MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

両利きの組織をつくる(加藤雅則、チャールズ・A・オライリー他)

『両利きの組織をつくる』(加藤雅則、チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シューデ)(◯)

 VUCAと呼ばれる目まぐるしく変わる現代社会。そんな中で従来型の大企業がどのように既存事業を守りながら、新規事業を立ち上げていくのか。2019年に『両利きの経営』の日本語訳が発売され、脚光を浴びているテーマの事例を紹介しているのが本書です。AGC(旧旭硝子)に2002年から関わっていらっしゃる著者(加藤氏『組織は変われるか』で有名)が実際に間近でみられた事例をまとめていらっしゃいます。二兎を追う戦略、既存事業の文化に押しつぶされないように新規事業を軌道に乗せる観点を学ぶのに適しています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯今必要な組織経営論

・組織能力とは、組織内の人の繋がり方・機能の組み合わせによって生まれる、組織の実行力のこと。

・戦略と組織を両輪とする組織経営論の視点に立って、これから必要となる組織能力を培っていくこと。それが著者の考える「組織開発」という活動。

 

◯組織が次の段階へ進むために

・一連のプロセスを辿る必要がある

①自社の存在目的を再定義する(組織アイデンティティ

②どの領域で自車は生き残るのかを見極める(戦略的ポジショニング・位置取り)

③それをどう実現するのかを決める(実行するやり方)

・このプロセスを実行するには、自社が既に持っている強みを軸足として活かしつつ、新たな事業領域の探索を可能とする経営手法が必要となる。

・「両利きの経営」を実現するには、次の3つの組織能力を形成することが求められる。

①既存の事業を深掘りする組織能力

②新しい事業機会を探索する組織能力

③相矛盾する二つの能力を併存させる組織能力

 

◯「両利きの経営」とは何か

・「両利きの経営」とは、既存事業の「深掘り」と新しい事業機会の「探索」を両立させる経営のこと。

オライリーはよく「両利きの経営」のことを「同じ屋根の下で、異なる成長段階の事業が同居している経営」と表現する。

・「両利きの経営」の核心は、「既存の事業を深掘りする」という組織能力と「新しい事業機会を探索する」という組織能力、さらにこれら二つの相矛盾する組織能力を併存させる組織能力という、三つの組織能力の獲得を目指すことにある。そのためには、各々の能力形成を可能とする組織カルチャー(仕事のやり方)をマネジメントすることが大切なのだ。

 

◯コングルエンス・モデル

・コングルエンス・モデルでは、ダイナミックな活動体である組織を4つの基本要素で捉える。①KSF、②人材、③公式の組織、④組織カルチャーの4要素。コングルエンス・モデルの原則は、「基本要素間のアラインメントが取れて、初めて組織は機能する」ということだ。

・アライメントの移行は、以下の点で非常に難易度の高い課題。

①恐怖心が生じる

②時間がかかる

③新旧アラインメントの差異が大きい

・自分でも不安を抱えながらいざ試そうとしているときに、「うちがやる意味はあるのか?」「本当か?」「大丈夫か?」「着地点はどこか?」と何度も問いただされると、チャレンジする気概も失せてしまうだろう。経営者が意図的な支援と保護をしない限り、探索事業は既存の事業の組織カルチャーに殺されてしまう(駆逐されてしまう)というリアルな実態があるのだ。

 

◯両利きの経営が有効となる条件

・戦略上の重要性×既存事業の資産をレバレッジできる可能性

①戦略上の重要性(高い)×既存事業の資産をレバレッジできる可能性(高い)=両機器の経営

②戦略上の重要性(高い)×既存事業の資産をレバレッジできる可能性(低い)=別会社(出島方式)

③戦略上の重要性(低い)×既存事業の資産をレバレッジできる可能性(高い)=既存事業・アウトソーシング

④戦略上の重要性(低い)×既存事業の資産をレバレッジできる可能性(低い)=スピンアウト(売却)

 

◯既存事業と新規事業をつなぐ組織プロセス

①着想(アイティエーション)

②育成(インキュベーション

③量産化(スケーリング)

 

◯経営者の最大の役割は意思表示と価値判断

・経営トップが変革に向けた意思を示し、変革期における自らの役割を担うことが出発点

・①トップの意志表示が契機となって、②トップダインとミドルアップの絶妙な組み合わせが生まれ、③トップの価値判断によって組織の進化が可能となる。

 

◯経営者にとっての組織開発

①組織を「変える」のではなく、組織が「変わる」を支援する取り組み

 まず当事者同士が組織の現状に対する共通認識を醸成する必要がある

②組織の能力開発

 組織開発を始める上で大切なのは「現場の困りごと」からスタートすること

③能力発揮のルート・ファインディング

 事務局が経営者の問題意識を動かしていくためには、経営の意思を実現する組織を作るという目的論から入り、組織経営の見取り図(ビッグ・ピクチャー)を提示することが必要

④組織感情のマネジメント

1)新しく何を始める必要があるのか?

2)そのために、何を諦める必要があるのか?

3)一方で、何は継続(強化)するのか?

⑤経営に対する信頼醸成

 自己一致感を生み出す鍵は、「自分問題の一部である」というトップの自覚

 

 本書を読むにあたって『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー)はセットになるものだと思います。理論と事例という感じで両書を読むと理解がうかまっていくと思います。参入障壁や規模の利益で稼いできた大企業が、時代の移り変わりが早くなる中で、両利きで事業展開せざるを得ない足元の状況。変わりたくても変われない。それでも変わらなければならない状況下でAGCの事例はとても参考になると思います。

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