MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

世界標準の経営理論(入山章栄)<後半>

『世界標準の経営理論』(入山章栄)<後半>(◯)

 昨日の続きです。長いけどさらに深掘りしたまとめをしてみたい探究心に駆られる内容です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)
⑯リーダーシップの理論

・リーダーシップとは、CEO、キャプテンのような役職のこととは限らない。あくまで心理的に他者に変化をもたらすことを指す。変化、影響、動機がキーワード。

・トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL):自分の率いる組織がぶか(フォローワー)の目指していることといかに親和性があるかを啓蒙する。

・シェアードリーダーシップ(SL):メンバー一人ひとりが自律的にリーダーのように振る舞う。


⑰モチベーションの理論

・外発的動機:報酬・昇進など外部から与えられる影響で高まるモチベーションのこと。

・内発的動機:純粋に楽しみたい、やりたいといった内面から湧き上がるモチベーションのこと。

・TFL×SLの満ちた組織では、必然的に内発的動機の高い人が育つはず。このような組織は、個人のPMS(プロソーシャル・モチベーション:他者視点に立つモチベーション)も高めるはず。


認知バイアスの理論

・ハロー効果:顕著な特徴だけに基づいた印象を持ってしまうこと

・利用可能性バイアス:簡単に想起しやすい情報を優先的に引き出し、それに頼ってしまうバイアス

・対応バイアス:他者が何か事件に巻き込まれた時に、その本当の理由は周辺環境などにあるのに、理由を当事者(他者)の人柄・資質などに帰属させてしまう

・代表性バイアス:類似している事項の確率を過大評価しやすいバイアス


⑲意思決定の理論

・人のリスク性向には個人差があるし、それは置かれた状況・立場によっても変わりうる。それを踏まえて、自身にとって最大の期待効用をもたらす事業を選んで投資すべき(期待効用理論)。

・人の主観にうまく働きかけてリファレンス・ポイントを動かしてやれば、それは他人の意思決定に影響を与えうる(フレーミング効果)。

・利得の面を強調したフレーミングで選択肢を与えられた人は、リスク回避的な意思決定をしがちになる。逆に、損失を強調したフレーミングで選択肢を与えられた人は、リスク志向的な意思決定をしがちになる。


⑳感情の理論

・ポジティブ感情は、仕事への満足度を高めやすい

・ポジティブ感情は、モチベーションを高めやすい

・ポジティブ感情は、他者に協力的な態度を取ることを促す

・ネガティブ感情は、満足度を下げるのでサーチを促す

・ポジティブ感情は、知の探索を促す

・ネガティブ感情は、知の深化を促す

・ディープ・アクティング:まず自分の意識・注意・視点の方向を変化させることで、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させてから、それに合わせて自然に感情表現すること。

・感情を変える出発点は認知の側にある。日頃の仕事から多角的な視点、広い視点、他者視点を持つことの重要性をディープ・アクティングは示している。

 

㉑センスメイキング理論

・センスメイキング理論は、腹落ちの理論。より厳密には、組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得し、それを集約させるプロセスをとらえる理論。

・センスメイキングの全体像は、相対主義を前提として、主体(自身・自身のいる組織)と客体(周囲の環境)の関連性についてのダイナミックに循環するプロセスとして捉えられる。プロセスは大きく、循環の感知、解釈・意味づけ、行動・行為。

・組織の存在意義は、解釈の多義性を減らし、足並みをそろえることにある。

・組織・リーダーに求められるのは、多様な解釈の中から特定のものを選別し、それを意味づけ、周囲にそれを理解させ、納得・腹落ちしてもらい、組織全体での解釈の方向性を揃えること。

・イナクトメント:環境に行動を持って働きかけること。多義的な世界では、なんとなくの方向性でまず行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要がある。

 

㉒エンベデッドネス理論

・アームス・レングスな繋がり(市場取引)

 特性は市場メカニズム。意思決定の基盤は、合理性、利己性。

・埋め込まれた繋がり(人脈・社会ネットワーク)

 特性は相互依存と信用。意思決定の基盤は、ヒューリスティック、信用

ヒエラルキー上のつながり(企業の制度的な上下関係)

 特性は、監視・インセンティブ。意思決定の基盤は、合理性、利己性。

 

㉓弱いつながりの強さ理論

・人は弱い繋がりの人脈を豊かに持っていれば、遠くにある幅広い情報を、効率的に手に入れる。

・共同開発・技術ライセンスなど、両社のコミットメントが弱くて済むタイプのアライアンス(弱いつながり)を多く持つ企業ほど、事後的に利益率を高める。

・弱いつながりを豊かに持つことがイノベーションを引き起こす上で重要。

・弱いつながりの友達がシェアする情報は、シェアされた人にも目新しいことが多く、したがってさらに別の人にもそれをシェアしたくなる。

 

