MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

墨子(浅野裕一)

墨子』(浅野裕一

 中国春秋時代末、墨子によって創始された墨家の学団は、約200年間、巨大な静慮を維持して、思想界を儒家と二分する存在だった。秦による中国再統一から帝国の滅亡などの中で突如姿を消し、以後約2000年間『墨子』はほとんど読む人もいないままに放置され絶学の道を辿った。失われた部分も多く、現存する中から抜粋して内容が紹介されています。「兼愛」の教えや侵略戦争を否定する「非攻」の思想を唱える独自の思想は、君主にとっては危険と映ったかもしれないし、焚書坑儒の中で弾圧されたのかもしれない、この謎の多い墨子ですが、いろいろな書評等を見てみると評判が良いので読んでみました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯為政者は民衆の模範(尚同上篇)

・民が初めて生じた太古の時代には、まだ刑罰の規定も統治者の政令も存在しなかったため、定めし人民は、それぞれに内容の異なる義を(正しい道と信じて)口にしていたことである。そのせいで、一人いれば一つの義があり、二人いれば二つの義があり、十人いれば十の義がある、といった具合で、人数が多くなるにつれ、唱えられる義の数もまた、ますます増加したのである。

・そこで人々は、自己の信ずる義こそ正しいとし、他人の信奉する義を誤りだと判断した。ために人類は、お互いに相手を非難し合うこととなった。その結果、家庭内では、父と子、兄と弟ですら、恨み合い憎しみあって袂を分かち、一つに調和できない状態に陥った。

 

◯他人を犠牲に利益を得るな(兼愛上篇)

・混乱がどのような原因から生じてくるかを考えてみると、相互に愛し合わないとの原因から発生している。

<解説より>

 墨家が兼愛論を説く目的は、世界の混乱を収拾して、新しい安定的秩序をもたらそうとする一点にある。

 多様な混乱現象は、根本的には全く共通の原因より生じている。第一の原因は、他者を犠牲とする手段によって、自己の利益を計ろうとする精神と行為である。墨家は万人を「人をかきて自ら利す」る行為へと導く、「自愛」の精神こそが、世界秩序を破壊し、社会を混乱に陥れてきた根本原因である。

 

◯資源の節約は富の倍増(節用上篇)

・聖人の政治が利益を倍増できるのは、決して自国の外部に領土を拡大するからではない。時刻に依拠しながら、国内で無益な浪費を取り除いていけば、それで十分に利益を倍増できる。

・およそ聖人がこれらの器物を製造する場合には、人間に実利を増やさないのに作るということはしない。だからこそ、それらの製作に使用する財貨を浪費せず、それらの製造に使役する人民の生産能力も疲労させずに、広く新たな利益を興せるのである。

・さらにまた、為政者たちが道楽である真珠や宝石、珍奇な鳥獣や猟犬・駿馬などを収拾・飼育することをやめ、その費用で実用的な衣服や住居、甲や盾や五種の武器、舟や車などの数を増そうとすれば、以前に数倍させることすら、決してできない相談ではない。

 

◯勤勉だけが不幸を追い払う(非命上篇)

・言論には必ず基準を立てなければいけない。

・言論には三種の基準が必要。

①本づけること

 上は言説の拠り所を古代聖王の事績中に求めていく

②直(たず)ねること

 下々の民家の実際の感じ方に、原説の根拠を探り求めていく

③用いること

 言説の内容を君主の命令として国内に布告し、現実の政策としてみて、それが国家や民衆の利益にどのように適合するかを観察し、その実際の結果に原説を見出す。

 

◯十論の形成

能力主義を唱える尚賢
②各段階の統治者に従えとする尚同
③自己と他者を等しく愛せと説く兼愛
侵略戦争を否定する非攻
⑤⑥節約を訴える節用・節葬
⑦⑧天帝や鬼神に従えとする天志・明鬼
⑨音楽への耽溺を戒める非楽
⑩宿命を否定する非命

 

孔子」「孟子」「老子」「荘子」「孫子」「韓非子」・・・のように「◯◯子」ってたくさんありますよね!「子」は先生という意味。この中で、「墨子」って・・・誰??って思っていました。売れない先生なんじゃないかと。なんせ「孔子」を非難し儒家に対抗して、君子には弱国に攻め入るなと伝え、節制せよと諭す。あと、2500年ほどあとの話だったら流行っていたかもしれませんね。そんな墨子はマイナーだけれど、「人気がなくてマイナー」なのか、統治者から見たら危険分子だから「流行らないように仕向けられ」のか。どうも後者っぽく、『新釈漢文体系』で上下巻を買ったので、漢文から読み解いてみようかと思っています。

墨子 (講談社学術文庫)

墨子 (講談社学術文庫)

  • 作者:浅野 裕一
  • 発売日: 1998/03/10
  • メディア: 文庫
 

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