MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

本の読み方(平野啓一郎)

『本の読み方』(平野啓一郎)(◯)

スロー・リーディングの実践」と題された本書。速読のデメリットを突きつつ、多読するよりも一冊をじっくり読んだ方が結局は良いと言うことが伝わってくる一冊です。小説、文学作品、そして私の場合は、内省目的の本もこの領域。ビジネス本や知識本は調べもの(又は新聞・雑誌)に近い感じなので、スロー・リーディングはしませんが、速読をしない(学んだことがないし、速読本を読んだこともない)私にとっては、価値観が近く共感できた内容でした。本書半ば以降は、文学作品の読み方をスロー・リーディングするとどうなるかという解説がされており、これがまた興味深いです。今年読んだ中ではかなり良い本でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

スロー・リーディングとは

・一冊の本にできるだけ時間をかけ、ゆっくりと読むこと。

・一冊の本を価値あるものにするかどうかは、読み方次第。

・ざっと読む読み方では、スロー・リーダーが楽しむことのできた本の中の様々な仕掛けや、意味深い一節、絶妙な表現などを、みんな見落としてしまっている可能性がある。スロー・リーディングは、得をする読書、損をしない読書。

・仕事にも応用できる。スロー・リーディングで読書のコツを身につければ、たとえ速読が必要な場合でも、どこに注意しながら読めば良いかわかるので、誤読を減らすことができ、思わぬ失敗を防ぐことができる

 

◯速読家の知識は単なる脂肪である

・1ヶ月に100冊読んだとか、1000冊読んだとか言って自慢している人は、ラーメン屋の大食いチャレンジで、15分間に五玉食べたなどと自慢しているのと何も変わらない。

・速読とは「明日のための読書」。慌ただしい朝の時間に新聞をざっと斜め読みするようなもの。スロー・リーディングは、「5年後、10年後のための読書」。長い目で見た時に、間違いなく、その人に人間的な厚みを与え、本当に自分の身についた教養を授けてくれるだろう。

たとえ全体として70%は理解していたとしても、その曖昧な30%の部分に決定的な間違いが入っている可能性がある。

 

◯助詞・助動詞に注意する

・動詞や名詞を生かすも殺すも、助詞、助動詞次第。速読の1番の問題点は、名詞や動詞を拾うことに注意を奪われて、この助詞、助動詞を疎かにしてしまうこと。

・文章が上手くなりたいと思う人は、スロー・リーディングしながら、特に好きな作家の助詞や助動詞の使い方に注意する。

 

◯遅読こそ知読

・「考える」という行為こそが、読書にとっては最も重要なこと。速読とは、要するにアタマを使わない読書のこと。

・「読まなければいけない」という焦りは、読書を貧しくするだけである。単に情報処理の速度を上げることが目的なら、読書は無意味だろう。主体的に考える力を伸ばすこと。これこそが、読書の本来の目的である。

 

◯人に説明することを前提に読む

・読後に誰かに説明することを前提に本を読んでいくと、分からない部分は読み返すようになり、理解する能力も自然に高まっていく。

 

◯傍線と印の読書

・学生の頃には、赤ペンや蛍光ペンで線を引きながら、教科書や参考書を読んだという人も多かっただろう。理由は、もちろん、その方が内容がよく頭に入るからだ。

・気になる箇所に線を引いたり、印をつけたりする習慣をつけておくと、内容の理解が一段と深まる。特に、難しい本を読む時に、この方法は有効だ。

・まずは、大切だと思う部分に傍線を引く。あるいは、波線を引いたり、カギ括弧でくくったりする。要は、印をつけるという行為が重要。キーワードになりそうな言葉は、丸や四角で囲んで、特に強調しておこう。

・接続詞に印をつける。特に注意すべきは、「しかし」。「しかし」という接続詞が出てきたときには、そのすぐあとの部分に注目すると、作者の主張がよく理解できる。

・「第一に/第二に」「一つに/二つに」「そもそも/加えて」「まず/それに」などは、並列的(あるいは補助的)に事実を列挙した部分であるから、やはり◯などでチェックしておくと、論点を整理し、かつ網羅できる。

 

 スロー・リーディングが万能という訳ではないと思いますが、本の持っている(本でしかできないかも)良さが引き出せる読み方だと思います。知識系や情報入手であれば、本でなくても、代替手段がたくさんありますしね。読書自体が目的化しないようにしないとですね。

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