㉔ストラクチャル・ホール(SH)理論

・人のつながりにおいては単純に多くつながっていればいいというものではなく、その繋がり方の構造が重要である(つなぎ目になることが重要:SH)。

・自身の周辺のつながり(人脈)のネットワーク上で、SHが豊かな人ほどブローカレッジの効果(ソーシャルネットワーク上の2人をつなぐ人が一番得をする)により得をする。

 

ソーシャルキャピタル理論

ソーシャルキャピタルとは、複数の個人・集団の間に存在する善意のこと。その源泉は、プレーヤー関係の構造や内容にある。ソーシャルキャピタルは、プレーヤー間の情報伝播、感染・影響、団結力などに影響をもたらす。

・高密度で閉じたネットワークは、参加者になんのメリットももたらさない。しかし、実は閉じたネットワークだからこそ得られる効能もある。そのメカニズムを説明するのが、信頼、ノーム(暗黙の規範)、相互監視と制裁。

 

社会学ベースの制度理論

・同質化プレッシャー(圧力)こそが社会学ベースの制度理論の基本メカニズム。

・強制的圧力(政策、法律)

・模範的圧力(みながやっているから)

・規範的圧力(この職業はこうでなくてはならないという圧力)

 

㉗資源依存理論

・企業・組織のパワーに注目するのが最大の特徴。パワーのメカニズムを正面から解き明かす経営理論は、思いの外少ない。その数少ない例外が資源依存理論(RDT)。

・双方向の依存度の合計(ミューチュアル・ディペンデンス)が高いほど、互いが互いを必要するので、友好的にM&Aなどの吸収戦術が行われやすい。

 

㉘組織エコロジー理論

・自然選択の法則:多様な生物はDNAを変化させられないので、その時の外部環境に適応できる遺伝子を持つものだけが生き残り、対応できなかったものは選択・淘汰される。

・生き残り:突然変異で業界に多様な企業が生まれ、環境に適応できる個性を持った企業だけが生き残り、適応できない企業は淘汰される。

・VSRメカニズム:多様化→自然環境による淘汰・選択→生き残りの流れ

・組織のルーティン化:組織内部のオペレーションがルーティン化すれば、安定して同室の製品・サービスが提供できる。

・業界内でゼネラリスト企業間の競合度が高まるほど、その業界にいるスペシャリスト企業の死亡率が低下する。

 

エコロジーベースの進化理論

エコロジーベースの進化理論:組織はなぜ変化しにくいのか、それでもあえて変化を起こすには、といった組織内部のメカニズムを紐解く理論。多様化、選択、維持、苦闘のプロセス。

認知心理学ベースの進化理論:人は認知に限界があるので、組織内の行動をルーティン化させて記憶し、それが組織の継続的な進化にもつながりうるし、逆に硬直化におmつながる。

・人は同質の人だけを選びがちで、企業ないで同質化が進んだ人々がまた外から同質の人を選び、さらに同質になった企業はその後も同質の人を選び続けるというプロセスが繰り返され、極度に組織の同質化が進む。

 

㉚レッドクイーン理論

・キツネとウサギの生存競争は、結果として両社の足をどんどん速くする。キツネとウサギが共に進化する。人・生物はただ全力で走っても、競争相手も全力で走っているから、相対的にそれは現状維持に過ぎない。相手より早く走りたいなら、進化しなければならない。しかし、それは競争相手に進化も促す。そして相手の進化はさらに自信を進化させる。このように、互いに生き残りをかけて競っている限り、共進化の循環は永久に止まらない。

・捕食関係にある生物種同士が競い合って進化し合うこの子の循環を「レッドクイーン効果」という。レッドクイーン理論は、切磋琢磨を説明する経営理論。

・企業はライバルとの競争が激しいほど、自信を進化させること(サーチ)を怠らないので、結果として生き延びやすくなる。

・レッドクイーン競争をする企業は当該領域で生き残れても、他領域に進出した時、あるいは大きな環境変化に見舞われた時、そこで生き残れなくなる。知の深化だけを進めてきた企業は認知の範囲が狭く、対応力が失われている(新レッドクイーン理論)。日本メーカーは特定領域で切磋琢磨してきたからこそ強かったのであり、しかしそれは逆に環境が一変すると敗北の最大の要因になる。ガラパゴス化もその表れ。

世界標準の経営理論

世界標準の経営理論

 

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