『藩校・私塾の思想と教育』(沖田行司)
江戸時代の教育であった藩校と私塾。教育は現代に至るまで様々に形を変えていますが、武士の教育の精神・しつけが現代に生きている部分もあります。また、自分を律する力など、生き方に影響を及ぼす教育が色濃かったのも特徴であると思います。本書では、前半を藩校、後半を私塾に分け、その教育の成り立ちや教えの要点がまとめられており、少し長い時間軸で生き方教育について考えることができる一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
・学規
①講書は四書五経・小学・近思録等の書を用い註解は程朱の説を主として妄りに異説を雑(まじ)へ論ずべからず。読書は経伝より歴史百家の書に至るべし。尤も不正の書を読むべからず。
②専ら礼儀を正しくして学業を勤め妄りに戯言戯動すべからず。
③疑は互いに問難すべし。専らその言を譲り我意を捨てて人に従ふべし。
④古道を論じ古人を議して当時の事を是非すべからず。
⑤才学長ずる者あらば褒め進むべし。忌み悪むことあるべからず。
⑥末々の者たりとも学文に志厚き者は講義の席に加ふべし。
⑦入学の輩は字紙を惜しみ火燭を慎むべし。
・宮本武蔵の『独行道』
①世々の道にそむく事なし
②身にたのしみをたくまず
③よろづに依怙の心なし
④身をあさく思、世をふかく思ふ
⑤一生の間よくしん思はず
⑥我事において後悔をせず
⑦善悪に他をねたむ心なし
⑧いづれの道にも、わかれをかなしまず
⑨自他共にうらみかこつこころなし
⑩れんぽの道思ひよるこころなし
⑪物毎にすきこのむ事なし
⑫私宅においてのぞむ心なし
⑬身ひとつに美食をこのまず
⑭末々代物なる古き道具所持せず
⑮わが身にいたり物いみする事なし
⑯兵具は各別、よの道具たしなまず
⑰道においては、死をいとはず思ふ
⑱老身に財賓所領もちゆるなし
⑲佛神は貴し、佛神をたのまず
⑳身を捨ても名利はすてず
㉑常に兵法の道をはなれず
◯日新館(会津藩)
・什の掟
①年長者のいうことに背いてはなりませぬ。
②年長者にはお辞儀をせねばなりませぬ。
③虚言をいうことはなりませぬ。
④卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ。
⑤弱いものをいじめてはなりませぬ。
⑥戸外で物を食べてはなりませぬ。
⑦戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ。
藩校の教えで特に多いのが、四書五経です。『論語』『孟子』『大学』『中庸』『易経』『詩経』『書経』『礼記』『春秋』 。中国古典の日本に与えた影響について、藩校の教えを見るだけでも、その大きさを感じます。