『なぜ、優秀な人ほど成長が止まるのか』(田坂広志)(◯)
出版されるたびに即購入し拝読させていただいている田坂広志さんの最新刊です。なぜ優秀な人ほど成長が止まってしまうという逆説が起こるのか、そしてそのことに気づいたならば、どうすればさらなる成長に向かっていけるのかという点についてまとめられた一冊です。自分を律するという観点でいつも田坂さんの著書は気づきを与えてくださります。今回もまた、田坂さんのお人柄が滲み出ています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯7つの壁と7つの技法
①第1の壁:学籍の壁
・「優秀さ」の切り替えができない
・優れたプロフェッショナルの「優秀さ」とは、どれほど多くの本を読み、どれほど多くの「専門的な知識」を学んだかではなく、どれほど豊かな経験を積み、そこから、どれほど深い「職業的な知恵」を掴んだかで決まる。
・「知識」とは、言葉で表せるもの。「知恵」とは、言葉で言い表せないもの。
・「職業的な知恵」の3つの強み
1)決して古くならない
2)業種や職種が変わっても役に立つ
3)簡単に代替されない
■第1の技法:棚卸しの技法
・「経験」から掴んだ「知恵」の棚卸しをする
・「棚卸し」の2つの要点
1)一定期間の成長を振り返る
2)明確な課題意識を持って振り返る
②第2の壁:経験の壁
・失敗を糧として「知恵」を掴めない
・「知恵の習得法」を身につけるならば、日々の仕事における様々なミスや失敗の「経験」を糧として、自分にかけている「職業的な知恵」、仕事の技術や心得を、深く学ぶことができる。
・与えられた「経験」を「体験」にまで高める。
■第2の技法:反省の技法
・「直後」と「深夜」の追体験を励行する
・仕事において一つの「経験」が与えられたとき、その「経験」をそのまま放置せず、直後と深夜に振り返り、心の中で「追体験」し、その仕事における自分の技術や心得を深く「反省」することによって「職業的な知恵」を掴むという技法。
・反省の2つの技法
1)直後の反省対話の技法(技術を仲間とともに振り返る)
・「我々は、言葉にて語る得るものを語り尽くしたとき、言葉にて語り得ぬものを知ることがあるだろう」(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン)
2) 深夜の反省日記の技法
・「書く」ことによって深く考えることができる。心の奥深くから「もう一人の自分」が現れてきて、その書かれた文章に対して「意見」をつぶやき始めるから。
③第3の壁:感情の壁
・感情に支配され、他人の心がわからない
■第3の技法:心理推察の技法
・会議では、参加者の「心の動き」を深く読む
・日々の商談や交渉、会議や会合において、顧客や交渉相手、会議参加者や会合相手の発言や表情、仕草や雰囲気の奥にある「心の動き」を推察し、想像し、深く読むという修練をすること。
④第4の壁:我流の壁
・「我流」に陥り、優れた人物から学べない
■第4の技法:私淑の技法
・「師」を見つけ、同じ部屋の空気を吸う
・「私淑」とは、身近に優れたプロフェッショナルを見つけ、この人物を、心の中で「師匠」と思い定め、その人物の仕草を間近で見ることによって、「職業的な知恵」を深く学ぶこと。
・「私淑」をするための7つの心得
1)優れたプロを見つけ、心の中で「師匠」と思い定める
2)師匠の「すべて」ではなく、「優れた一芸」を学ぶ
3)本当に「心が動かされた」ことだけを学ぶ
4)「自分」を見つけるために、「師匠」を徹底的に真似る
5)「個々の技」ではなく、「技の全体像」を掴む
6)同じ部屋の空気を吸い、「別の顔」からも学ぶ
7)心の中に、最も厳しい「師匠」を育てる
⑤第5の壁:人格の壁
・つねに「真面目」に仕事をしてしまう
■第5の技法:多重人格の技法
・自分の中に「様々な自分」を育て、使い分ける
・優れたプロフェッショナルは、自分の中に、様々な「人格」を持ち、それを、齟齬tの場面や状況に応じて、見事に使い分ける。
・一人の人間の中から一つの「才能」が現れてくるときには、必ず、その「才能」に見合った「人格」が現れてきている。
・3つの人格
1)表層人格(日常生活では現れていながら、仕事の時には現れていない人格)
2)真相人格(基本的には表に現れていない人格だが、酒に酔った時や心理的技法によって、比較的容易に現れてくる人格)
3)抑圧人格(なかなか表に現れてこない人格)
⇨表層人格を育て、仕事の場面や状況に応じて使い分ける4つの心得
1)自分が、今の仕事に「どのような人格」で取り組んでいくかを、自己観察する
2)自分が、仕事以外の世界で「どのような人格」を表に出しているかを、自己観察する
3)優れたプロが、仕事で、どのように「人格」を切り替えているかを観察する
4)自分の仕事において、表に出して活用する「人格」を切り替える
⑥第6の壁:エゴの壁
・自分の「エゴ」が見えていない
■第6の技術:自己観察の技法
・「自分を見つめるもう一人の自分」を育てる
・「自分を静かに見つめるもう一人の自分」、すなわち「静かな観察者」が心の中に生まれ、育ってきたとき、初めて我々は、「成熟した精神」を身につけた人間へと成長していける。
⑦第7の壁:他責の壁
・失敗の原因を「外」に求めてしまう
■第7の技法:引き受けの技法
・起こったトラブルの「意味」を深く考える
・「逆境観」の転換。「逆境観」とは、人生で与えられる、苦労や困難、失敗や敗北、挫折や喪失、病気や事故、といった「逆境」というものを、どう捉えるかという人生観のこと。
・「イチローさん、あのハドソンという投手は、あなたにとって、できれば対戦したくない苦手のピッチャーですか?」「いえ、そうではありません。彼は、私というバッターの可能性を引き出してくれる素晴らしいピッチャーです。だから、私も修練をして、彼の可能性を引き出せるバッターになりたいですね」(イチロー)
・我々の人生において与えられる「逆境」とは、我々の可能性を引き出してくれる素晴らしい「機会」である。
・逆境の意味を考える力こそが「解釈力」
・「我以外、皆、我が師」(吉川英治)
今回もたくさんの学びと内省を得られた一冊でした。順調な時ほど振り返り、自分を戒め次に取り組むべき課題を認識し、具体的な行動を考える、そんな時間を持ってこそ、また毎日の質がレベルアップしていくのだろうなと思いました。
なぜ、優秀な人ほど成長が止まるのか ― 何歳からでも人生を拓く7つの技法
- 作者: 田坂広志
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