MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

大日経・金剛頂経(訳・解説:大角修)

大日経金剛頂経』(訳・解説:大角修)

 本書は、空海が伝えた2大密教経典の現代語訳です。少々難しい密教経典をわかりやすい言葉で解説しているという点では、とっつきやすい本でした。空海の著書を勉強しているとすぐに、この2つの経典に行き当たります。一旦、この2つの経典を見た上で、空海の著書に戻ってみると背景が分かって理解が進みます。そういう意味では、本書に行き当たるのはかなりマニアックかもしれません。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

大日如来

・マハーヴァイローチャナ(摩訶毘盧舎那)の漢訳で、万物をくまなく照らす日輪のごとき仏の意。「光明遍照」などとも訳される。その遍く照らす光を受けて、空(常に変化して固定した実体はないこと)を本質とする万物が、この現象界に無限に生起する。季節のめぐりや作物の稔り、星々の運行などの森羅万象の根源にある神秘な力の働きが大日如来であり、諸仏諸尊はもとより日本の神々にもなって現れるが大日如来自身は姿も形も無い。

・インド後期大乗仏教の段階で生まれた秘密仏教、すなわち密教の根本経典である大日経金剛頂経は、大日如来が姿を現し、金剛薩埵という菩薩に直接言葉をかけて教えを説くという内容。

 

真言宗

・この密教経典・論書や法具類を唐代の中国から大量にもたらして日本に本格的に伝えたのは真言宗の開祖=空海

真言宗密教は「東密」という。その名は空海嵯峨天皇から東寺(教王護国寺)を授かって都での密教の専門道場としたことによる。また、空海紀伊高野山金剛峯寺を開いた。その名は空海自身の命名で、漢訳金剛頂経の正式名称「金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経」による。

 

◯六十心(人々の心のあり方)

・貪心:染法(その都度の欲望)のままに生きている心

・無貪心:貪欲を離れて無染の法に従う心

・瞋恚(しんに):誰に対しても憎悪と怒りのままに接する心

・慈心:感情的な哀れみにとらわれる心

・癡心(ちしん):不観(まともに見ない)に従う愚かな心

・智心:世間の功利的な理に聡くそれに従う心

・決定心:世間で地位の高い人の言葉にすぐさま従う心

・疑心:どんなことも疑う迷いの心

・闇心:疑うべくもないことなのに疑う蒙昧の心

・明心:疑いを離れて修行する心

・積聚心:多様な物事の一つの面だけで判断する心

・闘心:互いに是非を論じて相手の欠点をせめる心

・諍心:どんなことでも自分の考えが正しいと争う心

・無諍心:是非ともに捨てる心

・天心:なんでも願いが叶うと思う心

・阿修羅心:来世を恐れず快楽に走り、闘争を好む心

・龍心:資財を多く得て願いを叶えようとする心

・人心:事故の利を求める打算から他人の利を考える心

・女心:過度の欲望に従う心

・自在心:なんでも自分の意のごとくなると思う心

・商人心:安値に仕入れて高値で売って利を得ようともくろむ心

・農夫心:いろいろに聞いて知識を得てから耕そうとする心

・河心:川が両岸に広がって流れるように、二つに囚われている心

・陂池心:水が流れ込んでも渇きを恐れて足ることを知らない心

・井心:浅い井戸でも深いと思うように、深く思う心

・守護心:自分の家宅を守るかのように自分だけが正しいと思う心

・慳心:他に与えることを嫌悪する心

・狸心:狸や猫が餌に心を奪われるように、供物や贈り物を喜ぶ心

・狗心:小さなことに満足して大きな望みは持たない心

・迦樓羅心:群れを頼りにする心

・鼠心:束縛を切ろうとする心

・歌詠心:いろいろに歌って人々の心を捉える心

・舞心:舞踏して人々の心を捉える心

・撃鼓心:我こそ法鼓を撃って世の人々を目覚めさせようとする心

・室宅心:自分の家に閉じこもるように自己を守ろうとする心

・獅子心:他を威圧する心

・鵂鶹心(くるしん):いつも暗夜に思いを向ける心

・烏心:あらゆることを恐れる臆病な心

・羅刹心:他の人の善行を見てもそれを認めない心

・窟心:洞窟にこもって独りで満足しているような心

・風心:どこにでも広がっていく風のような心

・水心:汚れを落とす水のように、不善を洗いすすぐ心

・火心:燃え盛る炎のように、一時は熱気があっても冷めやすい心

・泥心:自分の罪悪を他の人になすりつける心

・顕色心:染料のように何かに着くことによって色を出す付和雷同の心

・板心:水に浮かせた板は多くを積むと傾くと言って、善を捨てる心

・迷心:思うところと逆のことをしてしまう心

・毒薬心:何もかも無意味・無価値だと思い、善をなす余地のない心

・羂索心:縄で縛られているかのように邪険の自我にとらわれる心

・械心:両足に鉄枷をはめられているかのように束縛されている心

・雲心:いつも陰鬱な雨を思って晴れることのない心

・田心:農夫が田を耕すように自己の修練に専心する心

・塩心:塩が食物にしみとおるように、思いを反復し増幅する心

・剃刀心:剃髪して出家すれば良いと思うような狭量な心

・須弥等心:自分がまるで須弥山のように高いと思い上がる心

・海等心:海は多くの川の水を受けているのに自分だけの功績と思う心

・穴等心:抜け穴があって、一旦決めたこともすぐに変えてしまう心

・受生心:修行して来世に受ける身のことのみにとらわれている心

 

 心ひとつとっても60もの観点で書かれています。ひとつひとつが深く、考え始めるといくらでも時間が過ぎてしまう感覚です。内省しながら読むのも良いかもしれません。

全品現代語訳 大日経・金剛頂経 (角川ソフィア文庫)

全品現代語訳 大日経・金剛頂経 (角川ソフィア文庫)

 

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