしで働く人と比べて、集中力が28%高いことがわかっている。
・退屈さや、座ったままのデスクワーク、慢性的なストレス、睡眠不足は、脳の働きを低下させる原因。困難でもやりがいのある仕事が脳に良い理由は、まさにこの点にある。
◯自然体(Natural)(組織の信頼の82%が説明できる)
・「自然体」のリーダーは、不完全さを受け入れている。
・「自然体」の人を見るとオキシトシンが分泌され、組織の目標のためにより一生懸命取り組もうという気持ちになることがわかっている。「自然体」のリーダーになるには、従業員の助けを求めることを日々の習慣にすべき。
◯Joy=Trust×Purpose
・「喜び」は信頼と目標意識から生まれる。「信頼×目標」と「喜び」の相関関係は、0.77。
まだまだ書き足りないのですが、長くなりすぎるので、このあたりで。別途まとめるのが必要なほどの重要箇所多数の内容でした。しかも裏付けが示されているのが良いです。毎日の積み重ねが必要な「信頼マネジメント」。目指す姿と一致感がある内容でした。
TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント
- 作者: ポール J・ザック Paul J. Zak,白川部君江
- 出版社/メーカー: キノブックス
- 発売日: 2017/11/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る