『なぜマネジメントが壁に突き当たるのか』(田坂広志)(◯)
本書は、著者が「私のマネジメント原論」と称されるもので、経営には様々な逆説がなぜ生まれるのか、どうすればそれらの壁を乗り越えられるのかという点を、「暗黙知の経営」の観点から、連続講義の形式で書かれた一冊です。14の逆説に対し語られる著者の考え方は実践的であり、内省にもつながる良書でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
①なぜ、優れたマネジャーは、「雄弁」よりも、むしろ「沈黙」によって深いメッセージを伝えることができるのか?
・「沈黙は金」「雄弁は銀」
・「我々は、知っていることを、すべて言葉にすることはできない」
・マネジメントには、「暗黙知」という世界が存在する。
②なぜ、意見を理路整然と語る「論理的」なマネジャーが、社内を説得することができないのか?
・論理の本質は「単純化」。企業という極めて複雑な存在を、単純な論理によって理解しようとするとき、「大切な何か」が見失われてしまう。
・企業全体をその複雑性のままに理解する手法が求められる。直観力や洞察力を用いることによって「大切な何か」を見失うことなく全体をありのままに理解することができる。
③なぜ、多くのマネジャーは、「直観力」が大切であることが分かっていても、なかなか、それを身につけることができないのか?
・直観力や洞察力というものは、「人為によって身につける能力」ではない。それは「気がついたら自然に身についている能力」。
・深い直観力が求められる重要な意思決定の場面において、最も大切なことは「何を選ぶか」ではなく、「いかなる心境で選ぶか」。
④なぜ、「原因究明」によって問題の原因を見出しても、それだけでは、問題
が解決しないのか?
・「問題分析」→「原因除去」→「問題解決」という直線的な思考こそが、現代の企業における「問題解決」を妨げている。企業における問題は、実は「直線構造」ではなく「循環構造」をしている。
・複雑系においては、「家族療法」に代表されるような「全体を同時に癒す」という発想を重視しなければならない。「全体観察」→「構造理解」→「要所加療」→「全体治癒」という思考。
⑤なぜ、経営においては、「矛盾」と見える問題を安易に解決すると、企業の生命力が失われてしまうのか?
・問題群の循環構造を「全体像」として捉えることなく、任意の部分で切断し、直線論理として理解しようとすると、「矛盾」のごとく見える問題が現れてくる。
・マネジメントにおいて大切なことは、直線論理で考えることによって生まれてくる「矛盾」に見える問題に個別に目を奪われることなく、様々な「矛盾」を含んだ問題群の全体像を理解すること。それによって、あくまでもそれら問題群の全体を同時に解決に向かわせていくこと。
⑥なぜ、会議で「多数」のメンバーが賛成する企画が必ずしも、成功するとは限らないのか?
・これからの「複雑系の時代」が「未来がどうなるか?」との客観的予測よりも、「未来をどうするか?」との主観的意志にこそ、大きな価値が置かれる時代になっていく。
・信念に支えられた「言葉の力」を持たないマネジャーは、企画を「説得力」をもって語ることはできない。信念がなければ、「リスクを取る」という覚悟を固めることもできない。
⑦なぜ、大胆な実行力のあるマネジャーが、ときに、神経質なほど、「細部」にこだわるのか?
・「気配りの細やかな人」という評価は、人間や人間集団の「こころの流れ」を読む力が優れていることを意味している。
・「細やか」なアドバイスをするためには、メンバーの力量や性格をどこまで深く理解しているか、そのアドバイスを行う瞬間のメンバーの状況や気持ちをどこまで深く理解しているかが問われる。
⑧なぜ、優れたマネジャーの技を「真似」しようとすると、若手社員は、バランスを崩してしまうのか?
・成功の「原因」と「結果」を混同してしまい、「結果」を「原因」であると考えてしまう。
・我々が、成功者や成功事例から学ぶべきは、何よりも、数多くの「成功要因」が織りなす「バランス」。
・「成功の体験」を持つマネジャーが、部下に対して伝えるべきは、その成功体験から学んだ「成功の方法」ではなく、その成功体験から掴んだ「体験の方法」。
⑨なぜ、豊かな「経験」を積んだマネジャーが、必ずしも、豊かな「知恵」を身につけていないのか?
・「経験はしても、体験はしていない」
・「問題意識」や「仮説」を土台として、「論理」によって突き詰める努力や「言葉」によって表現する努力を尽くしてみるとき、「論理」にも「言葉」にもならない「何か」が感じられる。それこそが「暗黙知」。
・「我々は、言葉にて語り得るものを語り尽くしたとき、言葉にて語り得ないものを知ることがあるだろう」(ヴィトゲンシュタイン)
⑩なぜ、「ベスト・チーム」を組織したつもりが、不協和音の多い集団になってしまうのか?
・「頭でわかったつもりになる」ということが、暗黙知の伝承において必ずと言って良いほど生じる過ち。
・「人間通」という力が身につく方法があるとすれば、それは、人間と「格闘」すること。
⑪なぜ、意のままに部下を動かそうとすると、かえって、部下は動かなくなるのか?
・部下に対してどれほどの好意を示し、どれほどの気配りを示しても、それが「部下のため」にではなく、「部下を動かすため」に行っていると感じられた瞬間に、部下は「動かない」。
・我々が「エゴ」を捨てることは不可能。しかし、我々は「エゴ」を見つめることはできる。マネジャーは、自分のこころの世界にある操作主義の動きに気づいていなければならない。
⑫なぜ、一生懸命に部下を「教育」しても、なかなか、部下が「成長」しないのか?
・部下が自然に育つためになすべきこと
1)成長の方法を教えること
2)成長の目標を持たせること(「位取りを決めさせよ」)
3)成長の場を創る
・我々マネジャーが成長し続けているならば、そこには必ず、メンバーを成長させる「空気」が生まれる。その「空気」こそが「成長の場」が生まれるための、最も大切な条件。
⑬なぜ、優秀なマネジャーの下で、かえって、優秀な部下が育たないのか?
・この不思議な現象には3つの理由が考えられる
1)「名監督ならず」だから
2)「優秀すぎる」から(部下の依存心)
3)「部下の成長」を望んでいない(ライバルにしてしまっている)
⑭なぜ、優れたマネジメントは、「サイエンス」を超えて、「アート」と呼ぶべきものになっていくのか?
・「暗黙知」を伝える3つの方法
1)否定法:言語を否定することにより暗黙知を伝達する
2)隠喩法:含蓄のある隠喩を語ることによって、想像力を喚起し、暗黙知を伝達する
3)指示法:暗黙知の内容そのものを直接伝えようとせず、どのような体験をすればその暗黙知を獲得することができるかを教え、その体験の方法を支持することによって、暗黙知を伝達する方法。
一つひとつがとても深く示唆に富んでいるので、全てを書ききれません。。。ここで得た示唆を実践し、悩み、考え、また実践する。終わりがない繰り返しですね。
なぜマネジメントが壁に突き当たるのか―成長するマネジャー12の心得
- 作者: 田坂広志
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2002/04/01
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