『世界標準の経営理論』(入山章栄)<前半>(◯)
2020年1冊目ながら、早くも今年のBEST5に入るのではないかという内容でした。800ページ超とボリュームがあり、年末年始にかけて丸々1週間以上本書に費やしましたが、切り口といい、まとまりといい、分かりやすさといい、これはかなりの良書でした。本書は、フレームワークをベースにした経営戦略本とは一線を画し、「思考の軸」となる約30の理論をまとめた一冊。考え方に軸を置いているので、応用の範囲も広そうで、私の場合、コーチングでの課題解決やセルフマネジメントのコンテンツ開発などにも使えそうだと感じています。
これだけのボリュームと内容の本ですので、一度にご紹介するのは難しく、まずは概略だけをまとめておきます。
(印象に残ったところ・・本書より)
①SCP理論
・structure-conduct-performance:構造ー遂行ー業績
・その産業がそもそも儲かる構造になっているかどうかのメカニズムを体系化したもの
・完全競争から離れているほど(=すなわち独占に近い業界ほど)、安定して収益性が高い。企業にとって重要なのは、自社の競争環境をなるべく完全競争から引き離し、独占に近づけるための手を打つこと。
・完全競争と独占。程度としてどちらに近いか。
②SCP理論をベースにした戦略フレームワーク
・ファイブ・フォース
⇨産業構造・収益性の現状分析だけでなく、将来の予測に使うと有用性が増す、複数の階層・レベルで行うことが重要。
・戦略グループ
⇨自社と同業他社を、製品セグメント構造などをもとにグループ化する。
・ジェネリック戦略
⇨寺社が業界内でとっているポジショニングを検討する。
③リソース・ベースト・ビュー(RBV)
・命題1:企業リソースに価値があり、希少な時、その企業は競争優位を実現する
・命題2:さらにそのリソースが、模倣困難で、代替が難しい時、その企業は持続的な競争優位を実現する。この時リソースの模倣困難性は、蓄積経緯の独自性、因果曖昧性、社会的複雑性で特徴づけられる。
④SCP対RBV、および競争の型
〜(略)〜
⑤情報の経済学
・情報の非対称性:買い手・売り手の取引プレイヤーのどちらか一方だけが偏在的に特定の情報を持ち、もう一方がもたない状況。
・情報の非対称性はチャンスでもある。自社だけがその企業の私的情報を見抜く「目利き」ができれば、その情報は価値があって希少なものとなり、ライバルを出し抜くチャンスになる。
⑥情報の経済学(エージェンシー理論)
・取引が成立した後に組織で生じるモラルハザードを説明するのがエージェンシー理論。
・置かれた立場によって目指すところが異なる(目的の不一致)。会社制度の株主=経営陣間のモラルハザードを分析し、解消を目指すのがコーポレートガバナンス。
⑦取引費用理論(TCE)
・取引で発生するコストを最小化する形態・ガバナンスを見出すのが目的。その判断に重要なのが市場での取引コスト。
・企業の存在とは、市場における取引コストが高い部分を内部に取り込んだもの。
・相手の行動を合理的に予想しながら、互いの意思決定・行動の相互依存、関係メカニズムとその帰結を分析するもの。
・ゲーム理論には人の心の奥底にまで、合理性という一つの角度から鋭くメスを入れる力がある。
⑨リアル・オプション理論
・リアル・オプションの真髄とは、不確実性の高い状況で将来オプションを意図的につくり出し、逆に不確実性を活かすこと。
・リーン・スタートアップ:不確実性の高い環境下では、とりあえず実用最小限の機能の製品を作って売り、市場の反応を見て製品を変えながら再投入するサイクルを繰り返すべき。
・不確実性の4種類
1)確実に見通せる未来
2)他の可能性もある未来
3)可能性の範囲が見えている
4)全く読めない未来
・限定された合理性:人には合理的に意思決定をするが、しかしその認知力・情報処理力には限界がある。
・人は行動によって徐々に認知を外に広げると考える。行動の結果として新しいことを知った人は認知の範囲を少し広げるので、それを頼りにまた行動範囲を広げ、またさらに認知の範囲を広げていく。
⑪知の探索・知の進化理論
・イノベーションも組織学習も何かを経験することで学習し、新しい知を得て、それを成果として反映させる。
・知の探索は、サーチ、変化、リスク・テイキング、実験、遊び、柔軟性、発見、イノベーションといった言葉で捉えられるものを内包する。
・知の進化は、精練、選択、生産、効率、選択、導入、実行といった言葉で捉えられるものを内包する。
⑫組織の記憶の理論
・日本企業の課題の一つは、個人に知が保存されているのにそれが組織として引き出されないことにある。世界標準の経営理論では、組織として知を引き出すのに有用なのは、SMM(組織メンバー間の基本認識の共有)とTMS(組織内の知の分布)を引き出すことだと主張されている。
⑬組織の知識創造理論(SECIモデル)
個人が他者との直接対面による共感や、環境との相互作用を通じて暗黙知を獲得する。
個人間の暗黙知を対話・思索・メタファーなどを通して、概念や図像、仮説などをつくり、集団の形式知に変換する。
集団レベルの形式知を組み合わせて、物語や理論に体系化する。
組織レベルの形式知を実践し、成果として新たな価値を生み出すとともに、新たな暗黙知として個人・集団・組織レベルのノウハウとして体得する。
⑭認知心理学ベースの進化理論
・進化理論のルーティン:組織メンバーが似たような行動を繰り返すことで、それが意識しなくても、この組織では当然の行動としてパターン化され、埋め込まれていくこと。
・ルーティン:組織メンバーが同じ行動を繰り返すことで共有する、暗黙知と形式知を土台にした行動プロセスのパターン。
・ルーティンがもたらす効果は、安定化、記憶、進化。進化を促すようなルーティンでなければならない。
⑮ダイナミック・ケイパビリティ理論
・ケイパビリティとは、様々なリソースを組み合わせ直す企業の能力。
・ダイナミック・ケイパビリティとは、環境に合わせて変化する力を明らかにしようとするもの。急速に変化するビジネス環境の中で、変化に対応するために内外の様々なリソースを組み合わせ直し続ける企業固有の能力・ルーティン。